映画賞シーズンを迎えているアメリカだが、受賞スピーチでパレスチナ・ガザ地区への連帯を表明する著名人はほとんどいない。
そういった中、ロサンゼルスで3月10日(現地時間)に開かれた第96回アカデミー賞授賞式で、国際長編映画賞を受賞した『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督が、ホロコースト(ナチスドイツによるユダヤ人の迫害・虐殺)を利用してガザへの攻撃を正当化してはいけないと訴えた。
グレイザー監督はイギリス出身のユダヤ人で『関心領域』はアウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす家族を描いた作品だ。
同監督は受賞のステージで「私たちの選択すべては、今の自分を映し出し、突きつけます。それは『過去に誰が何をしたか』ではなく――私たちが今何をしているかに目を向けさせます」と語りかけた。
「私たちの作品は、人間性の喪失が最悪の事態を招くということを伝えています。それは私たちの過去だけでなく、現在を形作っています」
「私たちは、ユダヤ人とホロコーストを乗っ取って、罪のない多くの人々を巻き込んだ紛争の原因となった占領を正当化しようとするのを拒む人間として、ここに立っています」
「10月7日のイスラエルの人々、現在攻撃されているガザの人たち――すべてが人間性の喪失による犠牲者です。私たちはどのように抵抗すればいいのでしょうか?」
『関心領域』では、広く快適な家で恵まれた生活を送りながら、隣にあるアウシュビッツ強制収容所を監督するナチスの司令官とその家族の日常が描かれている。
同作は2月に開かれた英国アカデミー賞(BAFTA)でも非英語作品賞を受賞している。
その受賞スピーチでは、プロデューサーのジェームズ・ウィルソン氏が、映画を観た友人から「自分たちが日常生活の中に築き、向こう側を見ないようにしている壁について考えずにはいられなかった」と書かれた手紙をもらったというエピソードを紹介した。
「その壁は新しいものではなく、ホロコースト以前、最中、以後にも存在している。それは、私たちがガザやイエメンで罪のない人々が殺されていることを気に掛けなければいけないということをはっきり伝えている。マリウポリやイスラエル、世界のその他の場所で罪のない人々が殺されているのを考えるのと同じように......。そのような場所のことを考えさせる映画にしてくれて、ありがとう」
グレイザー監督とウィルソン氏のスピーチには拍手が起きたものの、授賞式でガザについて語るハリウッドの著名人はほとんどいない。
アカデミー賞のスピーチでガザについて明確に言及したのは、グレイザー監督だけだった。
そういったハリウッドの姿勢に不満を感じている人たちは少なくない。アカデミー賞授賞式の前には、会場のドルビー・シアター近くでデモが行われ、式の開始が遅れた。
一方で、俳優のマーク・ラファロさんやマハーシャラ・アリさん、リズ・アーメッドさん、ラミー・ユセフさん、歌手のビリー・アイリッシュさんなどは、ガザへの即時停戦や人道支援を訴える赤いピンバッジを付けて参加した。
また、映画『落下の解剖学』に出演した俳優ミロ・マシャド・グラネールとスワン・アルローさんは、パレスチナの旗をモチーフにしたバッジを着用した。
アルローさんは「10月7日以来、あまりにも多くの人々が死んでいます。止めなければいけない。これは人間性の問題だ。停戦を」とレッドカーペットのインタビューで述べている。
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。