最近のAIブームは凄いものがありますが、多くの本が出版されている中、甘利俊一先生の「脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス) 」はとても良かったです。
技術的な内容に加え、AIの研究が現在に至るまでの歴史が書かれており、とても勉強になりました。
そして何よりも驚くのは、この本を書かれている甘利先生が80歳であるという事実です。
本では甘利先生の今までのご自身の研究や生き様を総括された上で、今後やるべき研究について述べられています。
伝え聞くところによると、今でも現役で研究をされているそうで、失礼ながらご年齢を考えると「ばけもの」です。
実は私は東大工学部の応用物理(略して応物、学科としてはその中の物理工学科に私は所属)の出身です。甘利先生も応物ですので、同じ場所で修士も含めると3年間を過ごさせて頂きました。
しかし、当時の自分は感度が悪く、「甘利先生って変なことをやっているな・・・」くらいの認識でした。
恥ずかしながら、一度も甘利先生の講義を選択せず、今から考えると貴重な機会を自ら捨ててしまっていたわけです。
大学を卒業してから20年以上たって、今更、甘利先生の仕事をご著書で勉強するとは思いませんでした。学生の時に講義を取っておけばよかったのに・・・
さて、このような(失礼ながら)「ばけもの」のような研究者は甘利先生以外にもおられます。
「50代のオジサンは使えない」という特集が雑誌にのるように、年を取るにつれて役に立たなくなってしまう人が多い一方、何歳になっても仕事の第一線で活躍されている方はいます。
大学でも、定年になる時まで研究の第一線で活躍される方は少なくありません。
研究や技術以外の世界でも、そんな方はおられますよね。
功成り名を遂げているのに、遮二無二頑張り続け、業績を挙げ続ける方は、なぜそこまで頑張るのだろう、と私も若い時には不思議に感じていました。
忙しすぎて、階段から落ちたり、何かにぶつかって怪我をしたり、ものをなくしたり。そんなに無理しなければいいのに。
このように高齢になっても頑張り続け、成果を出し続ける方のモチベーションは何だろう?、と若い時には不思議に思っていました。
自分も年を取るにつれて少しわかってきた気がするのは、年をとっても遮二無二頑張り成果を出し続ける方はきっと、その仕事が本当に好きなんだと思います。
ワーカホリックのように長時間没頭していても苦にならない。
技術者や研究者に限らないかもしれませんが、年を取っても価値を出せる人は、好きな事、得意な分野で、若いとき以上に馬車馬になって働いているのではないでしょうか。
自分も年を取るにつれ、新しい事を学ぶ効率や集中力は落ちてきていると思います。
若い人と同じ土俵で競ってはひとたまりもありません。
当然、過去の経験に根差した、できるだけ若い人と競わない土俵を選ぶわけですが、それでも若い時以上に頑張らないと、生き残れません。
40才を過ぎても活躍しているスポーツ選手は、若い時以上に練習をしているようですね。42歳でも現役を続け、「投手が安打を放った最多連続年数」という記録まで持つ、プロ野球の横浜ベイスターズの三浦選手のインタビュー記事からの引用です。
「肉体的な衰えも進行している...それは毎年あるよ。もう30代半ばから、ずっとある。だから、こうやって練習するんだよ。球場に来る時間も(年々)早くなって、準備する時間がどんどん長くなっている。」(ハマの番長が語った"引き際の美学"より引用)
スポーツ選手ほどではないにしろ、エンジニアや他の仕事でも同様ではないでしょうか。
急速に変わる技術や環境についていくには、若い時以上の努力をするのが当然で、過去に実績がある人でも、油断して努力を怠ったら、引退や失職に追い込まれるのは、スポーツ選手だけではない。
また、自分もそうですが、年を取るにつれてこだわりが強くなり、好きな仕事しかやりたくない、この仕事は嫌だとなりがちになります。
それが周囲の環境と合わなければ、ただの「使えないおじさん」になるわけです。
ですから、若い時に好きな仕事を見つける、そして年を取るにつれて、その仕事を徹底的にやる。これしか年をとって生き残る道はないのではないか。
一方、若い時にそれなりに活躍していたのに、年をとってダメになった人もたくさん居ますよね。
なぜこの人はこんなになってしまったのか?、と言われる人。
そういう人は好きな事、没頭できる仕事を見つけられなかったんでしょうね。
サボって見えますが、ある意味で気の毒です。
結局のところ、年と共に時間を掛けて頑張らないと、若い人に負ける。若い時以上に頑張るには、長時間没頭しても苦にならない好きな事を仕事にしないと、もたない。
就職活動の時など、若い人に向けて「好きなことを仕事にしよう」というアドバイスがありますね。
実は若い時に好きな仕事を見つけられないと、年を取ってから厳しいよ、というのが実際にオジサンになった感想です。
(2016年9月10日「竹内研究室の日記」より転載)