神宮球場は改修できないの?建築家に壊さなくてもいい案を聞いた【神宮外苑再開発】

神宮外苑再開発で壊される予定の神宮球場。しかし古い甲子園はシーズンオフを利用して改修されています。神宮球場も改修できないのでしょうか?
神宮球場
神宮球場
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東京・神宮外苑の再開発は、神宮球場と秩父宮ラグビー場を取り壊し、場所を入れ替えた上で建て替える計画で進められている。

この計画について、事業者や東京都は「神宮球場は老朽化などの問題を抱えており、試合開催を中断せずに同じ場所で建て替えるのは難しい」と説明している。

しかしこの建て替えにより、多くの樹木が伐採されるほか、新しい球場の壁が接近していちょう並木に大きなダメージを与える可能性があると指摘されている。さらに、「スクラップ&ビルド」形式により大量のCO2が排出されることも問題となる。

神宮球場より古い甲子園は2007〜2010年の3期をかけて、シーズンオフを利用して改修工事をしており、神宮球場も同様にできると主張する建築家もいる。

建築家や技術者の集まり「新建築家技術者集団(以下、新建)」も、2022年から移転新築ではなく、改修を訴えてきた

神宮球場や秩父宮ラグビー場は改修可能なのだろうか。同集団に所属する建築家の小林良雄さん、若山徹さん、柳澤泰博さん、事務局の山下千佳さんに新建が提案する改修案を聞いた。

事業者が建て替えを必要とする理由

事業者は神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替えが必要な理由について、ハフポスト日本版の取材で具体的に次のような点を挙げた

・バリアフリー問題:球場の構造やスペースの狭さのためにエレベーターが設置できず、内野エリアのバリアフリー化に課題がある

・球場外のスペース不足:球場の周りのスペースが狭く、歩行者と車両の動線が分離できていない

・球場内コンコースの狭さ:コンコースが狭く、客や店舗スタッフで混み合っている

・バックヤード不足:プロ野球を開催する球場として通常備わっている球場内の練習場、選手・関係者専用動線、駐車場、会議室、ゴミ処理スペースなどが他球場と比べて不十分

・工期不足:工事期間は1年間で野球のシーズンオフの3.5カ月しか確保できず、大規模リニューアル工事は不可能

一方、新建に所属する小林さんらは「改修の可否を判断するために、現在の神宮球場の詳細な図面が必要」とした上で、事業者が挙げている問題は、次のような方法で解消できるのではないかと説明する。

内野のバリアフリーはできる?

【新建の提案】球場の外側にエレベーターを設置する

神宮球場の外側のアーケード部分に設置されている喫煙所
神宮球場の外側のアーケード部分に設置されている喫煙所
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現在の神宮球場は、球場の外のアーケード部分に喫煙コーナーがある。

小林さんは、この喫煙コーナーと同じように外側、アーケード部分にエレベーターシャフト(エレベータが昇降する空間)を立てることで、車椅子でも内野席へのアクセスが可能になるのではないかと話す(外野にはすでに車椅子席がある)。

神宮球場は、階段を上がって内野席に出る造りになっている。その階段上部に、外側に設置したエレベーターからアクセスできれば、バリアフリー化が可能になるというわけだ。

小林さんは「球場の外側、アーケード部分に鉄骨でエレベーターシャフトを建て、外壁に開口を設けて、階段上部の通路に上がれるようにできるのではないかと思います。シャフトの部材は前もって工場で製作するので現場では、基礎とピットを前もって造っておき、組み立てと機械据え付けですみます」と話す。

神宮球場の内野は、入り口を入ったホールの左右に外壁に沿った階段を上がった先を曲がり、観客席に出る造りになっている。新建の案はこの階段上部の通路に上がれるエレベーターを外側に建てるというもの
神宮球場の内野は、入り口を入ったホールの左右に外壁に沿った階段を上がった先を曲がり、観客席に出る造りになっている。新建の案はこの階段上部の通路に上がれるエレベーターを外側に建てるというもの
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歩車分離はどうする?

【新建の提案】球場の外周壁のまわりにデッキを設置して、上を歩行者、下を車が通行するようにする 

新建は神宮球場の周りにデッキを設置して歩車分離を可能にする構想を提案する
新建は神宮球場の周りにデッキを設置して歩車分離を可能にする構想を提案する
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小林さんは「外観は多少変わりますが、鉄骨柱を立てて球場の周りの通路の上部にデッキを作り、デッキの上を人が、下を車が通ることで歩車分離はできるのではないでしょうか」と話す。

「デッキの登り口は第二球場があった外野側に幅広く設けるという方法も考えられます(※第二球場は再開発で解体される予定)。そこにエレベーターシャフトも立てて、車椅子でも上のデッキに登れるようにしたらよい。ただし、デッキを回す範囲はバスなどの大型車両を入れる範囲の検討と合わせて決める必要があろうかと思います」

「デッキから球場内への入り口は、先ほどお話ししたエレベーターシャフトと同じように、外壁に開口部を設けて、内野席につながる階段上部の通路につなげる方法が考えられます」

さらに、小林さんはこのデッキ設置に加えて内外野のスタンド最上部を増築すれば、席数も増やせるのではないかと話す。

現在の神宮球場は席幅が比較的狭く、改修で席幅を広げた場合、席数は今より減ると考えられる。

横浜スタジアムや楽天モバイルパーク宮城では、内外野の最上部を増築して、客席を増やしてきた。

小林さんは、こういった球場同様にスタンド最上部を増築し、デッキを支える鉄骨柱を上部に伸ばした鉄骨で支えれば良いのではないかと話す。

「第二球場がなくなるので、レフト側の外野席は比較的容易に伸ばせるのではないかと思います」

「具体例として横浜ベイスターズの本拠地、横浜スタジアムが関内駅からアプローチする外野席の外周にデッキを鉄骨で増設し、かつ、その鉄骨柱を伸ばして席を増やしています」

コンコースの狭さとバックヤード不足をどうするか

神宮球場 内野のコンコース
神宮球場 内野のコンコース
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小林さんは「既存の詳細図面による検討が必要」としつつ、こう提案する。

【新建の提案】
コンコース:両側の壁が構造上必要なら、一部を取り払う際に代わる柱を鉄骨で立てて必要な幅をとる

バックヤード:デッキを設置することで人が通らなくなる球場の外の1階部分のアーケードのスペースを現在の喫煙スペースのように活用する。また広い会議室などが必要なら、横浜スタジアムのようにメインスタンド正面前に増築することや、第二球場があったスペースの一部に別棟で建てるなどが考えられる

同時に、小林さんや柳澤さんは狭さや密集を「古い歴史ある球場のにぎわいや魅力」と捉え、多少の不便があっても現在使っており、無理にコンコースの幅を広げなくともいいのではとも話す。

「神宮球場は、2022年のベースボールマガジンに掲載された好きなプロ野球球場で2位でした。1位は横浜スタジアム、3位は甲子園、いずれも空が広くて開放的な球場です。神宮球場は都会にありながら緑に囲まれていることも評価されています。そういった魅力のある場所ですから、多少の混雑も、味わいとして楽しむこともできると思います」

神宮球場
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工期の問題は解決できる?

【新建の提案】第二球場跡地を資材置き場などに使い、現地での作業を最小限にとどめて、オフシーズンで改修する

事業者は「神宮球場は甲子園と違い、⼯期を確保できる運営環境や敷地面積が整っていない」として、現地改修ができないと判断している。

しかし小林さんらは、第二球場跡地を資材置き場として使用できるのではないかと話す。

現在の神宮外苑の施設配置図。小林さんらは、第二球場の跡地を活用できるのではないかと話す
現在の神宮外苑の施設配置図。小林さんらは、第二球場の跡地を活用できるのではないかと話す
東京都・神宮外苑地区におけるまちづくりファクトシート

さらに、工事の進め方については「現地での作業は、生のコンクリートを流し込む基礎部分など最小限にとどめて、その他は工場で部材を作り、組み立てるだけですむプランをよく練ることで解決できると思います」と述べる。

「現在の再開発計画での神宮球場の完成は2036年で今から13年後です。それと比較すれば、改修工事も1年でやる必要はないのではないでしょうか」

「甲子園だけに限らず、色々な球場が少しずつ増築したり、席を加えたりして改修しており、なぜできないと決めつけるのか球場側、事業者の現在の説明では理解しかねます」

この点について、工学博士で千葉商科大学学長の原科幸彦さんも、「高速道路が隣接し、周辺のスペースが狭い甲子園でさえ、改修工事はできました。神宮球場の方が条件は良いはずです」と述べる。

神宮球場は、2013年〜16年まで3年かけて耐震補強工事をしている。

原科氏は「だから、現在は老朽化という状況ではない。球場の機能を現代に合わせるための改修で済むはずだ」と話す。

「耐震改修は既に済んでおり、いま検討が必要なのは仕様を変えるための改修で、球場を使いながら工事は可能です。仕様変更の内容によりますが、与えられた制約条件の中で機能を強化する、イノベーティブなアプローチで対応できます。

秩父宮ラグビー場の改修は可能か

秩父宮ラグビー場(2023年2月8日)
秩父宮ラグビー場(2023年2月8日)
AFP=時事

秩父宮ラグビー場の改修についてはどうだろうか。

事業者は「築76年を迎える秩父宮ラグビー場は施設全般の老朽化が激しく、ユニバーサルデザインの導入など多様なニーズへの対応が必要だが、改修・増築や現在地の建て替えでは実現不可能」としている。

しかし、柳澤さんは「築76年というのは開設した1947年当時からの経年です。メインスタンドは1976年9月完成で、築76年ではなく47年です。適切な耐震改修は充分に可能だと思います」と話す。

小林さんも「秩父宮ラグビー場は外から見て、主な柱や梁の組み立て、仕組みがシンプルな架構で単純な構造なので、耐震補強や改修は容易にできるのではないか」と話す。

「また、必要な施設があれば、現在の施設から張り出して増築し、広場側に柱を立て1階は通行可能として、2階以上に、それを入れるなどが考えられます」

さらに工期については▽シーズン中は他ラグビー場や必要なら国立競技場で試合をして集中的に工事する方法▽秩父宮で試合を続けながら、夏のオフシーズンを使い必要な年月をかける方法、の2つが考えられると小林さんらは述べる。

「1976年完成の現在のメインのスタンドを建設した時にはシーズン中も工事し、早明戦などは国立競技場を使いました。当時と比べ、ラグビー場は現在関東圏に増えており、それらの競技場や大学のラグビー部が使っているグランド、観客が多い試合は国立競技場を使うことで、1〜2年使わなくても支障はなくゲームを組めるのではないでしょうか」 

「スクラップ&ビルド」は古い

(上から)秩父宮ラグビー場、明治神宮野球場、神宮第二球場。2020年04月14日に撮影。第二球場は現在解体されている
(上から)秩父宮ラグビー場、明治神宮野球場、神宮第二球場。2020年04月14日に撮影。第二球場は現在解体されている
時事

マンションなどの建物改修に詳しい新建の事務局員の山下千佳さんによると、ヨーロッパでは「スクラップ&ビルド」ではなく、現存の建物を維持管理して消費エネルギーを減らすという方向に向かっている。

また、建物の改修やまちづくりをする際には、市民の声や様々な技術者の案を募集しているといい、山下さんは「神宮外苑再開発においても、そのようなアプローチが必要ではないか」と話す。

そういった民主的な方法で様々な改修案を検討するために必要なのが、冒頭でも述べた神宮球場の詳細な図面だ。

新建の提案も、図面に照らし合わさなければ可否を判断するのが難しい。

一方、事業者側は図面について「防犯上の理由もあり、図面の公開はしていない」とハフポスト日本版の取材に回答した。

しかし、小林さんらは「神宮球場が東京六大学野球連盟が資金を負担して建設されたこと、都市計画公園区域内の施設であることの公共性を考えれば、明治神宮は詳細図面を公開し、保存、建て替えに関心のある多くの建築家、建築技術者が検討できるようにすべきです。また、球場側が課題を整理して提示し、解決案を公開コンペで募集すれば、きっと優れた案が得られるでしょう」と述べる。

神宮球場
神宮球場
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神宮球場は、1926年に神宮外苑とともに完成した球場で、戦前から東京六大学野球などが行われてきた。

秩父宮ラグビー場も、大学OBがお金を持ち寄ったり時計やカメラを売ったりして建設資金を集め、選手らの勤労奉仕も加わって完成したという経緯がある。

柳澤さんは「神宮球場も秩父宮ラグビー場も、先人たちが作り上げ大切に守ってきた各競技の聖地とされる場所です。この場所のこの施設を守り引き継ぐという基本的理念こそが大切だと思います」と話す。

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