神宮球場は、明治神宮外苑の再開発で移転し建て替える計画になっている。
しかし、ホワイティングさんはこの建て替えは野球ファンの期待を裏切るもので、周囲の環境を破壊しかねないと訴えている。
建て替えが野球ファンの期待を裏切る5つの理由
神宮球場は1926年に完成し、まもなく100年を迎える歴史ある野球場だ。
プロ野球では東京ヤクルトスワローズの本拠地であり、東京六大学などが行われる「大学野球の聖地」としても知られる。
ホワイティングさんはまだ外野席がなかった1960年代から通っており、大好きな球場だという。
「あのベーブ・ルースがプレーした現存する野球場のひとつでもあり、世界野球史上においても記念碑的な存在だとも言えます」とその価値を強調する。
ホワイティングさんは、5つの理由から建て替えの問題を指摘している。
1. 周りに超高層ビルが建ち、野球環境が悪化する
3. アーチ状の「回廊」など、球場の建築的価値が失われる
4. 神宮外苑のシンボル・イチョウ並木にダメージを与える
5. 膨大なCO2と建築廃棄物が発生する。
野球環境が悪化
再開発により新球場の周りには190メートル、185メートル、80メートルといった高層ビル群が建設される。
ホワイティングさんは、この高層ビルにより、神宮球場でファンが愛してきた青空や夕焼け、満月などの美しい景観が奪われると指摘。強烈なビル風が吹きつけ、試合に大きく影響するだろうとも述べる。
さらに、この高層ビルに加えて新球場にも60メートルのホテル棟が併設されるため、「実質的な野球場部分、特に外野席が圧縮される可能性がある」と懸念を示す。
一般市民が野球から疎外される
事業者側は再開発について「スポーツを核としたまちづくりをする」と説明している。
しかし実際は、再開発で神宮第二球場が取り壊され、軟式野球グラウンド(絵画館前広場)や室内球技場、バッティング・センター、ゴルフ練習場、フットサルコートも廃止になる。
ホワイティングさんは、「今回の計画は市民からスポーツの機会を奪う」と批判。
「アマチュアを閉め出す改悪は、神宮外苑創建の精神をないがしろにするものです」と訴えている。
歴史的な建造物が失われる
神宮球場は、重要文化財である聖徳記念絵画館と同じ建築家・小林政一によって設計された。
アーチ状の美しいアーケード型「回廊」など、球場そのものが文化財としての価値がある、貴重な建造物だ。
それが、再開発ですべて破壊されてしまうことについて、ホワイティングさんは「歴史的文化財が失われてしまうことを、黙って見過ごすわけにはいかない」と危機感を表明している。
いちょう並木にダメージ
再開発で大きな問題の一つになっているのが、外苑のシンボルであるいちょう並木に与えるダメージだ。
建て替えではなく改修を
同じく神宮外苑にある秩父宮ラグビー場では、建て替えではなく改修を求める署名活動が立ち上がっている。
ホワイティングさんは、神宮球場も改修すべきだと訴えている。
例に挙げるのが、阪神甲子園球場や、ボストン・レッドソックスの本拠地「フェンウェイ・パーク」、シカゴ・カブスの本拠地「リグレー・フィールド」だ。
甲子園は2007〜2010年の3期かけ、シーズンオフを利用して改修工事をした。
フェンウェイ・パークとリグレー・フィールドは、それぞれ1912年、1914年にオープンし神宮球場より古いが、改修を重ねながら現在に至る。そして、その価値が評価されて国定歴史建造物に指定されている。
ホワイティングさんは、この2つの球場にアメリカの人たちは「特別な魅力を感じている」とハフポスト日本版の取材でコメントした。
「もしシカゴ市がリグレー・フィールドを取り壊して新しい球場を立てるといったら、暴動が起きるでしょう。ボストンでも同じです。同じ気持ちを、日本の人たちも甲子園に対して感じるのではないでしょうか」
「明治神宮球場の解体は、日本にとって大きな損失になると思います。都会の喧騒の中に存在する美しく静かなオアシスを、大きなショッピングモールに変えるのです。高層ビルによるビル風や影が、球場の雰囲気を台無しにしてしまいます。神宮球場は改修が必要ですが、それは今ある環境や雰囲気を守りながらできます」
ホワイティングさんの署名には、立ち上げから3日で1万2000人を超える人々が賛同しており、「文化や自然を残してほしい」「環境にも負荷をかけない改修で神宮球場を残したい」といったコメントや、野球ファンからの応援の声が寄せられている。
ホワイティングさんは、歴史的球場と神宮外苑の100年の森は、一度失われれば取り戻すことはできない、と強調。日本や野球にとって大切な場所を守るために、一人でも多くの人に一緒に声をあげてほしいと求めている。