神宮外苑再開発「都は市民の利益を最優先すべき」認可取り消しを訴訟で求める

近隣に住む原告は、再開発で地元住民は「騒音被害」「風害問題」「人流変化」の3つの問題を被ると訴えた

東京・明治神宮外苑の再開発計画の認可取り消しを求める訴訟の第1回口頭弁論が6月29日、東京地裁(岡田幸人裁判長)で行われた。

この裁判の原告は、周辺地域の住民を含む市民や専門家、環境活動家ら59人。

東京都と小池百合子都知事を相手取り、神宮外苑再開発の認可取り消しと賠償、事業の執行停止を求めている

この日は原告側が口頭で意見陳述を行った。都側は争う姿勢を示した。

入廷する原告ら(2023年6月29日)
入廷する原告ら(2023年6月29日)
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問題になっている神宮外苑の再開発とは?

神宮外苑は、約100年前に国民の献木や勤労奉仕で作られた公園で、緑豊かな空間が都心の貴重なオアシスとなってきた。

再開発では、この場所にある神宮球場と秩父宮ラグビー場を場所を交代して建て替えるほか、高さ190メートルや185メートルなど、複数の高層ビルが建築される。

その工事の過程で多くの樹木が伐採され、景観が損なわれることに対して、市民の反対運動が1年以上続いている。

また専門家は、新しい神宮球場の壁が、外苑のシンボルであるいちょう並木の間近まで迫るため、根を傷つけていちょうを衰退させると警鐘を鳴らしているほか、事業者が提出した評価書に「誤りや虚偽がある」と指摘してきた。

しかし、小池都知事は2月に事業を認可。これを受け、原告は、再開発で東京都の貴重な景観や生態系が失われる上、そもそも認可の前提となっている環境影響評価のやり方自体に問題があるとして、2月に東京都と小池知事を提訴した。

地元住民が指摘する3つの問題

29日の口頭弁論で、意見陳述した原告代表で都内在住の経営コンサルタント、ロッシェル・カップさんは、再開発により100年前に国民の手で作られた特別な都市遺産が喪失の危機にある、と主張。

大量の樹木を伐採し、改修が可能な野球場とラグビー場を建て替えることは「事業者を監督すべき立場にある東京都が掲げる、SDGsやCO2削減という目標に逆行している」と述べた。

原告のひとりで、神宮外苑に隣接する北青山一丁目住宅自治会の近藤良夫会長は、再開発で地元住民は「騒音被害」「風害問題」「人流変化」の3つの問題を被ると語った。

原告側が騒音を引き起こすと考えているのは、野球場からの音だ。神宮球場は再開発の移設により、外苑の東側にある都営住宅との距離が約80メートルと現在の半分になる。

事業者は新野球場から近隣住宅までの騒音レベルを55dB程度と予測しているが、全国環境研協議会の調査によると、55dBは役所の窓口周辺の騒音の目安だ。

近藤さんは「観客数が2〜3万人にもなり、アルコール類を飲む人たちがいて、鐘や太鼓で応援する野球場の騒音が、コンビニの中や、ファミリーレストラン(いずれの場合も63dB)より静かとは思えない」「年間500を超える多くの試合やイベントの開催で、新球場による新たな騒音被害が生まれるのは明白です」と訴えた。

風害について、事業者側は風に関する環境は現状とほぼ変わらず、植栽等の防風対策で環境は改善されるとしている。

近藤さんはこの予測も疑問視し「伊藤忠本社ビル前の前は今でも風が強い日には大人が歩くのも大変で、本社ビルが建設された後には風が強い日は生徒が飛ばされて危険であるため、近くの小学校は通学路を変更した」と説明。

その上で、今回の再開発で伊藤忠本社ビルが90メートルから190メートルと倍になるにも関わらず風の影響は変わらないというのは大きな疑問だ、と述べた。

さらに今回の再開発で、多く集客を見込む野球場や190メートル、185メートルの高層ビルはすべて、地下鉄・外苑前駅近くに建設される。

近藤さんは、これまで神宮球場の最寄駅は信濃町駅など5つあったが、再開発により外苑前駅と青山一丁目駅に乗降客が集中して地元住民が駅利用を制限されかねない、と訴えた。

都側はこれまでの手続きに落ち度はないなどとして、裁判で争う構えを示した。

東京都の責任を問う裁判

カップさんは審理後の記者会見で、東京都の再開発の進め方がこれで良いのかを司法に判断してほしいと思い、裁判を提訴したと語った。

東京都は、環境影響評価審議会で「このままではゴーサインを出すのは難しい」と懸念が示されされている中で、事業を認可した。

カップさんはそういったプロセスを問題視し「市民の利益を最優先すべき東京都はなぜ、市民の利益より事業者の利益だけを考えているのでしょうか。(東京都が)事業者と一緒になって進めているという状況は、本当にそれでいいのか?司法が判断する必要性を感じて、この訴訟を起こしました」と述べた。

記者会見するロッシェル・カップさん(2023年6月29日)
記者会見するロッシェル・カップさん(2023年6月29日)
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また、原告側の山下幸夫弁護士は、東京都には再開発に関する責任がある、と強調した。

「都知事は、責任があるのは民間の事業者だと言っていますが、認可したのは間違いなく東京都知事です。段取りもすべて東京都が行い、都市計画や環境評価に関する審議会を経て認可をしているわけですから、東京都に責任があることは明らかです。そこを問うのがこの裁判の意義です」

カップさんが立ち上げた、再開発見直しを求める署名は、この日までに21万人以上が賛同している。

また29日には、事業者の一つである三井不動産の株主総会が開催される帝国ホテル前で抗議活動が行われ、参加者が再開発を見直して樹木を守るよう訴えた。

再開発を見直しを求める抗議デモ(2023年6月29日)
再開発を見直しを求める抗議デモ(2023年6月29日)
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