渋谷や新宿など大都市と隣接し、都会のオアシスになっている明治神宮外苑。
ここに植えられている約1000本の樹木が、再開発計画のために伐採されようとしている。
この計画に対し、「神宮外苑1000本の樹木を切らないで」と求める署名活動が立ち上がった。2月25日午前9時時点で、4万9250人が署名している。
現状ある樹木の半数以上が伐採対象
樹木が伐採されるのは、神宮外苑地区の公園まちづくり計画に伴う措置だ。
この計画では、神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替えに加えて、ホテルや、高さがそれぞれ185メートル、190メートルある高層ビルの建設が予定されている。
計画の主な事業者は「三井不動産」「伊藤忠商事」「明治神宮」「日本スポーツ振興センター(JSC)」だ。
中央大研究開発機構の石川幹子教授(都市環境計画専門)は2022年1月、4事業者側が都に提出した都市計画案を踏まえて現地調査を行った。
航空写真と比較しながら、計画図の中で消えている樹木を1本1本現地で確認した結果、1000本近い樹木が伐採されることがわかった。
これは現状ある樹木の半数以上にあたり、樹齢100年以上の大木が数多く含まれるという。
さらに石川教授によると、今回の事業区域は、大正15年に制定された風致地区(良好な景観を維持する場所)の中でも最も重要な地域であり、風致地区条例により「既存樹木は極力残存させるもの」とされている。
伐採について、東京都はハフポスト日本版に「事業者に対しては、今後の詳細な調査をしてなるべく保存または移植をするよう働きかけたい」「やむを得ず伐採する場合でも、植樹で従前よりも本数は多くなる。丁寧な対応をしながら進めていきたい」と回答した。
「日本を代表する文化的景観」が失われる
石川教授が懸念する最大の問題は「歴史・文化の破壊」だ。
神宮外苑は、日本初の風致地区に指定された場所。絵画館前の地域の樹木はほとんどが大正期に植えられたもので、「日本を代表する文化的景観」だという。
石川教授は、「樹木を考えることは歴史と文化を尊重する社会の原点」と説明する。
「例えば、日本の伝統的庭園は、その様式にしたがって植樹が行われており、『ビルを建てるから新しい樹木を植えればいい』という主張に納得できる人はいないと思います。神宮外苑は、日本の近代を代表する『開かれた庭園』として創り出されたもので、文化を捉える懐の深い視点が、東京都や三井不動産、明治神宮などには必要であると考えます」
また、樹齢100年を超える樹木の移植について、「樹幹や根が健全であれば、移植はできますが、樹形は『電信柱』のように強剪定となりますので、樹木の有する本来の美しさは、完全に失われます。また、コストが莫大なものとなりますし、どこに移植するかも不明です」と懸念する。
そして「生物多様性が失われ、SDGsにも逆行する動きです」とも指摘する。
ユネスコの諮問機関である「イコモス」の日本国内委員会も「神宮外苑は国際社会に誇る『公共性・公益性の高い文化資産』であり、破壊することなく次世代へと継承していくべき」とする提言書を発表。計画案の見直しを求めている。
石川教授は「新しい樹木を植えるのは当然ですが、時間の積み重ねによる歴史・文化は、回復できません」「東京都は、これを世界に誇ることはできないと思います」と強調する。
もっと広く話し合うべき
東京都が計画の詳細を公表したのは2021年12月14日で、縦覧期間は2週間だけだったという。
東京新聞によると、2月9日に開かれた東京都都市計画審議会では、「丁寧に説明するべきだ」「地球温暖化への対応では、緑を増やすのが流れで、逆行しているように見える」「議論が尽くされていない」など反対意見が出たものの、都市計画案は賛成多数で可決された。
石川教授は「今回は都市計画案の縦覧が12月14日で、意見書の締め切りは12月28日。ほとんどの市民が知らないうちに、2月9日に都市計画決定となってしまいました。せめて議決をせず、広く都民と話しあうという努力はすべきだったと思います」と指摘した。
再開発計画見直しの署名を立ち上げたのは、経営コンサルタントのロッシェル・カップ氏だ。
カップ氏は署名の中で「一度失われた木はもう元には戻りません」と強調。
「このような環境破壊は、都が掲げているSDGsやCO2の削減を目指すという目標に真っ向から矛盾する計画です。本気でこの目標に向き合い、計画の見直しすることを求めます」と訴えている。
カップ氏は集まった署名を伝える要望書を、3月初めに小池百合子都知事に提出する予定だ。
要望書では、環境への影響について具体的な説明が行われていないことなどを指摘しており、市民に対する丁寧な説明やヒアリング、ディスカッションを行うよう求めている。