「神宮外苑の樹木を守りましょう!」
再開発計画で、多くの樹木が伐採される予定の明治神宮外苑で6月5日、計画見直しを求めるデモと署名活動が行われた。
デモを企画したのは、伐採反対の署名活動をしている大学生の楠本夏花さんと叔母の楠本淳子さんだ。
近くのカフェにいる人たちにもこの計画について知ってもらいたいと、神宮外苑のシンボルであるいちょう並木を歩き、計画反対の声を上げた。
環境面でも文化面でも影響
再開発計画では、1000本近い樹木が伐採される予定になっており、再開発後のCO2排出量は、年間約4万7000トンと試算されている。
また、神宮外苑は日本初の風致地区で、伐採対象になっている聖徳記念絵画館前エリアの樹木は、ほとんどが樹齢100年を超える。
風致地区条例により極力残すべきとされている樹木をこのまま伐採すれば「日本を代表する文化的景観」が失われる、と専門家は警鐘を鳴らしている。
楠本さんは署名を立ち上げた2月に、友人と神宮外苑でのビラ配りを始めた。その時に3人だった参加者は、6月5日は30人近くに増えた。
集まったのは若者だけではなく、様々な世代の人たち。「神宮外苑の樹木を皆で守りましょう。ご協力をお願いします」と呼びかけると、散策中の人たちや、この日神宮球場で開催されていた試合に向かう野球ファンらが足を止め、署名に応じた。
SNSでも拡散「私たちが動かないと」
楠本さんと一緒に署名活動に参加した若者たちは、どんな思いで声を上げているのだろうか。
18歳の大学1年生の参加者は、楠本さんの中高時代からの友人だ。約1万人のフォロワーがいるInstagramでも活動のことを伝え、署名への賛同を訴えている。
「若い子の中には、政治的なことを怖いとか、食いつきにくいと感じる人もいますし、私もそう感じていたこともあります。でも、将来大切な人ができた時のことなどを考えたら、やっぱり政治的なことは大切だと思います。私のような若い人が発言することで、興味を持ってもらえる人もいるかなと思い、インスタなどでも活動をしています」と話す。
政治的な活動への抵抗感を感じていたにも関わらず、活動に加わったのは「声を上げなければ変わらない」という思いからだったという。
「政治面などでなんかちょっとおかしいな、日本やばいんじゃないみたいな小さな違和感みたいなのが重なって、これから大人になる私たちが動かないと、という気持ちからちょっとずつ変わっていった感じです」
楠本さんの後輩で、東洋英和女学院中学部3年の東嬉乃さんは、Instagramでこの活動を知った。元々環境問題に興味があったという東さん。少しでも力になれたら、という思いから参加したと語った。
「自分が今やっていることが少しでも、この後の地球や木、子どもたちとかに役に立てていたらいいなと思います」
東さんは東京都や事業者に対し、市民の意見に耳を傾け、一緒に協力して街づくりをしてほしいと望んでいる。
声を上げ続け、署名は100から1万に
署名数は6月5日、オンラインと手書きを合わせて、合計1万439筆になった。
楠本さんは翌6日に、集まった署名と請願書を東京都庁に提出。
請願書では、樹木の伐採の回避や、軟式野球場など一般市民が利用できる施設の保持、歴史的建造物である明治神宮球場の取り壊しではなく改修保存、さらに東京都が掲げているSDGsやCO2削減目標と再開発計画の矛盾などについて、小池知事に所見を回答するよう求めている。
さらに、楠本さんは署名を再開発の事業者である「三井不動産」「明治神宮」「日本スポーツ振興センター」「伊藤忠商事」にも、6月半ばまでに届ける予定だ。
この再開発を巡り、ユネスコの諮問機関である「イコモス」の日本国内委員会が4月に、2本の伐採ですむ代替案を発表。
楠本さんはこの案を採用して、できる限り樹木を守る形で再開発を進めてほしいと願っている。また、もっと多くの人にこの計画を知ってもらうためにも、署名活動を続けていく。
「初めて外苑前の街頭で署名活動をした時の100筆が、この4カ月で1万筆を超えて改めて、社会に何か問題だと感じたことがあった時に声を上げ続けることの大切さを実感しています。私たちの未来や次の世代の未来に、高層ビルではなく自然と人間が共存した緑があふれる東京を残すために、これからも声を上げ続けようと思います」