2017年11月、辞退のニュースはフランス中を駆け巡った。
フランス東部・モンソー=レ=ミーヌでレストランを営む料理人のジェローム・ブロショ氏が、2005年に獲得していた「ミシュランガイド」の1つ星評価を取り下げてもらうよう、ミシュラン側に申し出ていたのだ。
しかし驚いたことに、2018年2月5日に発表された「ミシュランガイド2018」では、ブロショ氏のお店が変わらず「1つ星レストラン」として掲載されていた。
ブロショ氏の辞退理由
「このお手紙でわたしは、あなた方が2005年に授けてくださった星を、お返しするつもりだということをお知らせします」と以前にブロショ氏はミシュラン側に書き送っていた。
「星を頂いてからというもの、わたしは仲間と一緒に走り続けてきました。第一には、お客さまに喜んでもらうためですが、同時に、あなた方が毎年毎年更新してくれる『信頼のマーク』に、敬意を表するためでもありました。今日では、わたしは美しい物語の終わりに達したと思っています」
ブロショ氏が1つ星の辞退を決めた大きな理由は、メニューの値段を引き下げられるようにするためだった。かつて鉱山があった地域にあるブロショ氏のレストランは、その立地条件の悪さから、移転問題や十分な顧客が得られないなどの経営上の問題を抱えていた。価格の引き下げは苦肉の策だった。
ブロショ氏は今後、通常ミシュランで「星付け」されたレストランの相場よりも、ぐっと価格を抑えた料理を提供することを決断していた。例えば以前では、飲み物込みで95ユーロ(約1万2700円)だったところを、25ユーロ(約3300円)のメニューを導入していくという話だった。
予想外の「1つ星」、「みんなのための星」へ
ところが蓋を開けてみれば、ブロショ氏のレストランは、2018年のガイドで再び「1つ星」の評価を維持していた。ブロショ氏自身、今年度はむしろ、より手頃な価格でおいしい料理を提供する飲食店に与えられる「ビブグルマン」のマークを予想していたにもかかわらずだ。
ミシュラン側はなぜ、「星の評価」よりは名声という点で少し劣るものの、本人の希望があったビブグルマンを与えずに、1つ星を更新することにしたのだろう。
フランスのグルメ専門サイト「Atabula」はこう考察する。「財政的に脆弱な環境で、もがきながら進んできたシェフに1つ星を再び与えることで、ビバンダム(ミシュランのマスコットキャラクター。日本では「ミシュランマン」としても知られる)は『みんなのための星』に一役買うことにしたのだ」
またブランショ氏自身は、「ミシュランが星を維持してくれて、『星付けされた大衆料理』をこれからは提供できるということで、とても嬉しく思っています」と喜びをあらわにしつつ、こう推察する。「星付きレストランがどんな難しさにぶつかっているのかを、理解してくれたのでしょう」
「ミシュランの星付きレストラン」が感じる重圧
およそ14年前から、ブロショ氏は、「ミシュランで星を獲得するようなレストラン」にふさわしい高みを目指し、維持するため、料理の研究やレストランの経営に多くの投資を行ってきた。
ミシュラン側はいかなる価格設定も強要していないものの、ある種の「相場」が暗黙のうちに存在している。それゆえ、「私たちはトリュフや高級魚といった、値段の張る食材を使っているのです」。とはいえブロショ氏も言うように、「自分たちで勝手にプレッシャーを感じているのかもしれない」ともいう。
真価が試される2019年
ブロショ氏にとっては、真価が試されるのは2019年ということになる。
「1年後にわたしの星がキープされているか、とくと見ておきましょう。それを待ちながら、こんな具合に続けて、人々が家から出て、わたしの店で素敵な夜を過ごしてもらえるよう、日々精進します」
ハフポスト・フランス版より翻訳・加筆しました。