日本企業が非日本人社員を活用出来ない?

多くの非日本人社員が、自分のキャリアの将来性が、日本にある親会社の正社員である同僚の日本人社員と比較して限られていると感じている。

人口減少と国内経済の見通しの停滞により、多くの日本企業にとって、企業の発展と成功は日本の国境を越えたところにあることが明らかとなってきている。これは、既に国外に進出している企業にとっては、操業のグローバル化を更に拡大し、新しい市場を開拓し、これまで関連していなかった部門にまで国際化を推進することにあたる。これまで国外に進出していなかった企業にとっては、海外の企業を買収し、海外での操業拠点を設置することを意味している。その結果、日本企業では、海外とのビジネスに必要なスキルを備えた人材が、ますます必要となってきている。しかし、日本企業はグローバル化に関するニーズをすべて日本人社員だけに頼ることはできないのが現実だ。さらに、海外勤務を望む若い日本人社員が減少していることも、日本人社員の予備要員の幅を狭くしている。日本企業は今後、才能のある非日本人社員を採用し活用する必要性がある。

日本企業の一部では、非日本人社員を本社で雇用する試みを始めているところもある。これは歓迎すべき試みではあるが、非日本人社員は数年で辞職してしまうことがほとんどだ 。海外拠点でも、現地採用社員の出入りが激しい。また、現地で優秀な人材を惹きつけることに困難を感じている。

日本企業が非日本人社員の活用できないのはなぜだろうか。その理由はいくつもあるが、ここではその概略を述べることにする。短期的な問題として、日本企業が日本式の伝統的な人事管理アプローチを海外拠点でもそのまま実施し、昇進のペースが遅いことや、報酬が業績ベースではないことなどを含めた、現地の標準に合わない慣行を持ち込んでいることが挙げられる。海外拠点のマネジメントは大抵短期的な視点から実行され、社員教育への投資の欠如、給与やその他の福利厚生で倹約しようとする態度がみられる。仕事の多くが日本語で行われることも、非日本人社員が疎外感を感じる原因を作っている。その結果、非日本人社員は常に仕事の主流から取り残され、補佐役に格下げされていると感じている。

これらの短期的視点から見た問題に加えて、長期的な視点からみたとき、多くの非日本人社員が、自分のキャリアの将来性が、日本にある親会社の正社員である同僚の日本人社員と比較して限られていると感じている。管理職には何年かおきに日本から人材が派遣されてきて、その職に現地採用が雇用されることはない。多くの非日本人社員が、どんなに業績をあげても、組織内での出世が限られていると感じている。私はこの現象を、女性社員が昇進に際して直面する目に見えない障壁「グラスシーリング(ガラスの天井)」という表現をもじって「ライスペーパーシーリング」と名付けた。日本企業で働く非日本人社員が直面する昇進の障壁だ。

ライスペーパーシーリング現象の原因は、日本企業における多目的の正社員と、使い捨ての非正規社員の二階層システムが、海外拠点に持ち込まれていることにある。日本企業の海外拠点で現地採用された社員のほとんどは、どんなに高い地位の職務であっても、日本の親会社の正社員ではなく、子会社の社員に過ぎない。つまり、現地採用の社員は、親会社がコントロールするシステムに接続されておらず、そのため将来管理職へと進む道が開かれていない。同様に、日本においても、非日本人社員は大抵の場合、契約社員として採用されており、正社員ではない。(私の著書『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』参照)

最近、日本企業の多くが、日本の本社に「グローバル人事」の機能(部門またはセクション)を設置している。これは、企業の社員全体を統合的な方法でグローバルに管理するための、重要な第一歩である。それでは次に、グローバル人事またはその他の方法を通じて、海外拠点での社員を管理する方法を変え、それらの社員の能力を最大限に活用できるようにするには、企業は何をする必要があるかについて考察してみよう。

グローバル規模の社員名簿:より包括的な人事システムに向けた単純な最初のステップ

単純(かつ安価)な最初のステップを築くことは、非日本人社員を組織全般に完全に融合させるための、将来のより野心的な努力の基盤となる。このステップは、企業の海外拠点で現地採用されたマネジャーの名簿を作ることである。可能であれば、マネジャーレベル以下のすべての社員または将来マネジャーとなる可能性のある社員の名前も記載することが望まれる 。包括的な名簿を作ることで、現地採用のマネジャーの背景、スキル、業績を管理し、それらの人材の昇進に関して適切な計画をたてることができるようになる。理想的には、そのような名簿が職務の割り当てを決めるための人事部のデータベースの一部となり、非日本人社員が日本人社員と同様のレベルで教育、異動、およびトップマネジメントの職務の対象として考慮されることが望まれる。

非日本人社員と日本人社員の形式的区分を撤廃する

グローバル人事管理の向上のため、日本企業は社員の形式区分を取り払い、非日本人社員が自動的に日本人社員と違う扱いを受けないようにすることが必要である。社員を日本採用の正社員と海外の現地採用に厳格に区分するよりも、現地社員とグローバル経営幹部の二種類に分ける新しいシステムを構築することを、私は勧める。このシステムにより、地域による差異に加えて、グローバルレベルでの能力開発とマネジャーの開発を考慮に入れることが可能となる。私が提唱している二段階の分類は、低階層の社員を現地で管理することを可能とするものである。これらの社員を「現地社員」と呼ぶ。これらの社員は、現地の人事マネジャーにより、現地の規範に基づいて管理される。このシステムが、現在の慣行とは異なり公平なものとなるためには、日本での低階層日本人社員も、「現地社員」の区分に入れられることが肝心である。社員を国籍や採用場所ではなく、スキルと経験と企業への貢献の度合いで区分することを、私は提唱する。

二番目の区分は、マネジャーレベルの社員で構成され、これらの人材は、企業がグローバルレベルで監視し、能力開発を行い、管理する。一定レベル以上の海外拠点のマネジャーは、どの国に属していても、このシステムの一部となる。一定レベル以上の日本人マネジャーも、同様にこのシステムの一部となる。この区分に入るすべての社員は、二種類の人事部により管理される。まず現地の人事部が、これらの職員の給与や福利厚生について管理する。次に、本社に設置されたグローバル人事部が、これらの職員の海外転勤や教育プログラムの実施などについて管理し、海外拠点での管理職、さらには日本での管理職への適合性について、日本人、非日本人を問わずに公平に判断する。結果としてこのシステムにより、グローバル人材の管理を総合的に行い、社員全員を国籍に関わらず類似した標準で評価することが可能となる。

日本人社員と非日本人社員の区分を実質的に解消する

本社採用の正社員と海外拠点の社員との形式的区分の撤廃に加えて、非公式の区分についてもそれを取り払う努力が必要である。そのためにはまず、現地社員の本社との接点を増やさなければならない。 非日本人社員を意思決定のプロセスに完全に融合するには、本社の社員と直接仕事をする機会を与えることが大切だからだ。次に、海外拠点に委任する権限の増加が必要である。日本企業における自治権の欠如は海外拠点でも顕著で、非常に些細な物事も日本にある本社の承認が必要となっていることが多い。 これは効率が悪いだけでなく、現地マネジメントチーム が、現地の状況に迅速で柔軟に対応する能力を制限することになる。その結果、現地市場のニーズを満たすことができなかったり、市場シェアや利益の拡大の機会を逃したりといったことが発生する。

日本企業が非日本人社員を活用するためには、従来のシステムや慣習を変え、創造的で状況に応じたアプローチを使うことが必要である。

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