安倍晋三首相と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の日朝首脳会談の実現に向けて、両国の政府が調整に動いていると複数のメディアが報じた。
共同通信は政府関係者の話として、ロシアが9月11~13日にウラジオストクで開く東方経済フォーラムが日朝首脳会談の場になる可能性を伝えた。ロシアは同フォーラムに金正恩委員長を招待している。
読売新聞は「日本人拉致問題の解決などについての事前交渉」として、安倍首相が8月頃に平壌を訪問する案も検討されていると報じた。
金正恩委員長はトランプ大統領との日朝首脳会談で、安倍首相との会談の意思を示したという。これを受けて、日本政府も首脳会談の検討、調整に動いたようだ。
朝日新聞はソウルの情報関係筋の話として、以下のように伝えている。
12日の米朝首脳会談でトランプ氏は日本人拉致問題などを取り上げた。そのうえで、日朝首脳会談を念頭に、「日本とも対話すべきだ」と強く正恩氏に促したという。
これに対して正恩氏は「日本とも対話を進めたい」と応じたという。会談の具体的な議題や時期について言及したかどうかは、現時点では明らかになっていない。
ただ、正恩氏は、これまで北朝鮮が拉致問題に言及する際に繰り返してきた「解決済み」という考えは示さなかったという。
■米朝首脳会談は「歴史的」と謳われたが...
「歴史的」と謳われた、6月12日の米朝首脳会談。トランプ大統領は、史上初となった会談の成果を強調。今回の会談への道筋をつけた韓国・文在寅大統領は、「地球上の最後の冷戦を解く世界的な記録となるだろう」と高く評価。朝鮮戦争の当事国として、感慨を見せた。
ただ、今回の米朝首脳会談の合意文書では「朝鮮半島の完全非核化」という言葉は盛り込まれたものの、具体的な手段や期間は明示されず、アメリカが求めていた「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」は盛り込まれず、曖昧な内容となった。
核弾頭を搭載できる弾道ミサイルや、日本人の拉致問題についても具体的には明記されなかった。
ポンペオ国務長官が会談前日の会見で「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)が受け入れられる唯一の結果だ」と強調していたこともあって、メディアや専門家からは「具体策のない合意」などと冷ややかな見方も出た。
日本政府としては、米朝首脳会談について「基本的な方針については日米で、そして日米韓で完全に共有している、一致している」としていた。そのため、合意文書が具体性に欠けていても、表向きは評価している。安倍首相も「北朝鮮をめぐる諸懸案の包括的な解決に向けた一歩と支持いたします」と評した。
■日本政府、米朝首脳会談の"二の舞"は避けたい?
菅義偉官房長官は14日午前の記者会見で、日朝首脳会談について言及。「現時点で決まっていることは、何もない」と述べる一方、「拉致問題についてはトランプ大統領の強力な支援をいただきながら、我が国として北朝鮮と直接向き合って解決すべき問題だという決意で臨んでいる」と、前向きな考えを示した。
その上で「日朝首脳会談を行う以上、北朝鮮の核・ミサイル、そして何よりも重要な拉致問題の解決につながることが極めて重要。問題解決につながる首脳会談が実現すればいい」と、会談が実現した場合は具体的な成果を求める姿勢を強調した。
日本政府としては、仮に日朝首脳会談を開催する場合、成果のないセレモニー的な首脳会談となることは避けたい意向のようだ。
自民党は9月に総裁選を予定しており、安倍首相が3選を見据えているとも言われている。
日本と北朝鮮は、2002年と2004年の2度にわたって首脳会談を開催。2回とも、当時の小泉純一郎首相と故・金正日氏(正恩氏の父)が会談した。