「全NPOが泣いた!」国会質疑2018:山本香苗 vs 世耕弘成

「よくぞ言ってくれた!」という良い国会質疑をご紹介します。

通常国会が開催中で、働き方改革法案がデータの捏造疑惑で炎上してしまっています。

メディア的にはそういった「やっちゃった」答弁は注目されますが、「良い質疑」というのは見過ごされがちです。

今回は、我々NPOにとって、「よくぞ言ってくれた!」という良い国会質疑をご紹介します。

【公明党山本香苗議員の質問】

さる1月31日、公明党参議院議員、山本香苗議員から、以下のような質問が発せられました。

議事録から引用します。

○山本香苗君 

このものづくり補助金なんですけれども、中小企業・小規模事業者に対象限られているんですね。NPO法人だとか一般社団法人、財団法人など非営利法人がなぜ対象外になっているんでしょうか。

山本議員が、今期は1000億円予算がついている、経産省の「ものづくり補助金」という研究開発やテクノロジーを使ったサービス改善などに使える補助金が、なぜか企業に限られていて、NPOは排除されていることについて突っ込んでくれたのです。

それに対し、経産大臣である世耕大臣は、当初は官僚の書いた答弁をそのまま読み始めます。

○国務大臣(世耕弘成君) 

御指摘のものづくり補助金の目的は、我が国経済の屋台骨である中小企業・小規模事業者の設備投資の促進などを通じて収益力向上を図り、足腰の強い経済の構築を目指すものであると

そのため、中小企業・小規模事業者において、生産性向上に向けて革新的な製品やサービスの開発、生産プロセスの改善などの取組を支援するものであり、補助対象として三から五年で付加価値額年率三%、経常利益一%の向上を達成できる計画を有する事業者を対象とすることとしていると。

というわけで、NPOを除外しても、そこに正当性はあるのです、という典型的な官僚答弁が始まりました。

しかし、そこで終わるかと思いきやっ・・・・!

○国務大臣(世耕弘成君)

以上のような考えから、ものづくり補助金においてはNPO法人や一般社団法人、財団法人といった非営利活動を前提とする法人は対象としていませんという答弁を読んでくださいというふうに今日レクを受けたんですが、これだとちょっと非営利法人、誤解を与えると思うんですね。

NPOとかは、これだと収益力向上を図らないのか、経常利益や付加価値額のアップを図らないのかと誤解をされるんですが、当然私は、NPOはよく誤解をされますが、利益を上げていいわけです。

利益を配分してはいけないだけであって、利益を上げて、その利益で更に雇用を広げたりあるいはもっと投資をしてサービスのレベルを上げるという意味では、当然NPO法人も財団法人も利益を上げるということは取り組んでいただいて全く構わないわけですが、結局、本当の理由は、経産省の政策というのはやはり中小企業基本法というものに縛られます。この中小企業基本法の中には、やはり中小企業の対象というのは資本金が三億円以下で従業員三百人以下の会社及び個人事業主という規定がされているのでなかなか、企業が中心の対象になってしまうということだというふうに思っております。

大臣自ら官僚の答弁を読むのをやめ、自分の言葉で語りだしたのです。

さらに、「NPOはよく誤解をされますが、利益をあげていいわけです」と言ってくれました。

そう、そうなんです。未だにNPOは非営利なんだから、利益とか出しちゃダメなんでしょ、なんで無料じゃないの、とか言われます。

非営利っていうのは、株主に分配しないって意味で、利益出して再投資するのは禁じられていません。っていうか、利益出さないで、どうやって運営するんだよ、と。

NPOについて正しく理解している政治家なんて、10人に1人いるかいないかのところ、よもや国会答弁で、NPOだって利益出して良いんだよ、という事実を語ってくれる大臣がいようとは!

感動です。 

そこに山本議員は、先行事例を重ねていって、説得します。

○山本香苗君 

以前、全く同じことを創業補助金のときに茂木大臣に御質問したんです。こういう、今最後におっしゃられたところをおっしゃったんですが、最終的に創業補助金、NPO法人対象に、茂木大臣、していただきました。

是非、非常に世耕大臣、よくお分かりになっていらっしゃいます。非営利法人だからボランティアみたいな感じで利益を上げちゃいけないんだみたいなことを思っている方がいらっしゃる。違うんです、利益を上げていいんですと。それを職員にちゃんと還元するんです。ただ、おっしゃるように、寄附者だとか会員だとかそういった人たちには配分しちゃ駄目よと。全部収益上がったものは全部事業に使わなきゃ駄目ですよと。ものすごい社会的還元力高いわけです。

創業補助金っていう事例があるんだから、ものづくり補助金だってできますよ、と。行政は前例があればそのロジックが踏襲できるので、これはものすごい良いパスです。

でも、一般論としてNPOにOKっていっても、そんなん使うNPOいるんですか?っていうツッコミが経産省から出そうです。

そこを山本議員は、具体的事例を出して潰していきます。

○山本香苗君

そういう中で、具体的に、これ使わせてもらえたらどういうことが、まあ言ってみたら期待できるんでしょうかという話の中で、例えば病児保育において現在コーディネーターがやっている、人がやっているような子供とベビーシッターとのマッチングシステムをAI化してより良いマッチングをしてそれで生産性向上したいとか、また子供の学習支援をしているところが全国展開するに当たって複数の拠点の間で連携してオンラインの会議だとか授業、そういうものを、革新的な教育サービス提供したいとか、そういった具体的な声もいただいていますので、是非一回よく御検討いただけないでしょうか。

以前、山本議員とお会いした時に「ICTを活用できたら、どんな生産性の向上策がありますか?」と聞かれて答えたことが、ここに生きたのかっ!!と舌を巻きました。

そうなのです。フローレンスで職員が匠の技で色んな変数を組み合わせてマッチングしている訪問型病児保育だって、数万件のデータがあるわけですから、これをAIに読み込ませて、AIが最適な組み合わせを選んでくれるようになれば、コーディネーターはもっと少ない人数でこなせるようになります。

また、例えば保育の現場で、虐待を疑われるケースの場合、今だと何か起きないと支援が動き出せないのですが、予兆となるような幾つかの項目(ひとり親になった、子どもの欠席が多くなった、内縁の夫と同居を始めた)が組み合わされた時に、支援を強化することができたら、予防的な介入ができるようになっていきます。

そういった時にデータベースやAIの力を借りることで、福祉の生産性を上げていくことができるのです。

まさにNPO、社会問題解決の現場にこそ、研究開発やテクノロジーが必要で、それについて山本議員は発言してくれたのでした。

世耕大臣は、山本議員のプッシュに前向きに返答します。

○国務大臣(世耕弘成君) 

今恐らく経産省内では私の答弁を冷や冷やして見ているんじゃないかというふうに思うわけでありますけれども、私の地元でも、例えば障害児者を雇用して物づくりに取り組んでいるようなNPO法人もあるわけでありますから、そういう意味で何とかそういったところも対象にできないかと、よく検討してみたいと思います。

ただ、ここまで広げると、今度、じゃ医療法人どうするんだとか、そういう議論にもなっていく場合もあり得ますので、しっかり検討して進めたいというふうに思います。茂木前大臣に負けないようにしっかり取り組みたいと思います。

地元を回っていると、ものづくりをしているNPOもある。そうした事例が頭に浮かぶわけで、やはり現場を回っている政治家は、リアリティをもって話せるわけです。

NPOに理解のある政治家の質疑によって、法人格が違うから、というどうでも良い理由によって隔てられていた機会の壁を、打ち破れるかもしれない機運が出てきたのでした。

【社会制度を保守する人たち】

世耕・山本両議員について、心より拍手を送りたいと思いますが、一方で山本議員にこの「ものづくり補助金がNPOは使えない」というニッチなテーマを訴えていた人たちがいます。

それが、NPO法人シーズと代表の関口さんです。知る人ぞ知る、NPO法人格をつくるために駆けずり回り、見事影も形もなかった法人格を世に生んだNPOです。

彼らは、NPO法人が使いやすいものであり続けられるよう、細かな制度改正を粘り強く行い続けてきました。

関口さんは、まだ30代前半ながら、創設者が病気で離脱した後を継ぎ、こうした「制度の保守とアップデート」というむちゃくちゃ地味な仕事をし続けてきてくれました。

正直、こういう作業は全くお金にならないので、報われる仕事とは言いづらいわけです。

全国のNPO法人は、法人格が使えるのが当たり前だと思っているし、なんなら「使いにくい」っていってDisるだけで、制度を良くしようなんて思わないところが大多数です。

でも、お前らが当たり前に使っているその制度は、メンテしてる人たちが靴底すり減らして政治家と省庁かけずりまわった、その汗によってできてるんだよ、ということを少しでも知ってもらえたらと思います。

政治家に理解してもらうこと。そしてその政治家たちが、理解と実感に基づいて議論すること。それによって、より良き制度改変への道が開かれること。

こうしたことを改めて認識できる、国会質疑だったと思います。

(2018年2月20日「Yahoo!ニュース個人(駒崎弘樹)」より転載)

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