去る5月12日から18日まで、アメリカのワシントンDCでとあるワークショップが開かれました。これは、ドイツのロバート・ボッシュ基金が数年前から行っている世界規模の企画で、2018年~2019年は、世界9カ国(アメリカ、インド、インドネシア、中国、ドイツ、日本、ブラジル、フランス、南アフリカ)から厳しい選考基準を経てフェローとして選ばれた各国3名のヤング・プロフェッショナル達(計27名)が集まり、1年間にわたり3つのテーマ(「世界の移民・難民問題」、「世界秩序の未来」、「世界秩序における都市の役割」)について議論を重ねるものです。(因みに私はご想像通り「世界の移民・難民問題」グループに配属されています。)
5月のワシントン・セッションの最終日には余興として、日本とアメリカのフェローが自国について発表をする機会があったので、私は中等科の頃から習っている茶道についてありあわせのデモンストレーションをしました。
ここまでは良かったのですが、衝撃的だったのは発表の後に他国のフェローから出された日本についての質問の数々です。
「日本の若者の100万人近くがヒキコモリで、特に男性に多いそうだが、本当か」
「日本の自殺率が随分高いと聞くが、なぜか」
「日本のエンターテインメントでは若い女子学生達をズラっと舞台上に並ばせて躍らせる様子が良く映像に映るが、問題視されないのか。政府は無対策なのか」
「フクシマの問題は今どうなっているのか」
「日本では女性の地位が世界でもずば抜けて低いそうだが、なぜか」
「日本の少子高齢化は危機的状況と聞くが、なぜ外国人を受け入れないのか」
「自分は日本のドラマやアニメを見て育ったが、最近は韓国に抜かされているようだ。日本のドラマやアニメの復活はないのか」
「日本の学校におけるイジメ問題はヒドイと聞く。原因はなにか」
などなど、他国のフェローの中には日本語が堪能な人はいなかったのですが、みんな日本が抱えている現実問題に詳しいなぁと、ある意味感心してしまいました。
換言すれば、最近の日本のテレビ番組が大好きな「外国人からみたスゴイ日本!」というような印象は少なくとも世界のヤング・プロフェッショナルの間には一切無く、むしろ「日本というのは奇妙な国だ」という印象を強く持っている、ということがヒシヒシと伝わってきました。
その一方で、ワークショップ開催中に最初から最後まで、今後の世界を担っていくパワーの一つとして注目され続けたのが中国です。「今後の世界の政治・経済・社会・文化といったあらゆる面で極の一つになるのは中国」という認識は、会議に参加したヤング・プロフェッショナル達だけでなく、ゲスト・スピーカーとして講演をした米国やフランスの政府高官や学識経験者などからも異口同音に繰り返されました。同時に、そのような重要な議論の中にJAPANという単語は一回たりとも出てこなかったのです。世界の注目の的は日本からは既に離れていて、完全に中国、というのはもはや否定できない現実のようです。
もちろん私が今回の1週間のワークショップでやりとりをした他国のフェローは24名だけですので、彼らの見解が必ずしも全世界の日本に対する見方を代表するものとは言えないでしょう。しかし、少なくとも世界における一部の若手エリート集団、とりわけ今後の世界の様々なセクターでリーダー的役割を担っていく可能性の高いヤング・プロフェッショナル達の一部は、上記の質問で取り上げられたような日本の現実問題をしっかり認識しているということ、しかもこれらの問題に日本政府と日本人がどう取り組んでいこうとしているのか凝視している、ということは肝に銘じておいた方が良さそうです。