乾癬(かんせん)という疾患を多くの人に知ってもらうために作られたアパレルブランド「FACT FASHION(ファクト ファッション)」。ストレスなく着ることができる服作りに関わった2つの患者会のメンバーに話を聞き、プロジェクトの今後の方向性を紹介します。
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【乾癬とは】
乾癬は、いまだに根治療法が見つかっていない、慢性の皮膚疾患です。世界で約1億2500万人、日本では約40〜60万人の患者さん(※1、※2)がいるとされ、日本では近年、増加傾向にあります(※3)。症状が見た目に現れることから、他人からの視線が気になるなど、患者さんにとって精神的な負荷が大きい疾患です。
症状によっていくつかの種類に分類されますが、特徴的な症状として皮膚が赤くなる「紅斑(こうはん)」、盛り上がる「浸潤(しんじゅん)」、細かいかさぶたのような「鱗屑(りんせつ)」、フケのようにボロボロとはがれ落ちる「落屑(らくせつ)」が見られます。また、関節が腫れたり痛んだりすることもあります。外敵から体を守る免疫作用の過剰な働きが主な原因で、感染する病気ではありません。遺伝や生活習慣などさまざまな理由によって発症すると考えられています。
「黒い靴にも落屑があり、仕事に集中できなかった」
一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会代表理事の奥瀬正紀さんは、「乾癬を発症してから一番気にしていたのが鱗屑や落屑でした」と話します。鱗屑は細かいかさぶたのようなもの、落屑は皮膚片がポロポロ落ちることです。
40代で乾癬を発症した奥瀬さんは、「洋服だけではなく、靴にも落屑があり、黒い靴だと汚れてしまい、仕事に集中できませんでした。精神的なダメージが大きかったです」と話します。今、症状は落ち着いています。
「乾癬だからってファッションをあきらめたくないんです」。こう話すのはNPO法人東京乾癬の会P-PAT代表の大蔵由美さん。10代で乾癬を発症し、20~30代に仕事が忙しくなってからはさらに悪化したといいます。
「乾癬がひどかった時は、あるハイブランドの滑りのよい素材の服ばかり着ていました。全色持っていて…。上半身の鱗屑が落ちてこないようにシャツはすべてパンツの中に入れていました」。
大蔵さんに「FACT FASHION」の服はどう映ったのでしょうか。「これまで着てきた服の中には、袖口が擦れるだけで乾癬ができるぐらい微妙な生地もありました。でもFACT FASHIONの服は布を触った瞬間に気持ちいい、大丈夫だなという安心感があります」
NPO法人東京乾癬の会P-PATの木戸薫さんもまた、おしゃれが制限されることにストレスを抱えてきました。「発症した高校生の時は、乾癬に気づかれたくなくて、夏場でも長袖を着ていました。本当に暑くて…。母親と買い物に行って『これ、かわいいんじゃない』と言われても、半袖やスカートだとあきらめていました」と振り返ります。
今、木戸さんの症状は落ち着いているものの、指の関節を動かしにくく、服のボタンの開け閉めがつらい状態です。「FACT FASHION」デザイナーの大仲さんに伝えたところ、ボタンホールの裏に滑りのよいポリエステルの布地をつけて改良されました。「服に血や軟膏がつくといった悩みにも配慮した、ゆとりがあるデザインの服でした。細かい患者の意見を聞いて、形にしてくれたことに感謝しています」(木戸さん)。
「FACT FASHION」を立ち上げた企業であるヤンセンファーマの担当者は、「たくさんの患者さんの声を聴くなかで、乾癬患者さんが共通に抱えている衣服への悩みが見えてきました。その声をもとに、患者さんやアパレル企業の皆様と共に服作りを進めていくことで、多くの患者さんのニーズに応えられる服ができたのだと思います」と話します。
究極、「FACT FASHIONがいらなくなる未来」を目指す
ブランドを立ち上げ、2年目となる今年、プロジェクトチームが目指すのは「FACT FASHION」の社会実装化。乾癬患者さんの悩みに応える機能を取り入れた服が、当たり前に店頭に並ぶことを目指します。
さらに、より多くの乾癬患者さんに知ってもらうため、ブランドを数シーズンのもので終わらせずに、長期的に継続できるよう、ファッションビジネスの可能性も探ります。目下、次のシーズンに向けてアパレル企業のMAISON SPECIALと新しいデザインの服作りを進めている最中です。また、社会実装化への新しいアプローチとして、鱗屑が落ちやすい素材などの工夫や機能をアイコン化し、わかりやすさも工夫しました。
「FACT FASHIONの服をきっかけに、一人で悩んでいる乾癬患者さんが適切な治療を知ったり、少しでも前向きになって欲しい」。プロジェクトチームはこのような思いをもっています。また、これまでにリーチできていないと感じる10代、20代で乾癬に悩んでいる若い世代にも知ってもらいたいという狙いもあります。
将来、乾癬への理解が進み、患者さんが自由にファッションを楽しめる、そんな「FACT FASHIONがいらなくなる未来を目指したい」。これがプロジェクトチームの願いです。
ファッションを通じて、乾癬を知ってほしい
一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会代表理事の奥瀬正紀さんは「日本は欧米に比べて乾癬という疾患の認知度が低いように感じます。ファッションという身近なものから発信することは、これまで乾癬に関心がなかった人にも知ってもらうきっかけになります。さらに私たち患者自身も声を上げていくことが大切だと考えています」と語ります。
NPO法人東京乾癬の会P-PAT代表の大蔵由美さんも「FACT FASHIONが発表されて一番嬉しかったことは、患者さんがものすごく明るくなったことです。それは患者さんのそばにいる家族も明るくなるということ。患者会としても、さらに疾患への理解を広げていきたいです」と話します。
「FACT FASHION」がいらなくなる未来に向けて、これからも挑戦は続きます。
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「FACT FASHION」は2021年11月9日に「SOCIAL INNOVATION WEEK渋谷」に参加しました。2022年春夏の服の予約は12月17日(予定)より受付開始、2月販売予定です。MAISON SPECIALの旗艦店である東京・青山、大阪・心斎橋をはじめ、新宿などの実店舗でも販売します。
(文:国分瑠衣子)