日本ボクシング連盟は8月10日、内田貞信会長の名前でTBSテレビに抗議文を提出したことを発表した。同社の番組の中で「女性及びボクシング競技を蔑視した」と思わせる発言があったと抗議し、発言の訂正を求める内容だ。
■問題となった張本氏の発言とは?
問題となったのは、8月8日にTBS系で放送された報道番組「サンデーモーニング」だ。番組中で、東京五輪で女子ボクシングフェザー級で入江聖奈選手が金メダルを獲得したことを報道した。これを受けてリモート出演していた野球評論家の張本勲氏(81)が以下のようにコメントした。
「女性でも殴り合い、好きな人がいるんだね。見ててどうするのかな。嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね。こんな競技、好きな人がいるんだ。それにしても金だから、あっぱれあげてください」
■「多様性を否定するような発言」ボクシング協会が訂正を求める
日本ボクシング連盟は抗議文の中で「ボクシングは、オリンピック競技の中でも歴史が長く、技術・戦略・戦術を駆使する競技で、殴り合いではありません」と言及。2012年のロンドン五輪から採用された女子ボクシングについても「ヘッドガードを装着して試合を行うなど、男子競技以上に安全面に配慮しながら実施されています」と説明した。
女子ボクシングでメダルを獲得した入江選手と並木月海選手について「競技の強さのみならず、謙虚な立ち居振る舞いや、他人への配慮ができる素晴らしい人」と人格を称えた上で、「男性だから、女性だから、ではなく、ボクシング競技を通じて『人間力』が養われた結果」と綴っている。
「ボクシング競技が単純な、暴力的な殴り合いではないこと、技術を駆使した競技であること」を理解してもらった上で、「女性だからそんな競技に取り組むべきではないという、多様性を否定するような番組内でのご発言」を視聴者に対して訂正してもらうのが今回の抗議文提出の理由だと続けている。
日本ボクシング連盟の抗議文の全文は以下の通り。
■抗議文の全文
株式会社TBSテレビ 代表取締役社長 佐々木卓様
一般社団法人日本ボクシング連盟会長 内田貞信
サンデーモーニング(令和3年8月8日放送)での張本勲氏のご発言について
拝啓 時下、ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。
さて、貴社放送のサンデーモーニング(令和3年8月8日放送)において、オリンピック女子ボクシングフェザー級の入江聖奈選手(日本体育大学)の金メダル獲得の話題に際して、ご意見番である張本勲氏より、【女性及びボクシング競技を蔑視した】と思わせる発言がありましたので、遺憾の意を示し、当文書を送付致します。
ボクシングは、オリンピック競技の中でも歴史が長く、技術・戦略・戦術を駆使する競技で、殴り合いではありません。選手は、体重調整を行い、試合の重圧に打ち勝ちリングに上がります。正々堂々と競技をした後には、友情や、対戦相手を心から尊敬する気持ちが育まれます。当連盟は、競技を通じて、健全な心身が育成され、競技者が人生を豊かにしていくことを目標として活動しています。
安全面に関しても、試合前後の医師による健診や、試合中リングサイドでの医師の常駐を義務付けるなど、他の競技以上に、安全面に配慮した競技運営を行なっています。
女子競技に関しては、2012年のロンドンオリンピックから採用された比較的新しい競技です。ヘッドガードを装着して試合を行うなど、男子競技以上に安全面に配慮しながら実施されています。当連盟でも、女性も楽しめる・活躍できる競技でなければ競技の普及や発展には繋がらないとして考え、世界に倣って啓発と普及に努めてまいりました。その結果が、入江聖奈選手と並木月海選手という二人の女子選手の大躍進に繋がったと考えております。両者ともに、競技の強さのみならず、謙虚な立ち居振る舞いや、他人への配慮ができる素晴らしい人です。競技を通じて、「痛み」を知っているからこそ、他者を尊重し、人に対して優しくできるのではないでしょうか。男性だから、女性だから、ではなく、ボクシング競技を通じて「人間力」が養われた結果であると考えております。
このように、ボクシング競技が単純な、暴力的な殴り合いではないこと、技術を駆使した競技であることをご理解いただき、また女性だからそんな競技に取り組むべきではないという、多様性を否定するような番組内でのご発言を、視聴者の皆様に対して、訂正をしていただきたく、文書を発させて頂きました。
一般社団法人日本ボクシング連盟は、子供から大人まで、男女の大会の普及と振興を図り、更には、高齢者でも健康的にボクシング競技を楽しめるための大会を企画しております。今後のご理解とご協力を賜りますようよろしくお願い申しあげます。
今後も、御社のサンデーモーニング内で、ボクシング競技のみならず、すべてのスポーツの楽しさや価値を伝え続けていただけることを楽しみにしております。
敬具