登米の一本太ネギ、波多野ダイコン、神代カブ。
これらは、生産する農家がいなくなり、食べることができなくなった野菜だ。
現在でも、地域で栽培されている野菜の中には、いずれ生産されなくなる可能性がある品種が数多くある。あなたが何気なく食べている地元の野菜も、いつか食べられなくなるかもしれない。
今回、ハフポストは114名にアンケートを実施。「なくなってほしくない地元野菜」とその理由を聞いた(*1)。地元野菜の魅力に気づかされる回答の一部を紹介しよう。
「淡路島のたまねぎ。甘くてやわらかく、舌触りがいい。また大ぶりでどんな料理にでも利用できる」(男性 50代)
「りんご。毎年青森から大量に美味しいりんごが届くのですが、その楽しみがもしなくなってしまったら、すごく悲しいです」(女性 30代)
「とうもろこし。道民にとっては、この厳しい冬を耐えたご褒美です!」(男性 50代)
他にも、地元の料理に欠かせない、地元の魅力であるからという声もあった。
「かぶら。実家の味である千枚漬けに必須な野菜だから」(男性50代)
「三関せり。秋田(母の実家)のきりたんぽ鍋には欠かせません」(女性 40代)
「さつまいも。実家に帰るとよく食べる。なくなったら地元のよさが半減するくらいの特産品だから」(男性 30代)
多くの人が、地元や旅先で食べたその地域ならではの農作物に魅力を感じた経験があるとわかった。
しかし、その地元野菜は、実はいずれ食べられなくなってしまうかもしれない。
例えばアンケートでは「かんぴょう」、「じゅんさい」という回答もあったが、どちらも生産量が大きく減っている野菜だ。特にじゅんさいは、多くの地域で絶滅危惧種に指定され、すでに絶滅した地域もあるとされている。(*2)
地元野菜がいつか食べられなくなる。その理由は?
なぜ、地元野菜の生産が減ってしまうのか。現在、生産が大きく減り、いつか食べられなくなることが懸念されている「高倉ダイコン」、「三田うど」の例を見てみよう。
東京都八王子市で栽培される「高倉ダイコン」は、たくあんにすると特に味がよいと言われている。JA東京中央会により「江戸東京野菜」として登録されている八王子の特産品だ。
高倉ダイコンは、明治時代から、織物工場で働く人のおかずとして、たくあんにして広く食べられていた。しかし、食生活の変化からその需要が減り、生産は減少。2000年代には、高齢の農家が唯一の生産者となった。
その後、高倉ダイコンのたくあんの美味しさに共感し、伝統野菜を守る意志をもつ農家が生産を始めた。現在は2軒で、高倉ダイコンの種をつないでいる。
兵庫県三田市の特産品「三田うど」も同様に生産量が減少している品種だ。香りや歯ざわりを活かし、酢味噌和えや、きんぴらなどにして食べられてきた。
1950年代には市内で約100人の生産者がいたという。しかし、今では生産者が10人程度に減り、伝統的な栽培方法である藁小屋での栽培をしているのは2人だけになった。小屋は毎年建て直さなければならず、伝統的な栽培は負担が大きいことも減少の要因だそうだ。藁小屋で育てられる三田うどは、高齢化と、後継者不足により、今後の存続が危ぶまれている。
藁小屋が並ぶ光景は、地域の冬の風物詩にもなっていた。三田うどとともに、今後、その景色も失われてしまうかもしれない。
生産が減少する要因は様々だ。効率的に栽培・流通ができる品種に生産が集中したり、食生活の変化に伴って需要がなくなったりといった要因もある。
特に、農家の高齢化や後継者不足は大きな問題となっている。2020年の「農林業センサス」によると、農家の約70%は65歳以上であることが明らかとなった(*3)。ある希少な品種を育てている農家が高齢化のためにリタイアし、そのまま引き継がれることなく、食べる機会がなくなってしまう危険性のある野菜が多いこともうなずける。
地元野菜がなくなったら……
時代の変化によって、食生活は変わり、農作物の需要も変わる。ある品種の生産量が減少することは、自然なことかもしれない。しかし、地元野菜が食べられなくなってしまうことにはいくつかの懸念がある。
まず、地域の魅力が減ってしまうことが挙げられるだろう。アンケートでも、地元野菜が「なくなったら地元のよさが半減する」と回答した人もいた。実際に、地元野菜を重要な観光資源と捉え、復活させる動きも全国で見られている。
そして、地元野菜がなくなることは、地域だけでなく、日本の魅力低下にもつながるかもしれない。日本の食文化の特徴として、文化庁は「多様で新鮮な食材とその持ち味を尊重する調理技術・道具」の存在を挙げ、海外から見ても日本各地の食文化は魅力になっていると分析している (*4) 。
アンケートでも、「地元の料理に欠かせない」からこそ、地元野菜がなくなっては困るという声が多かった。地域の多様な農作物がなくなることで、地域の料理がなくなり、日本の多様な食文化の魅力も消えてしまうかもしれない。
さらに、農作物の品種が減ることは、持続可能性の観点からも懸念されている。多様な品種があることは、気候の変化や、病虫害にも対応できる可能性を高める。今後、気候変動が懸念される中、持続的に農業をおこなうために農作物の多様性はより重要になってくるだろう。遺伝資源の保護をするジーンバンクの運営とともに、魅力ある地元野菜を守る動きがより活発になることが期待される。
地域の魅力を守るため、JA共済がサポート
地域の農作物を守るため、様々な人や団体が活動している。JA共済もその一つだ。
例えば、JAみなみ信州。市田柿や南水(梨)など、魅力的な品種がたくさんある南信州地域だが、農家の高齢化と担い手不足による販売農家の急激な減少に直面。将来の農業承継・後継者づくりに向けた就農者の受け入れ強化が急務となっていた。
そこで、管内全14市町村の行政とJAみなみ信州が連携し、就農希望者の移住・定住のフォローや就農へ向けた研修、就農後の営業始動など幅広いサポートが始まった。JAみなみ信州は、研修用ビニールハウス建設や、かん水設備など、新規就農時に必要な設備への助成等をおこない、新規就農者の定着や地域農業の活性化を後押ししている。
地元野菜の魅力で、私たちの食生活をもっと楽しく
地元や旅先で出会う野菜や果物。
そんな地元野菜を知り、積極的に食べることで、いま一度野菜の魅力に気づくこともあるかもしれない。それはきっと、地域の農家を応援するだけでなく、私たちの自身の食生活をより豊かに、楽しいものにすることにもつながるだろう。
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▼JA共済の地域に根ざした様々な活動はこちら
*2日本のレッドデータ検索システム「ジュンサイ」
*3 農林水産業「農林業センサス」
*4 文化庁「今後の食文化振興の在り方について~日本の魅力ある食文化を未来につなげるために~」
・JA東京中央会「江戸東京野菜について」
・神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙タウンニュース「高倉ダイコン「つなぐ」動き」
・NIPPON TABERU TIMES「【デントウヤサイ大学 4限目】生産から広報まで江戸東京野菜のなんでも屋の熱い気持ち」
・神戸新聞NEXT「特産うどで工夫の逸品 日本料理店やバーがフェア」
・朝日新聞デジタル「「三田ウド」伝統守るぞ 小学生が栽培小屋手作り」