J-REITによる自社株買いへの期待と課題:研究員の眼

経営上の選択肢が増えたことは大変有意義。
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昨年のJリート(不動産投資信託)市場を振り返ると、オフィス市況など不動産ファンダメンタルズは好調を維持したものの投資信託からの資金流出に伴う需給悪化を受けて、東証REIT指数(配当除き)は前年比▲10%下落しました。

好業績を背景に20%上昇した国内株式と比較した場合、Jリート市場の低迷が際立つ1年となりました(図表1)。

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ところで、昨年の新しい動きとして、Jリートによる自己投資口の取得(以下、自社株買い)を挙げることができます。自社株買いは2013年の投信法改正で既に解禁されていたものの、これまで活用の事例はありませんでした。しかし、6月にインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人が初の自社株買いを発表し、その後は計4社が実施しています。

一般に、自社株買いは、(1)株主への利益還元拡充、(2)アナウンスメント効果や需給改善による株価上昇、(3)EPS(1株当たり利益)やROE(自己資本利益率)の向上、(4)買収リスクの低減を目的として実施されます。

現在のJリート市場は不動産価格が上昇する一方で投資口価格が下落し、上場59社のうち半数以上の銘柄がNAV倍率(純資産価値に対する時価総額)で1倍を下回っています。そこで、各社は(2)を目的に、割安な株価を是正するため自社株買いに踏み切りました(図表2)。

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発表後の市場の反応をみると、自社株買いは株価に対してプラスの効果をもたらしています。4社の平均上昇率(配当含み)は発表翌日に2.8%、累計で7.8%となり同期間の東証REIT指数を6.0%上回りました。「現在の株価は不動産価値と比べて過小評価されている」とのメッセージを市場にうまく伝えることができたのではないでしょうか。

もっとも、Jリートが自社株買いを継続して実施するには課題もあります。Jリートは、(1)もとより利益還元率100%であること、(2)増資による資金調達ニーズが高いこと、(3)原資となる余剰資金が少ないなど上場企業と異なる特性を持っています。

(1)については、投資主にとって分配金支払いと自社株買いは同じ経済効果であり「分配金+自社株買い」の還元率は100%を超えてしまいます。

(2)については、「自社株買い⇒株価上昇⇒増資⇒株価下落⇒自社株買い」の資本政策を繰り返した場合、投資家サイドが混乱し不信を抱く恐れがあります。

(3)については、剰余資金が減価償却費から資本的支出(CAPEX)を控除した金額に限られるなか、内部資金の使い道として自社株買いが最適かどうか(図表3)、さらには剰余資金の枠内に限らず不動産の売却代金を自社株買いに充当できないかなど、検討の必要がありそうです。

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今回、Jリートの自社株買いは市場下落の副産物として思わぬ形でスタートしました。しかし、経営上の選択肢が増えたことは大変有意義であり、今後とも投資主価値の向上に向けた各社の取り組みが期待されます。

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(2018年1月4日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 主任研究員

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