東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。
第1回は「LGBTとスポーツの未来」と題して、昨年11月にテレビ番組でレズビアンであることをカミングアウトした元バレーボール選手の滝沢ななえさんが登壇。
セクシュアリティの気づきや、カミングアウトに至った経緯、また、スポーツ界におけるLGBTのアスリートの今後について話した。
■レズビアンだと気付けて嬉しかった
滝沢さんがレズビアンだと自覚したのは22歳のとき。きっかけは上野樹里さんがトランスジェンダーを演じたドラマ「ラストフレンズ」を見たときだった。
「それまでお付き合いするのはいつも男性でした。でも気持ち的にしっくりこなくて、うまく恋愛ができないと感じていました」。
そもそも「女性を好きになるという考えを想定していなかった」と話す滝沢さん。ドラマ「ラストフレンズ」を見て「もしかしたら...」とレズビアンなのかもしれないと思い始めたそう。
「(レズビアンだと)気づいた後より、気づく前の方が悩みました。男性とお付き合いしていた時は、周りの友達みたいに『彼に会いたい!』とか、『連絡がなくて超寂しい!』という気持ちが私にはなくて、いわゆる恋バナができなかったんです」。
「22歳ではじめて女性とお付き合いしたときに、電話したいな、メールしたいなと思えて、『あ、みんなが言っていた感情はこれか!』と。気付けて嬉しかったですね」。
「レズビアンであることに対してネガティブなイメージはなかったんですか?」という質問に対して、滝沢さんは「あまりなかったですね。女性を好きになる人どうしの話を聞いたこともあったし、スポーツ界で触れる機会もあったので」と話した。
「むしろ(レズビアンだと)気付けてめっちゃ嬉しかったです」と笑顔で話す滝沢さんの人柄が、カミングアウトした後の周囲の暖かい反応にもつながっているように感じた。
22歳のときに初めての彼女ができたことは、高校時代から仲のよかった親友や同じチームのメンバー数人だけに伝えた。
「実は自分からは言い出していなくて、親友から突然『あのさ、ななえって女の子が好き?』と聞かれたんです。それまで『彼氏ができても好きになれなくて...』という話もずっとしてきた親友だったので、そのときに『彼女ができて』とカミングアウトしました」。
その親友は「やっぱりそうだよね!」とあっさり受け入れてくれたという。
カミングアウトはまだまだ相手によってどう受け取られるか予測しにくい現状がある。
滝沢さんは「わかってくれる人がわかってくれるんだなと。良い仲間を持ってなと思いますし、私は周囲の人にすごく恵まれていたなと思います」と話した。
■「ななえちゃんにしかできないことは何か」という言葉が背中を押してくれた
昨年11月に日本テレビ系のバラエティ番組「衝撃のアノ人に会ってみた!」で女性と付き合っていることを公にした滝沢さん。なぜ番組でカミングアウトすることにしたのか。
「実は、最初あの企画はカミングアウトするためのものではなかったんです」と話す滝沢さん。
現在トレーナーとして働いているジムの代表に「何かもう一歩先に進みたい」話した際「ななえちゃんにしかできないことは何かな」と聞かれたという。
代表にはレズビアンであることは伝えていた。代表は「セクシュアリティで悩んでいる人もいるだろうから、その人たちのために何かできたらいいね」と背中を押してくれた。
テレビ番組のVTR出演でオファーがあったのは、その矢先だった。
「取材できたディレクターさんに『彼氏か旦那さんはいますか?』と聞かれたので、『彼女がいます』と答えたんです。最初はびっくりされましたが、その後に『ぜひ使わせて欲しい』と言われて、放送することになりました」。
放送前夜は不安だった。「むしろパートナーの方が大きい人で『もう流れてしまうことはしょうがないんだから』と励ましてくれました」。
仕事があり、放送自体はリアルタイムで見ることはできなかったが、「終わってから携帯を見るといっぱい連絡が来ていました」。
周りの人の反応にネガティブなものはなかった。「みんな全然気持ち悪がられるとかもなく『よかったね、おめでとう』と言ってくれました」。
5人きょうだいの真ん中である滝沢さん。家族へは母親にだけカミングアウトしていた。姉や妹にも言いたいと母親に伝えたところ「まだやめなさい」と言われていたため、テレビ番組の放送については家族に伝えていなかった。
「でも、たまたま妹がリアルタイムでテレビを見ていてくれて、『ななえが出てるよ』と家族のLINEグループに流してきたんです。
それを見たきょうだい達は『なんだ、言ってくれればよかったのに』というような反応でした。
妹は私を心配して、いつも『結婚しろ』『子どもを産め』って言ってくるような子だったんですが、『なんか、お姉ちゃんごめんね』と言ってくれました。可愛いですよね」
「母もバレーボールをやっていて、私のことを知っているバレーボール関係者も周りに多いので放送直後はいろいろあったみたいです。少し時間はかかったけど、今は母も受けれてくれていて、家族もハッピーです」
■ファンを裏切ってしまうのではという気持ちになった
日本はカミングアウトしたアスリートの数がまだまだ少ない。
同じくイベントに登壇したトランスジェンダー活動家であり、フェンシング元女子日本代表の杉山文野さんは、「2017年のリオ五輪では約60人のカミングアウトしたLGBTのアスリートが活躍しましたが、日本人はゼロでした」と話す。
現在開催中の平昌五輪では、カミングアウトしたLGBTのアスリートは冬季五輪としては過去最高の15人に登ったが、その中に日本の選手の姿はない。
LGBTのアスリートがセクシュアリティを公にしにくいことについて、滝沢さんは「ファンがどう受け取るかを考えてしまう」と話す。
「やっぱり選手はファンの方ありきだと思っているので、裏切ってしまうんじゃないかという気持ちになっていました。ずっとブログもやっていたけど、そこでカミングアウトするのはどうしてもできませんでした」
メディアの「美女特集」のような企画にもよく取り上げられていた滝沢さん。「以前はもっと髪が長かったり、ボブっぽくしていた時もあって、『可愛いななえちゃん』みたいなイメージがあったかもしれないけど、そこでレズビアンなんですって言ったら期待を裏切ってしまうのかなと思ってしまっていました」
杉山さんも「LGBTのアスリートから相談されたこともありますが、やっぱりファンに迷惑をかけてしまうんじゃないかとか、自分のスポーツの協会と折り合いがつかないと、ご飯を食べていけなくなっちゃうんじゃないかという懸念を聞きますね」と話した。
■ファンは変わらず応援してくれた
スポーツ業界でLGBTや性の多様性への認識を広げるために何ができるのか。
杉山さんは「最近、日本オリンピック委員会や、陸上競技のダイヤモンドアスリートなどでLGBTについての話をさせていただく機会が最近増えた」という。
「こういった研修や、LGBTを応援したいと思っている『ALLYのアスリート』が可視化されたらいいなとも思います。なかなか当事者のカミングアウトは時間がかかるかもしれないけど、もう少し周りがウェルカムなんだよっていうの発信をしてくれたら良いなと思っています」
滝沢さんは「正直、私がレズビアンであることによって、チームに所属するのが辛いということはなくて幸せだったなと思っています。それでも選手時代にカミングアウトできなかったのは、ファンのことを裏切ることになってしまうと思っていたからです。」
「今回のカミングアウトで、選手時代のファンは離れてしまうかもしれないと覚悟をしていました。でも、いざ蓋をあけてみると、変わらず応援してくれるファンの方の声が多くて、『レズビアンだとしても応援してくれる』というところに気付けたのが良かったです。
いま現役で活躍されているLGBTの選手たちにも伝えたいです。私は、カミングアウトしてよかったと思っています。」
最後に、今回セクシュアリティがこうして大きく取り上げられることに対して、滝沢さんは「私も、ずっとレズビアンであることを全面に出していきたいわけではありません。まだ日本がこういう状況だから。私が言いたいのは『その人はその人だ』ということ、レズビアンであることは『"普通"のことだから』と伝えていきたいです」。