「中国版ネトフリ」愛奇芸は“ハリウッドとシリコンバレーのいいとこ取り” 月間6億人超が集う動画サービスの正体

iQIYIは「一魚多食」戦略で、広告収入に頼らない生存戦略を描く。その鍵は...

中国の動画市場といえば、違法にコピーされた海賊版DVDや、ネットに無断アップロードされたアニメやドラマが思いつく。

しかし、時代は変わっている。有料課金をして、動画を視聴する習慣が根付いてきたのだ。その潮流を捉えて成長しているのが「中国版ネットフリックス」とも呼ばれる愛奇芸だ。英字では「iQIYI」、アイチーイーと読む。

ハフポスト日本版は、北京にある愛奇芸オフィスを訪問。変わりつつある中国の動画市場と、成長を支えた独自の事業戦略について聞いた。

愛奇芸のロゴ(北京オフィスで撮影)
愛奇芸のロゴ(北京オフィスで撮影)

■AIが作る生態系

月間アクティブーユーザー6億1700万人(モバイル端末のみ)、全ユーザーの視聴時間は1日で3億5000万時間...愛奇芸研究所の葛承志(グー・チャンジー)所長の並べるデータ(2019年8月時点)はどれも壮大だ。

葛承志・研究所所長
葛承志・研究所所長
愛奇芸 提供

愛奇芸はドラマやエンタメ、それに日本製も含めたアニメなど、数多くのジャンルをカバーする動画配信サービスだ。基本は無料で視聴でき、サイト側は広告で収益を得る。

2010年にサービス開始以来、順調にファンの獲得に成功し、2018年3月にはアメリカ・ナスダック市場に上場を果たした。2019年第3四半期の決算資料によると、営業収益は74億元(約1184億円)と前年同期比で7%の成長だった。

中国には、有料・無料を含め、動画サイトが数多く存在する。その中で愛奇芸が生き残ってきた理由は何か。葛所長はAIの存在を挙げる。

愛奇芸が誇るAIは多種多様な力を発揮する。その一つが収益予測だ

愛奇芸の動画は、大まかに▽オリジナル制作番組▽ユーザーによる投稿動画(ゲーム実況など)▽放映権を購入した外部コンテンツ(ドラマや日本のアニメ)の3種類で構成されている。

このうち、外部からコンテンツを買い付ける場合、買ったはいいが再生数が伸びなければ損に終わる。そこでAIが事前に内容を分析し、大まかな再生数やそこから得られる広告収益を予測する。その結果をもとに、どのコンテンツを買うか決めるのだ。

さらに、映像に出てくる俳優などの顔をAIで分析し、関連する商品を視聴者に「おすすめ」するなど、効率的に広告を出す使い道などもあるという。

愛奇芸オフィスの入るビル
愛奇芸オフィスの入るビル

■50%のハリウッド精神

葛所長は、愛奇芸の企業文化を次のように形容した。

「50%がシリコンバレー、50%がハリウッドです。エンジニアとクリエイターのDNAを一体化するのです」

このうち、エンジニアが担うのはAIの開発だ。そして、残り半分のクリエイターが手がけるのがオリジナルコンテンツの制作だ。

愛奇芸が産み出すオリジナル作品は全映像の約2割にあたる。バラエティ番組などもあるが、特に人気を集めるのがドラマだ。

中でもテレビ局に先駆けて独占放送した時代劇「Story of Yanxi Palace」は、中国国内からアクセスできないグーグルの検索ランキングでもトップになるなど、中国内外から注目を集める作品となった。

Story of Yanxi Palaceの出演者たち
Story of Yanxi Palaceの出演者たち
Getty Images

愛奇芸は基本無料だが、こうしたオリジナルコンテンツを視聴するには有料会員になる必要がある。今、経営戦略として進めているのが、広告頼りの収益モデルからサブスク中心への転換だ。葛所長がその背景を説明する。

「アメリカでは、テレビ中心だった視聴習慣が、良いコンテンツにお金を払って見る時代に変わりました。中国でもこの流れを目指すのはトレンドではないでしょうか。中国では海賊版の取り締まりも強化され、なおかつ(有料特典の)高画質での視聴環境を求めるユーザーが増えています」

データもその流れを裏付ける。愛奇芸の有料会員は第3四半期時点で約1億人余り。この1年間でおよそ30%増えている。

収益の最大の柱も、広告ではなく有料会員の支払う会費になった。そのほか、ライブ配信への視聴者からの“投げ銭”など、9つの収益化手段を擁する。

愛奇芸ではこれを「一魚多食」戦略と呼ぶ。同じ1匹の魚でも、部位ごとに分けて調理すれば多くの味を楽しめる。愛奇芸という一つのプラットフォームから、複数の収益手段を生み出すという意味だ。このキャッチコピーからも、広告に依存しないという経営側の意思がにじみ出ている。

2018年にはナスダック上場を果たした
2018年にはナスダック上場を果たした
Reuters

■5Gに備え研究開発を強化

収益モデルの転換にも成功しつつある愛奇芸。進めているのがコンテンツの水平展開だ。葛所長が明かす。

「良い映画やドラマはゲーム化されるなど、展開次第でさらなるマネタイズも出来ます。

(ゲームブックのように)視聴者が画面中の選択肢を選んで、それによって展開が変わるドラマなども作っていきます。これならば視聴者との連動性も増え、広告収入の増加にも繋がると考えています。ただ基本的な戦略は良いコンテンツを作り続けること、それに変わりありません」

そして5Gに備える。愛奇芸本社のある北京でも、エリアにばらつきはあるものの、すでに実装されてきている。5G時代は目の前だ。

「通信量への心理的抵抗が減るうえに遅延も少なく、視聴者との相互連動の可能性も広がる。映像産業に与える影響は大きいでしょう。

これまで愛奇芸はAIの力で独自のエコシステムを作り上げ、視聴者に質の高い娯楽体験を提供してきました。

きたる5Gに対しても研究開発を着々と進めています。5GとAIを組み合わせて、(画面の)識別機能や言語処理など、幅広い範囲に応用できると信じています」

注目記事