衆院選の投開票日が10月22日に迫り、TwitterやFacebookなどのSNSやインターネットは連日、選挙関連の話題で賑わっている。
でも、ひとつだけ"静か"な空間がある。
Instagramだ。日本国内だけでも月間のアクティブユーザー数は2000万人を超える有数のソーシャルメディアだが、選挙なんて何のその、いたって平穏だ。
私の場合、Twitterを起動すれば目に入るのは「選挙・選挙・選挙・選挙」。かたやInstagramを開けば、「ご飯・ご飯・友人の赤ちゃん・ご飯・お洋服」という具合だ。
それはそれで、ホッとする。けれど、この違いはなぜ生まれるのだろう?
InstagramにはTwitterと同じように拡散に繋げられるハッシュタグもあるし、何より、投票率が低い若年層の多くがInstagramを使っている。
各政党がSNSを使ったプロモーションに力を入れるなか、あまり目立っておらず、焦点も当てられないInstagramの"政治的"な積極活用について調べてみた。
まず、Instagramアカウントを持っている主要政党と、そのフォロワー数は以下の通りだ。(2017年10月20日時点。並びは解散前の議席が多い順)
▼アカウントあり
●自民党 フォロワー1021人
(Twitterフォロワー数:約12万8000人)
●希望の党 フォロワー247人
(Twitterフォロワー数:約1万2600人)
●公明党 フォロワー1434人
(Twitterフォロワー数:約7万5000人)
●社民党 フォロワー141人
(Twitterフォロワー数:約2万3000人)
●日本のこころ フォロワー254人
(Twitterフォロワー数:約3万9000人)
▼アカウントなし
●共産党
●立憲民主党
●日本維新の会
主要8党のうち、Instagramを運用しているのは5党だった。しかしフォロワー数は多くとも1000人台だ。自民党のTwitterフォロワー数は12万8000人など、各党が持つTwitterやFacebookアカウントと比べるとはるかに少ないことがわかる。
投稿している写真や動画は、街頭演説や遊説、所属議員の政治活動を切り取った場面などが主だ。
衆院選の候補者や参議院議員など個人に焦点を当てても、Twitter・Facebookと比べるとInstagramを積極活用する動きは鈍い。
なぜInstagramは敬遠されるのだろうか?
候補者らにInstagramの活用について意見を聞くと、実に"ネガティブ"で、けれども"切実"な答えが返ってきた。
ある参議院議員は「小泉進次郎氏など一部の人気政治家やスタッフの人数が充実している国家議員でない限り、Instagramまでには手がまわらない」と打ち明ける。
文字が書き込めるTwitterやFacebookと違って、Instagramは写真が勝負だ。オシャレな写真や動画を投稿できるスタッフを雇うことも考えたが、「普段はInstagramはそこまで効果がない。選挙が終わったあとに解雇するわけにはいかないので、あきらめました」と話す。
アメリカの大統領選などで候補者がInstagramを活かしている事例は知っているが、「選挙にかけられる資金が違いすぎる」という。
確かにInstagramはハッシュタグは有効だが、投稿をシェアしたりリツイートしたりする機能はない。ひとつの投稿が拡散することがないプラットフォームだ。
また、衆院選のある候補者は、「政治家は能書きを言いたがるので、写真だけだと物足りないのでは」と笑う。海外の政治家は家族の写真などを載せているが、「危機管理の点から家族の写真は載せたくないし、日本では家族と過ごしていると仕事をせずサボっているとみられるので...」と語る。
そして、有権者側にも、最新のネットツールに付いていっていない面があるとも指摘した。この候補者は、「選挙カーで走り回って泥臭くしているのが良いと思われる。細身のスーツを着るのもためらわれる風土で、オシャレなツールは向かない」と話す。
費用対効果、リソースの問題、Instagramの"オシャレさ"、それにそぐわない従来の選挙のイメージ...。
さまざまな要素が、政治家のInstagramへの進出を阻んでいるようだ。
日本の衆院選と規模は違えど、アメリカの大統領選の期間中は、候補者のInstagramにも注目が集まった。Instagramが積極的に活用されるのは、アメリカ国内のInstagramの月間アクティブユーザー数が7800万人を超え、日本(2000万人)よりもはるかに多いことも背景にあるとみられる。
Instagramのユーザー特性にあわせて、工夫を凝らして好まれる投稿をし、ファンを増やしていく。各候補者のインスタ戦略はどれもユニークで、おもしろい。
CNETは、アメリカ大統領選におけるInstagramを活用したソーシャルメディア戦略について、以下のように解説している。
「ドナルド・トランプ氏は、ファンとのコミュニケーションに活用し、ディベートに参加すべきか意見を募るといった使い方を見せている。また、若い世代に人気のあるバーニー・サンダース氏は、はじめて投票するファンに対して投票方法などを指導した。ヒラリー・クリントン氏は、彼女の支持者であるセレブリティ(ケイティ・ペリー)にInstagramのアカウントを1日乗っ取らせる試みを実施している」
<トランプ氏の投稿。「共和党の討論会に出るべきか?」と動画付きでフォロワーの意見を募った。>
<クリントン氏の投稿では、ケイティ・ペリーがアカウントの"乗っ取り"をした。>
投票所に行くともらえる「I voted(投票に行きました)」と書かれたオシャレなステッカーも、手軽に投票を呼びかけるきっかけを作った。
<キャメロン・ディアス>
<ハル・ベリー>
<ファッションブランドのSupreme>
Instagramは「ビジュアル(見た目)」重視の世界だ。それも、端的な「外見がかわいい・キレイ・かっこいい」だけに留まらず、いわゆる「フォトジェニック」「インスタジェニック」なモノが好まれる空間だ。
都内の女子大生のInstagram利用者に意見を聞くと、「政治に介入してほしくないと少し思います」と話す。
「インスタは、アートみたいなものなので。『インスタ映え』というワードがあるように、TwitterやFacebookに比べてクリーンなものだけが多いイメージだし、そういうものだけを見ていたいです。政治家が真剣に長い文で訴えたり、批判するものをインスタでは見たいと思わない...」
形容しがたい、オシャレな感じや雰囲気。Instagramをよく使うデジタルネイティブ世代は、日々そんな風景を見て生きている、目の肥えた人たちだ。
しかし一方で、「候補者の活動を写真やライブ動画で見ることで、堅いイメージの選挙活動が身近に感じられるかもしれない」とも言う。
確かにInstagramはオシャレすぎるかもしれないが、ストーリーズ機能などを活用して、「親しみやすさ」や「おもしろさ」を磨く手もある。
成功事例はまだなく、Twitter・Facebookとは違った層も存在するソーシャルメディアだからこそ、今まで挑戦できなかったようなアピールも、比較的自由にできるはずだ。
もしかしたら「細身のスーツ」がウケるかもしれないし、「家族と過ごしている写真」に誰もサボってるなんて言わず、大量の「いいね」が付くかもしれない。
障壁はあれど、もし、若い人への政治参加を本気で呼びかけるなら。「Instagramというオシャレなツールは向かない」と謙遜はせず、ビジュアル重視の世界に飛び込んでいって、多くの若い子たちがみている世界を、同じ目線で見てほしいと思う。