新型コロナ追跡アプリ、全労働者にインストール義務づけ。インド政府

今回義務付けられたのは、インド電子IT省が無償配布している「Aarogya Setu」アプリ。携帯電話の位置情報を使って感染者との接触履歴をトレースするもの。
Yawar Nazir / Getty Images

新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるため、世界各国の政府は感染者との接触履歴を追跡するスマートフォン向けアプリをリリースしています。

それらの多くは本人の自由意志に委ねられていますが、インド政府が自国のアプリ「Aarogya Setu」のインストールをすべての労働者に義務づけたと報じられています。インド電子IT省が無償配布している「Aarogya Setu」アプリは、携帯電話の位置情報を使って感染者との接触履歴をトレースするもの。感染者が発見された場合、過去14日間の接触者にSMSなどで医学的な助言が届く/オンラインチャットや感染者との接触履歴から感染リスクを自分で確認できる/匿名化データを基に政府がホットスポットを特定して公表するなどの機能を持つとされています

本アプリも、基本的には利用者の同意を前提とした作りです。しかしインドメディアET Techによると、5月4日(現地時間)から政府が公共機関および民間企業のすべての労働者にインストールを義務づけたとのことです。従業員らを完全にカバーすることは各組織トップの責任とされ、できなかった場合は処罰に繋がると伝えられています。

すでにAarogya Setuは8000万回以上ダウンロードされており、インド政府の目標は全スマートフォンユーザーを網羅すること。同政府は労働者のみならず、封じ込めゾーンの住人にもアプリのダウンロードを義務づけています。

感染拡大を抑え込むには感染者の発見および2週間以内(潜伏期間)に濃厚接触した人たちの特定が必須となります。が、2週間前に誰とどこであったか記憶を辿るにも限界があり、聞き取り調査にも多大な人的リソースを要するため、自動的かつ客観的に記録するスマートフォンが補完する意義は大きいと言えます。

とはいえ、「いつ、誰に会ったか」「どこに行ったか」はプライバシーの最たるもの。ましてAarogya Setuアプリは利用者の位置情報や他の利用者との接触履歴がデバイスのGPSおよびBluetoothにより常にモニターされる仕様であり、取り扱いには細心の注意を求められるはずです。

同アプリは公式には各デバイスのIDは匿名化され、他のデバイスとのBluetoothによるやり取りの記録も暗号化されているとうたっています。が、Internet Freedom Foundation(デジタルの権利と自由の擁護を行うインドのNGO)はアプリがデータ保護基準を満たしていないか、あるいはアルゴリズムにつき十分な透明性が提供されていないと指摘しています。

そしてMozillaも、同アプリが取得したデータがどのように使用されるか不明であり、かつインドには一般市民を保護するに足りるプライバシー法律も整備されていないと警告しています

そうした指摘があるからといって、インド政府がアプリから得たデータを濫用するとは限りません。裏返せば、将来的に濫用しない保証もどこにもないと言えます。アップルとGoogleは新型コロナ対策での協力に際しても、プライバシー保護・透明性・ユーザーの合意を最重要視する一方で、パンデミック収束後には無効化を約束しています

新型コロナ感染は長期的には収束に向かうと思われますが、今後のアフターコロナにおいては各国政府が収集した個人データの扱いに注目が集まるかもしれません。

Source: ET Tech

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