【UPDATE】2017/09/07 21:09
民進党の山尾志桜里・元政調会長が離党届を提出した。記者会見の詳細はこちら。
9月7日発売号の「週刊文春」が、民進党の山尾志桜里議員と男性弁護士との不倫疑惑を報じました。山尾氏は不倫疑惑について否定していますが、内定していた民進党幹事長の人事は白紙に。執行部入りも見送られ、一部メディアは離党を検討していると報じています。
山尾氏は2016年に「保育園落ちた日本死ね」と書かれた匿名ブログを国会で取り上げるなど、舌鋒の鋭さで注目を集めていました。山尾氏は不倫報道に対し、いまのところ沈黙しています。
民放各局や新聞各紙も、この不倫疑惑を取り上げはじめました。安倍政権への厳しい追求で名を挙げた山尾氏ですが、今度は世論からの厳しい目で見られることになりそうです。説明責任を果たすことはできるのでしょうか。
政治家の「不倫報道」、きっかけは現役首相のスキャンダル?
さて、「英雄、色を好む」という言葉がありますが、歴史を紐解くと、政界は今も昔も異性スキャンダルの巣窟のようです。政治評論家の森田実氏は「週刊朝日」(2007年9月14日発売号)に対してこう語っています。
「大物政治家は、とかく噂はあった。まじめだったのは石橋湛山と総理時代の池田勇人くらいですよ」
歴代首相や大物政治家をみると、そんな話は枚挙に暇がありません。例えば、戦後日本を形作った「名宰相」と謳われる吉田茂氏は、新橋の芸者が愛人でした。吉田氏は神奈川県大磯の自邸に住まいを与え、のちに再婚しています。
最近、再注目されている田中角栄氏にも、妻以外の女性との間に婚外子がいます。ところが、スキャンダルになるどころか「永田町ではむしろ『男らしい』と評され、政治力には影響しなかった」(「週刊朝日」2007年9月14日発売号)そうです。21世紀の今から考えると、なんとも時代を感じる話です。
こんな逸話もあります。「政界の大狸」「政界の策士」などと評され、1955年に自由民主党の結党による「保守合同」の立役者となった三木武吉氏。「妾が6人いる」と指摘されると、「事実は7人だ」と切り返したそうです。
多数の女性と関係を持つことは、永田町では「男の甲斐性」とされていました。政治家の番記者は、担当政治家の女性関係を知りつつ、書かないことは当然だったといわれます。
ところが、そんな状況はある事件を機に一変しました。
1989年、宇野宗佑首相と東京・神楽坂の芸者との関係を「サンデー毎日」が報道。「指3本を握られて『これ(月30万円)でどうだ』といわれた」と、宇野氏の「買春」を暴露しました。
宇野政権の人気は凋落し、本人が辞意を漏らしていないにも関わらず「辞意表明」の報道も。AERA(1989年7月11日発売号)によると、報道後に江藤隆美・自民党幹事長代理に「なんで、こんなことになったんや!」と、えらい剣幕だったそうです。
自民党は直後の参院選で惨敗。宇野氏は在任わずか69日で首相を辞任しました。
当時のサンデー毎日の編集長だった鳥越俊太郎氏は、朝日新聞(2016年2月24日夕刊)にこう語っています。
「これは大臣と愛人の愛憎劇などというものではなく、大臣による買春行為なのではないか、と思いました。証言によれば、宇野氏は彼女にポケットベルを持たせ、彼女の都合はお構いなしにホテルに呼び出しては、月に30万円を渡していたというのです。彼女が傷ついたのも、呼び出された後に、現金をパンと渡されたことだと言っていました。『屈辱的だった』と告白しました」
宇野首相の女性問題は、国会の代表質問でも取り上げられました。「政界のタブー」が、とうとう表沙汰となった瞬間でした。
これ以後、政治家の私生活やスキャンダルは、有権者から厳しい目で見られるようになりました。首相や閣僚、党代表、幹事長クラスのベテランから1年生議員に至るまで、「不倫疑惑」は政治生命を左右することになります。
不倫に婚外子も... フランスの事例は?
「政治家の女性問題」というと、元フランス大統領のフランソワ・ミッテラン氏のエピソードが語り草となっています。1981年、フランス大統領だったミッテラン氏は、婚外子の娘について、事実関係を質問した記者に対してこう答えました。
「Et Alors?(それがどうかしましたか?)」
公私を分けて考え、「愛」には寛容なお国柄。フランスでは、異性問題で政治家の資質を問う声は日本ほどではないようです。ミッテラン氏の「隠し子」についても、一時は「エリゼ宮(大統領府)」にも住まわせていたことは、担当記者のほとんどが知っていましたが、20年にわたって報道されませんでした。
2014年には、当時のフランソワ・オランド大統領が女優との「不倫」を報じられ、事実婚の解消を発表しました。
その前の大統領、ニコラ・サルコジ氏は、不倫の末に再婚するも破局。その後、カーラ・ブルーニーさんと3度目の結婚をしました。
ただお国柄なのか、いずれの場合も女性問題で大統領の人気は下がりませんでした(...といっても、オランド氏の場合は、すでに支持率が低かったのですが)。
サルコジ氏の場合は、「誠実に仕事を続ける印象を前面に出し、同情を集めた」と見る向きも。また、サルコジ氏は公私の区別をあいまいにすることで、それをイメージ戦略に活かしました。
フランスの世論も、「大統領の私生活より、雇用や景気対策が知りたい」とクールを装いつつ、「政治家の私生活に興味津々」だそうです。
(オランド氏の)不倫の特ダネを載せたクローザー誌は、普段の2倍近い60万部を売った。世論は「大統領の私生活より、雇用や景気対策が知りたい」とクールを装いつつ、興味津々だ。メディアの側からも、「大統領の私生活が表に出るのは今にはじまったことじゃない。知る権利もある」(20歳代の地方紙記者)との声が出る。
仏リベラシオン紙の編集局内では、「私生活の暴露は問題だ」とする立場と、「もはや政治の話になっている」という立場とで激論があったという。社説はそんな内幕を明かし、「政治家に透明性が求められる時代。意図的に私生活をさらしてもいる。われわれ(メディア)は公私の新しい境界線を探さねばならない」と表明した。
(2014年2月4日・朝日新聞 朝刊)
国会議員の「不倫スキャンダル」近年の報道まとめ
与野党を問わず、政治家の不倫疑惑はこれまでに数多く報じられてきました。以下に、これまでの主な報道を紹介します。(*肩書・所属は当時)
■宇野宗佑首相(自民)
1989年、神楽坂の芸者との関係を「サンデー毎日」が報道。相手本人が「指三本を握られて『これ(月30万円)でどうだ』といわれた」と暴露した。国会の代表質問でも取り上げられ、政界のタブーだった「下半身問題」が表沙汰となったきっかけだった。
宇野政権の人気は凋落し、本人が辞意を漏らしていないにも関わらず「辞意表明」の報道が出たという。AERA(1989年7月11日)によると、報道後に江藤隆美・自民党幹事長代理に「なんで、こんなことになったんや!」と、えらい剣幕だったという。自民党は直後の参院選で惨敗。宇野氏は在任わずか69日で首相を辞任した。
■船田元氏(新進)
「政界のプリンス」と評されたが、1996年に同僚議員との「不倫デート」をフライデーが報じ、「政界失楽園」などと批判された。前妻との離婚後、2人は再婚。2000年の選挙で落選するも2003年に国政復帰(自民党に復党)。
■橋本龍太郎首相(自民)
1997年、中国人女性との関係を「週刊文春」「アエラ」などが報道。女性はかつて中国政府の衛生省外事局に所属し、1985年に駐日中国大使館員として来日していたことから「中国政府の情報部員だった」などと報じられた。
ワシントン・ポスト紙は「不倫のつけが首相を直撃」という見出しの記事で、橋本首相と中国人女性との過去の交際が日本国内で話題になっていることを紹介した。
発言:「何べんも恋はしたが、すべて終わったこと。相手の方が幸せであることを祈っているし、隠すつもりもありません」
■菅直人代表(民主)
「首相にしたい人ナンバー1」との呼び声も高かったが、1998年に元キャスターとの「愛人疑惑」を週刊文春が報道。菅氏は1999年の党代表選で敗北。
発言:「家内にも『あなたは脇が甘いのよ、バカたれ』と叱られた」
■中川秀直官房長官(自民)
2000年、「週刊ポスト」が高級クラブの女性との不倫疑惑を報道。女性との会話を録音したテープや写真も流出した。中川氏は3カ月で官房長官辞任へと追い込まれた。
■山崎拓幹事長(自民)
2002年、愛人だったという女性の手記などを「週刊文春」が掲載。同誌などを相手取り名誉棄損で4件の訴訟を起こしたが、その後すべて取り下げた。
2003年9月には副総裁に就任したが、同年11月の衆院選で落選。31年間保持していた議席を失った。その後、国政に復帰するも再び落選。2012年に引退を表明した。
■佐藤ゆかり氏(自民)
2005年、「週刊文春」などが、2人の男性との不倫疑惑を掲載。男性が佐藤氏から受け取ったとされるメールも公開した。
■細野豪志氏(民主)
2006年、「フライデー」がフリーアナウンサーとの路上キス写真を掲載。党政調会長代理を辞任した。
■古賀誠氏(自民)
2006年、「月刊現代」で10年近く恋愛していたという女性本人が手記を発表。女性との関係は良好だったようで、手記も「人間的にはとても素晴らしい方」「来世でも恋愛したい」といった内容。「社会的制裁」には至らなかった。
■又市征治幹事長(社民)
2007年、マッサージ師の女性との交際疑惑を「週刊新潮」が掲載。又市氏は新潮社らに損害賠償などを求める訴訟を起こした。
■姫井由美子氏(民主)
2007年、元高校教師の男性が「週刊文春」で不倫関係を暴露。同年12月、自伝本『姫の告白』(双葉社)を出版した。
発言:「真実は本人たちしか知りません」(週刊誌の報道を受けて)
■横峯良郎氏(民主)
2007年、「週刊新潮」がホステスの女性との不倫騒動を報道。賭けゴルフの実態などを暴露した。横峯氏側は新潮社などに損害賠償などを求めたる訴訟を起こした。
東京地裁は、暴力団組長と賭けゴルフをしたり、女性に酒を強要し、服を脱がしてペンで落書きし写真を撮ったりしたなどと報じた記事について「真実の証明があった」と認めた。その後横峯氏側は東京高裁に請求放棄を申し立て、記事の内容を事実上認めた形となった。
■西村正美氏(民主)
2011年、議員宿舎において同僚議員と「半同棲不倫」をしていると「週刊文春」が報道(2人は後に結婚)。2016年の参院議で落選。2017年の都議選でも民進党公認として杉並区から立候補するも落選。
■後藤田正純氏(自民)
2011年、六本木のバーで女性と飲食をともにし、キスや抱擁した様子を「フライデー」が報道した。
その後、後藤田氏は衆院財務金融委員会委員、自民党政務調査会・財務金融部会長代理を辞任。地震対策特別委員会副委員長など、自民党内での全役職を辞職した。妻は女優の水野真紀。
■中川郁子氏(自民)
2015年、同じ派閥「二階派」の同僚議員との「路上キス」を「週刊新潮」が報道した。中川氏は、安倍総理の盟友で「将来の総理候補」の一人と目されていた故・中川昭一氏の未亡人。
発言:「酒席の後であったとはいえ、私の軽率な行動により、門議員の奥さまやご家族、私を支援していただいている地元の皆さま方に大変ご不快な思いをさせたのではないかと誠に申し訳なく思っております」(報道後のコメント)
■宮崎謙介氏(自民)
2016年、妻・金子恵美衆院議員の出産時期に育休取得を宣言しながら、元タレントの女性との関係を「週刊文春」が「ゲス不倫」などと報じた。謝罪会見では、結婚後に複数の女性と性的関係があった点を認め、謝罪した。
同年2月16日、週刊文春による報道を理由に議員辞職。自民党を離党した。不倫による議員辞職は、憲政史上初とされる。
発言:「人間としての欲が勝ってしまった」
(報道を受けての謝罪会見で)
■中川俊直氏(自民)
2013年にハワイで元愛人との間で結婚証明書にサインをし、「重婚ウェディング」を挙げたと、2017年4月に「週刊新潮」が報道。経済産業政務官を辞任した。
中川氏は3月にも写真週刊誌「フライデー」で自民党の女性国会議員と"密会"していたと報じられていた。8月、中川氏は自民党を離党した。父は中川秀直氏。
■今井絵理子氏(自民)
「週刊新潮」(2017年7月27日発売号)が、同じ自民党の神戸市議の橋本健氏と「不倫関係」にあるとする記事を掲載した。橋本氏をめぐっては、政務活動費の支出をめぐる問題も浮上し、8月に神戸市議を辞職した。
■山尾志桜里氏(民進)
「週刊文春」(2017年9月7日発売号)が、男性弁護士との不倫疑惑を報道。前原誠司代表から民進党幹事長の内示を受けていたが、疑惑を受けて白紙に。執行部入りも見送られた。