「世界システム論」の社会学者ウォーラーステインが死去。死期を悟ったかのような最後の論考を発表していた

ウォーラーステインはアナール学派の重鎮、フェルナン・ブローデルの影響のもと、カール・マルクスの思想も取り込みながら「近代世界システム」などの名著を書いた。
イマニュエル・ウォーラーステイン氏
イマニュエル・ウォーラーステイン氏
公式サイトより

「世界システム論」という歴史理論を提唱したアメリカの社会学者、歴史学者イマニュエル・ウォーラーステイン氏が8月31日、死去したと、BBCトルコ版などが伝えた。88歳だった。

ウォーラーステイン氏はニューヨーク生まれ。公式サイトによると、コロンビア大(ニューヨーク)を1951年に卒業後、アフリカ研究に没頭した。

その後、カナダのマギル大の教授や、ビンガムトン大(ニューヨーク州)の「フェルナン・ブローデル・センター」のトップなどを歴任。現在はイェール大(コネチカット州)の高等研究員だった。

1970年代、フランスの有力な歴史学のグループ「アナール学派」の重鎮フェルナン・ブローデルに会ったことが研究の転機となった。

アナール学派は、偉人の足跡や大きな出来事を重視するそれまでの歴史叙述とは違い、人々の暮らしや経済、文化、風習、気候、地理など総合的な視点から歴史を分析する新しい手法だった。

ウォーラーステイン氏はこの影響のもと、思想家カール・マルクスの思想なども取り込みながら、近代以降の世界をヨーロッパを中心とした単一のシステムとみなし、資本主義経済が世界的な分業体制で成り立っているとの理論を確立した。

主な著作に「近代世界システム」「史的システムとしての資本主義」「脱=社会科学」などがある。

ウォーラーステイン氏は公式サイトで論考を定期的に掲載していた。7月1日、500回目となる最後の論考を公表。「終わりと始まり」と題し、今後の世界がどうなっていくかなどについて持論を展開した。

1968年以降に相次いだ反グローバリズムの動きが、その後の世界形成にどう影響を与えるのかは「予測は困難」と指摘した。

その上で、「将来の人たちができることは、自分自身と戦うことであり、そうすることで変化は現実のものとなるだろう」としている。

ウォーラーステインは、自らの死期を悟ったかのようにこうも記していた。

「これまで定期的に論考を書くことに身を捧げてきたが、誰も永遠に生きられない。これ以上、論考を書くことはできない」

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