ILOと国際労働運動
連載スタートにあたり
縁あってゼンセン同盟(当時)の国際局に入局して以来、国際労働運動に36年間従事してきた。と言っても、最初の10年ぐらいは何もわからず、ともかく翻訳等使い走りの仕事であった。私の活動の原点はTWARO(国際繊維被服皮革労組同盟アジア太平洋地域組織)であり、主にアジアの縫製労働者の労働組合支援に携わってきた。その私にとってすら、ILO(国際労働機関)は身近な存在とは言えなかった。2017年3月からILO理事として、その活動に直接関わるようになり、今更ながらILOの役割の重要性を少しずつ実感してきている。このコラムを通じて、ILOや国際労働運動に関する私の経験をお伝えすることにより、これらの活動が少しでも皆さんにとって身近に感じてもらえれば幸いである。
ILOの桜の木
3月の理事会時には、ジュネーブのILOの庭で桜が満開となり、タイトなスケジュールに追い回されている私たちの心を和ませてくれる。しかし、これが、日本の元理事からの寄贈だということはあまり知られていない。1987年にILO理事となった丸山氏(元自治労委員長)は、ILOに日本から桜を1000本贈ろうと考えた。ただし、検疫の関係でこれを断念。現地調達とし、36本の桜をスイス北部のバーゼルからジュネーブまで運び、寄贈した。その時同氏が言ったのが、「人は変わる。物は壊れ、無くなる。しかし、根を下ろした木はILOと共に生き続けて花を咲かせてくれる」。その言葉通り、今も桜はILOと共に成長を続けている。
ILOの役割
ILO憲章の前文にあるように、ILOは「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」との原則のもとに1919年設立された。国連機関の中で唯一、政労使三者で構成されており、その意味で労働側にとって重要な機関である。1944年、フィラデルフィア宣言が採択され、基本目標と原則が確認された。復習の意味で触れると宣言では「1 労働は、商品ではない」「2 表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない」「3 一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」と謳われている。結成後100年近く経っているものの、平和、社会正義、貧富の格差等に関する現状を見るとき、残念ながら原則とはほど遠い状況となっている現実に向き合わざるを得ない。ILOの果たすべき役割は大きい。
その主な役割は、ILO条約及び勧告などの形で国際労働基準を設定し、遵守されているか監督し、さらには違反があった場合、当該国に是正を促すことにある。ILOの勧告には、強制力はないものの、近年のCSR(企業の社会的責任)への関心の高まりもあり、条約違反が公になると貿易や当該企業の取引に影響を及ぼすので、国としてもILOの動きには大きな注意を払うことになる。
ILOが問題解決に成功した例として、2014年に申し立てられたカタール政府に対するILO条約第29号(強制労働)及び第81号(労働監督)違反が挙げられる。これは、移民労働者が過酷な労働条件下にあっても、身元引受人となっている雇用主を変更できないし、帰国もままならない点が主な争点であった。
(次号へつづく)
郷野晶子(ごうの・あきこ)
ILO(国際労働機関)理事
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合2018年1・2月合併号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」についてはこちらをご覧ください。