奈良市立一条高校が2019年度の新入生から新制服に切り替えるのに伴い、ネット通販でメーカーから生徒・保護者に直接販売することを公表した。スマートフォンで注文・購入する仕組みを作るという。販売店や卸業者を通さないため、現行モデルの価格から2割程度安くなるという。
同校の藤原和博校長が3月20日、文部科学省で同校の制服製造を担当する「瀧本」の寺前弘敏副生産本部長とともに会見して明らかにした。入学時の制服をネットで注文・購入する方式は「初めて」という。
現行の制服(上着、冬夏のスカート・ズボン、冬夏のシャツの計5点の合計税込金額)は男性で4万7550円、女子で5万1950円。対して新制服の税込み価格は男子生徒向けのAタイプで3万7550円、女子生徒向けのBタイプで4万1950円と、それぞれ1万円安くなるという。新制服は女子生徒向けのズボンタイプも新たに用意、性別に関係なくどのモデルを着てもいいという。詰め襟服は中学時代のものでも、一条高のボタンに付け替えれば引き続き着てもいいという。
購入前に生徒にIDを配り、IDがないと、専用サイトで購入できない仕組みを作るという。また、寸法の測定は、事前に測定方法を示した上で、推奨サイズなどを載せて参考にしてもらうという。追加注文は24時間受付し、翌営業日の発送を目指す。
藤原校長によると、2015年11月ごろから瀧本と制服リニューアルに向けて研究開発をしていたという。2016年に藤原校長が担当する「よのなか科」の授業で、制服の歴史的な経緯を生徒と勉強、2017年秋から制服の見本を提示して生徒、保護者、教員から意見を聞いたり、地域の販売店と調整したりして、新しい制服のモデルや販売方法を話し合ってきたという。
会見での主な内容は以下の通り(コメント部分を編集しています)。
■直売の理由
藤原校長)公正取引委員会が2017年秋にまとめた調査報告書で、この10年で制服が値上がりしているという実態が示されたほか、銀座・泰明小学校のアルマーニの標準服が議論を呼ぶということなどがあった。衣料品の価格は基本的に下がっているのに、学生服だけが値上がりしている。こうした現状にメスを入れたかった。私自身、2003~08年、杉並区立和田中学の校長として、制服をリニューアルした。このときは5000円値下げして欲しいと求めて実現したが、一条高の校長になって1年目で、小売店から生地が手に入らないと値上げを提案され、抵抗できなかったことがあり、高すぎると疑問を持っていた。
今回、メーカーには、私が「いくらまでにして欲しい」と指し値をした。それに応えられたのが、瀧本だった。消費税8%で、現行制服からちょうど1万円のダウンとなる。仮に今後消費税が上がって15%になっても、13%の値下げは維持できる。それが実現できたのは、販売業者を「中抜き」してネットで直販できるからだ。アマゾンにしろZOZOTOWNにしろ、通販で購入できる時代。その技術を使えば、もっと画期的に便利になると思った。
多くの人が制服は注文服だと勘違いしている。でも、ちょっと考えて欲しい。採寸から入学式まで2週間でできない。本当は、半年前から生産している。だいたい6~8サイズを生産して、当てはめているだけに過ぎない。制服は、注文服などではなく、既製服なのだと気づくことが重要だ。
学校制服の市場規模は1100億円程度あるが、これを全国の保護者が負担している。文科省の責任範囲ではないし、教育委員会も学校に任せて管理していないが、着なくてはいけないという点からすれば、これは公共事業だ。その公共事業の費用を1割削減できるという話だと思った。これを放っておいてはいけないと思った。校長がマネジメントに目覚めれば、1-2割は即下がる。ざっとした数字で恐縮だが、100億円くらいは見直せば下がる。一条高校がその先駆けになればいい。
寺前副本部長)学生服業界は一般と違うやり方を続け、変わってきていなかった。どうしても学校制服の特質上、海外で生産するということがいまも難しいのが現状だ。だが生徒は少子化で減り続け、販売やメーカー側は高齢化が進んでいる。そのなかで、採寸にかかる人員や経費には、限界が見えている。
一方で、消費者はネット通販に抵抗がなくなってきている。そんな状況でこれからの制服業界を考えると、チャレンジしていかなければならない。そこに意義がある。いつまでも学生服だから、と保護者、学生に納得いただくのは難しいと思っている。そんな折、ちょうど、藤原校長からの投げかけもあったので、チャレンジするべきだろうと思った。
藤原校長)入学時の制服購入をネット通販にする方法は、全国で初めてだと思う。すでに販売した制服のオプション販売をしている私立学校はあるが、採寸からスマホで完結させようとしているところは初めてだと思う。
販売の採寸方法は一条高校の生徒会と瀧本で開発していく。非常に易しいインターフェースが必要。ファッションのネット通販を手がけるところが増えているので、5年もすれば、スマホで体を撮ればサイズが測定できるアプリが開発されると思う。
コストを落とすためには、何かが犠牲になる。学生服は注文服でなく、既製服という点を理解して欲しい。1ミリ単位で合わないから伸ばしてほしい、詰めて欲しいというクレームが出ればコストが上がる。実際は既製服なのだと分かって欲しい。
寺前副本部長)採寸は、生徒がどこを測ればいいかなど、分かりやすいたたき台をつくりながら、生徒会で使ってもらって、意見を聞きながら構築を進めたいと思っている。アプリは瀧本が開発し、生徒会が助言するかたちを取る。
■販売店は
藤原校長)「非常に困る」と販売店からは言われたが、校長のマネジメントしては、半年間協議した上で、生徒保護者の利益を優先すると決めた。泣いていただいたということになる。ただ、体操服の販売は残した。
寺前副本部長)既存の小売店は、いきなり「はいどうぞ」とはならないが、少子化と高齢化が進むなか、今まで通りの販売方法は限界がある。そう考えると、今回の話は、単純に直売で2割値下げするという話だけではない。他業種であれば、街の電器店が減っているが、それは役割が変わっているためだ。設置しにいくとか修理をするとか、今の役割はそうしたアフターフォローに変わっている。学生服もそうした点を考えて新しい協力のかたちを作っていけたらと思っている。作業した分だけ正当な価格をもらう、という形にしていかなければならない。中を抜くだけでなく、新しいやり方を考えないと生き残れなというチャレンジだと思っている。このシステムを全国的に広げるかどうかについては、理解して進めていきたい。
藤原校長)革新的なことは、業界1位はやらない。既存のシステムで利益を出しているから。その点、瀧本は業界4位。起死回生しているビジネスパートナーとして、声を掛けさせていただいた。制服のモデルチェンジは非常に面倒くさく、すごくハードルが高い。保護者から変えたいと言わないと、校長から変えないと思う。