日本は"キャラ"じゃないことをするのが難しい社会だ。
普段、化粧をしない人が化粧をすれば「どうしたの!」と聞いてくる人がいたり、いつもスニーカーを履いている人が、ピンヒールを履けば「女になったなあ」と言ってくる人が出てくる。
金髪の友だちに「黒髪も似合いそうじゃん」と言うと、「いや、もう金髪キャラが成り立ってるから今更変えるのはムリっしょ」と言われた。
私は「誰よりも女を楽しみたい」と思ってる。だからこそ、メリハリをしっかりもちたい。
仕事に性別は関係ない、人と人のつながりにも性別は関係ない。だから、女として着飾るのは年に数回。そうなると、周囲の人はどんどん「化粧しないキャラ」とか「ロマンスに興味ないサバサバ系」とか枠組みを作っていく。そんなの求めてないのに。
口から出てくる裏腹なことば
ひょんなことからホストクラブデビューすることになった。
当日までの間、ずっとそわそわしてた。
でも、周囲には「なんか、仕事でさ。仕事ね。ホストクラブ行かなきゃいけないわけよ」と興奮を隠しながら話す。
すると、友人から「あんたは楽しめないでしょ。だってキャラてきに女の子扱いとかないっしょ」という反応が返ってくる。
「だよね〜、まあ仕事だからしゃあねえんだ」と、『え、わたし結構ガーリーなんですけど...』という本心とは裏腹な言葉を口にした。
イケメンがつくってくれたカルピス
同僚たちとお店に入る。きらきらした店内にスラッとしたスーツの似合う男の人が並んでる。
「めっちゃキラキラしとる!!男の人いっぱいる!!」とワクワクした。でも、キャラじゃないから「はいはい、15Wぐらいの明るさね。オッケーオッケー」なんて、業者のような独り言をつぶやいた。
代わる代わる男の人がやってくる。物腰柔らかな空気を連れて。
「あきちゃんは何がすきなの?」、「あきちゃんは美人さんだね」と、お酒が飲めない私にカルピスを作って渡してくれた。イケメンがつくってくれたカルピスは天国の味がした。
これまで持っていたホストに対する印象は「女の人からお金を巻き上げる」、「お客さんを風俗に入れて、彼女が稼いだお金で成り上がってく」とか。ポジティブなイメージはほとんど無かった。
でも、時間が経過するとともに、そんなイメージは払拭され、単なる優しい人たちの集合体だと気づいた。
(もちろん、1回の体験だけで、全てがわかるわけではないけれど)
優しさのプロによる『優し講座』
お酒を飲まない私は天国カルピスを片手に、ほろ酔い気味の同僚たちをみていた。
すると、「あぁ、人ってこういうふうにしてもらったら嬉しいんだ」とか、「こういう頷きがほしいだけなのか」と、「優しさ」にまつわることを学ぶことができた。
仕事をしていると、自分の立場や自分とは関係の無い都合、いろいろなしがらみによって攻防戦を繰り広げているような話し方になる。そういうのが、染み付いちゃうと、単なる聞いてほしい話でも、きちんと受け止められなくなる。
ここにいる人はそういうことを絶対しない。まず話を聞く、そして、わかってほしいと思っている部分に「そうだよね、わかるよ」と頷いてくれる。ただ聞いてるだけじゃない、「ぼくもそういうときがあって、同じように悩むんだよね」と自分の話をしてくれる。
キラキラとした店内からは想像できない、まったりとした時間が流れる。
あぁ、ここは女の子たちが充電しにくるところなんだと...
お姫様扱いされたかったんすわ...
その日は3軒ハシゴした。最初のお店でシャンパンコールを体験。艶やかな男性たちがわたしたちを囲み、マイクで「姫たちは」と私たちを呼ぶ。
さらに、店を出るときに、ホストが私に「お荷物持たせて」と言ってきた。「いやいや、自分で持ちますよ」という私に、笑顔で「じゃあこれ持つね」とストールを持ってくれた。
しまいには、別れ際に私の頭をぽんぽんとしながら「会えてよかったよ」とキラキラした笑顔をみせた。
そのとき、私のなかの奥底に閉じ込めたある感情が爆発した。
幼稚園からずっといつも遊ぶのは男の子。殴り合いの喧嘩やプロレスごっごなんて普通だし、自分よりも大きな男の子を縄でぐるぐる巻きにして、ジャングルジムに縛り付けたりしてた。
でも、ずっと戦いごっこでは男の子に守ってもらうお姫様になりたいと思ってた。
冒険ごっこ中も私より前を歩き、両手に抱えた拾い集めたどんぐりを持ってほしかった。
そういう気持ちは小さな箱にぎゅうぎゅうに詰めて、上からコンクリートでかためてガムテープで何重にも巻いて、心の奥底に閉じ込めた。
勝手に固定された"キャラ"に抗えなかったから。素直になんてなれなかった。
あーわたし、おんなのこだわ。あーもうお姫様扱いされたいんだわ、もうこれはしょうがないんだわ。認めてあげないといけなんだわ...。
認めざるを得ない自分の素直な気持ちを全力で受け止め、残りの時間をはしゃぎ尽くした。
人はしてもらったことしかしてあげられない
カラオケとか、飲み会とかストレスを発散する方法はいくつもある。でも、ホストクラブで得たものは、それとはまたちがった「スッキリ」だった。
「人はしてもらったことしかしてあげられない」という言葉が頭に浮ぶ。保育士時代に子どもと向き合うときに唱えていた言葉だ。保育士から離れて今年で3年。
子どもたちから離れて、「大人なんだから、わかってくれるだろう」と相手に勝手に期待して、勝手に裏切られる毎日。でも、大人も子どもと同じで、経験したことしか誰かにしてあげられないのだ。
だから日々の喧騒から離れて、ジャストフィットな優しさに浸かることは自分だけのことじゃないかもしれない。
体験した優しさを誰かに還元しよう。
そう覚悟して、ワタシ史上ナンバーワンが寝ている我が家へとタクシーを走らせた。