
抗議や脅迫が相次ぎ、展示を中止していた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展『表現の不自由展・その後』が10月8日、再開した。初回の観覧には、30人の抽選枠を求めて709人が並んだ。
23.6倍の倍率をくぐり抜けた参加者の中に、三重県四日市市からやって来た50代の男性がいた。
「見たら怒りが湧くんじゃないか、と思っていた」と語る男性に、話を聞いた。
怒りはなかったが、「反日的な偏り」を感じた
男性は、不自由展の中止を伝えるニュースを見た時、「もっとまがまがしい作品が展示されていて、見たら怒りが湧くんじゃないか、と思っていた」という。慰安婦をモチーフにした少女像や、昭和天皇の肖像が燃える映像作品が展示されていたためだ。
再開初日となった8日、初回の観覧ツアーは午後1時から抽選を受け付けた。30人の枠を求めて709人が列をなし、会場の愛知芸術文化センターは大勢の人でごった返していた。倍率は23.6倍と、狭き門だ。


運よく当選した30人は、「表現の不自由展」が展示されている8階に移動。その後、貴重品を除く手荷物を預けたあと、「検閲」や「表現の自由」について説明するパネルを鑑賞した。


パネルを閲覧した後は、いよいよ展示室に移動する。
展示室には、金属探知機を持った警備員3人が待ち構えており、当選者は入場する前にボディーチェックを受ける。


こうした段階を踏んで、午後2時10分、初回のツアーがはじまった。観覧時間は1時間。展示室の中では、来場者はガイドを聞きながらツアー形式で作品を観覧するという。
作品は写真・動画撮影は禁止。メディアに対しても、展示室内の撮影は禁じられた。
男性によると、終盤には、「表現の不自由展」実行委員会と来場者の間でディスカッションする時間が設けられたという。
実際に作品を鑑賞し、どんな感想を持ったのか。
男性に聞くと、「特に心が揺さぶられることはなかった」と打ち明けた。
だが、当初予想していた「怒り」の感情は「まったく湧かなかった」といい、「そんなに大きく騒ぐほどのことじゃない」とも感じたという。
それは、自分の認識とは異なったとしても、作者が何を伝えようとしたのか、その意図を「理解」することができたからではないか、と話す。
「『アート』と呼ぶものには色々な段階があると思うが、少なくとも自分にとって、心を揺さぶられるようなものではなかった。不快に感じる人もいる、とも思いました。ただ、表現としては認められるべきもので、僕自身は見て良かったと思う。いろんな意見があったとしても、まずは自分の目で見てから評価するべきだと思います」
一方で、展示作品のラインナップには「明らかに反日的な偏りを感じ、プロパガンダのようにも見えた」という。表現規制の対象にあった作品を展示するというテーマにも関わらず、エログロのアートなどが含まれていなかったことにも違和感があったと話す。
大村知事は「警備をもっと万全にするべきだった」 文化庁は「議論をするべき」
「表現の不自由展・その後」は、電話での抗議や脅迫が相次いだことから、安全面の理由で開幕から3日で中止に至った。
それから約2カ月。あいちトリエンナーレ実行委員会の会長を務める大村秀章・愛知県知事は、条件付きでの展示再開を発表した。
男性は、「大村知事は愛知県のトップとして、(8月に)中止を決める前に警備を万全にするなど、もっとやるべきことがあったのではないか」と指摘する。
また、文化庁が「愛知県側の手続きの不備」を理由に採択を決めていた補助金全額(約7830万円)不交付を決定したことについては、「再開されてこうして人が集まっているので、議論をして、補助金は出すべきだと思います」と話した。
9日以降の展示についてはこれから協議
再開初日は、2回の観覧ツアーが行われた。2回目は649人が並んだという。
「あいちトリエンナーレ2019」広報担当によると、9日以降の「表現の不自由展・その後」の展示形式については、現段階(8日17時)では決まっていない。
初日の会場内の様子などをふまえて、8日の閉場後に関係各所で協議し、対応が決まり次第、公式サイトで発表するという。
