都道府県境をまたぐ移動自粛要請が全国で解除になった6月19日。2月末から感染状況を見て慎重に休園と営業再開を繰り返し、5月中旬からは長崎県在住の来場者限定で営業してきたテーマパーク・ハウステンボス(長崎県佐世保市)の営業が再開した。
新型コロナウイルスの「第2波」の感染拡大も心配される中、テーマパークとしての約4カ月間の葛藤や、これから先、多くの人が集まる「場」としてのテーマパークはどうなっていくのか、坂口克彦社長に話を聞いた。
(取材・執筆:石川香苗子)
2月から1~2週間単位で計10回のリリースを出した
── 2月末に休園を決断し、6月19日から営業再開しました。社内ではどのような議論がありましたか。
何よりも、お客様を第一に考えようということが議論の中心でした。本当に安心・安全なのか、分かりやすい情報発信ができているのか。お客様から問い合わせを受ける旅行代理店の皆さんがお困りにならないか。
休業と再開の決断についても、2月から1~2週間単位で計10回のリリースを出しました。「当面の間」休業にしますと言うこともできましたが、何よりもお客様に具体的な休業期間や、どのような方針で休業するのか明確にお伝えしなければ混乱させてしまうと考えたからです。
例えば、5月16日から長崎県在住のお客様限定で営業を続けてきましたが、大人の入場料を1,000円に設定しました。1DAYパスポートが7,000円なので、破格の値段です。
5月は園内のバラがきれいな季節なので、自粛生活でお疲れのお客様にぜひ見ていただきたいと考えました。無料で開放する案も出ましたが、お客様が殺到して「密」な状況になるリスクがあったので...。夕方までで閉園してしまうこと、園内の飲食店や土産物店が軒並み休業していることを考え、1,000円だけ頂戴することにしました。
毎週必ず意思決定会議を行い、細かく感染状況の把握と、152万㎡にわたる広大な園内のうち、どの施設を休業・開園するのかセンシティブに議論してきました。それでも2月29日に最初の休業を決断した時は、最終判断は前日の28日までもつれこんで、何が感染防止になるのかわからず手探りの状態でした。
── こうした状況は、どれぐらい続くと予測されていましたか。
全く予測できませんでした。最初のうちはある程度仮説を立てていましたが、その予想がことごとく覆されてしまったので...。取締役会には「今期いっぱい、全ての施設を休業した場合どうなるか」という最悪のシナリオも提出しました。
でも試算の結果、短期的には赤字になっても長期的な経営には影響がないということがわかったので、収益のための開業はせず、お客様最優先で考えようという方針に。
── 2019年10月~2020年3月の中間決算が1億2700万円の赤字という発表がありました。長引くイレギュラーな状況、社員に不安は広がりませんでしたか。
社員に伝え続けたのは、「会社の存続のために開園・休業判断をする必要はない。資金的な余裕は充分にあるからお客様の要望に答えることを一番に考えて欲しい」ということでした。
実際、年単位で休業が続いても従業員を雇用し続けられるだけの余力はありました。国からの要請で休業していたため、従業員に休業補償を100%支払うことができたのも安心材料でしたね。社員には「収益のための開園はしない、安心して自宅で家族と過ごして欲しい」「営業を再開する時はしっかり感染防止対策をするから、力を貸して欲しい」というメッセージを発信し続けました。
最大の防止対策は「密になりにくい」日本一の敷地面積
── 5月中旬に長崎県内の在住者を限定に営業を再開したことに対して、どのような声が寄せられましたか。
一番多かったのは、県内だから安心だという声。「ハウステンボスのバラを見ないと初夏になった気がしない」という声もたくさんいただきました。
おかげさまで「10年ぶりにきました」「初めてきました」という声も多くて。「こんなに広いなら絶対に密にならないから安心です」とか、「感染防止対策がこれほどしっかりしているとは」というありたがい言葉も多く、そうした声が口コミで広がり、従業員一同、大きな力になりました。
── 開演前には、具体的にどのような感染防止対策をされたのですか。
まずは東日本・西日本の遊園地協会が定めた「遊園地・テーマパークにおける 新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に則った対策をしました。
お客様にはマスクを着用していただき、2週間以内に体調不良や海外への渡航、感染者との接触があった方のご来場は申し訳ないですがお断りしています。万が一感染された方がいらっしゃった時のために、入園時に名前や同伴者、メールアドレスなどをご記入いただく「確認書」をご提出いただいています。
それ以外にも、検温や手指の消毒、ソーシャルディスタンスを保つ対策などを取りました。ご入園時にはすべてのお客様にポケットティッシュをお渡しし、ドアノブや自動販売機など気になる部分を拭いていただけるようにしました。買い物かごや記入用のペンも消毒し、一度使用したものは「使用済み」コーナーに置くようにしてもらっています。
接触感染には特に気を配り、こうした消毒の方法については、専門家の協力を仰いで社員向けに2回に分けて講習会を実施しました。ただ、何よりの防疫対策は、この広大な敷地だと思っています。
── たしかに約152万㎡は、想像もつかないような広さです。
ホームページにも「日本一広いテーマパーク」と書いてある通り、定員を制限しなくていいほどの広さなんです。
実は、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーのパーク部分を足すと約100万㎡で、ハウステンボスはさらに、その1.5倍の広さがある一方、年間の来場者は十分の一ほど。つまり、密になりようがありません。これからは天候に左右されずに楽しんでいただけるような屋外施設を充実させて、広大な空間を生かしていきたいと思っています。
── ポスト・コロナ時代、リアルな場やテーマパークのあり方はどのように変化していくとお考えですか。
正直な話、急にお客様が増えるということは難しいと思います。特に一部の屋内施設を休業している状態ですので、来場者の数は天候に大きく左右されます。
しばらくは日帰りの行楽客の方々が中心になるでしょう。なおのこと、天候によって外出を取りやめるケースも増えると思います。
ですからまずは長崎の方、九州の方を中心とした「マイクロツーリズム」に力を入れていこうと考えています。園内にある3つのオフィシャルホテルでは、九州のお客様限定で約半額で宿泊できるプランを期間限定で提供していきます。
年間パスポートの訴求も変えるつもりです。例えば、「金利手数料はハウステンボスが負担するので、10回の分割払いも可能です」という購入方法も提案していきます。分割払いを選択されたお客様には3,000円分のクーポンを提供するので、実質3,000円引きで楽しんでいただけます。
ハウステンボスの魅力を伝えきれていない近隣のお客様にまずファンになっていただき、そこから全国のお客様に「ハウステンボスは、安全でお得で楽しいよ」と口コミで背中を押していただく。地元の方々に強力なファンになっていただくことで、全国のお客様へ訴求する時に応援していただけたらいいなと考えています。
「密な環境へは行きたくない」「遠くへの外出は気が引ける」というお客様の気持ちをしっかり受け止め、ポスト・コロナ時代だからこそできるレジャーを提供していきたいですね。