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お笑いコンビ「マシンガンズ」として活躍しながら、ゴミ収集会社で清掃員としても働く滝沢秀一さんの児童書『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』が発売されました。
滝沢さんはおよそ10年ほど前、家族を養うためにお笑い芸人の仕事に加えてゴミ清掃員の仕事をはじめました。
以来、あまり知られていないゴミ回収の裏側や環境問題の啓発などを行っています。
今回の著書では、小学生など若い読者に向けて、清掃員のお仕事の裏側や謎のゴミの回収エピソードなど、大人でも知らないゴミの奥深い世界をコミカルに綴っています。
今回は、特別に第1章から「知られざるゴミ清掃員の日び」を出張掲載します。
滝沢秀一『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』(学研プラス)
文:滝沢秀一 絵:スケラッコ、萩原まお
第1章 ゴミ清掃員、はじめました。
知られざるゴミ清掃員の日び
(中略)
ぼくは、この仕事にプライドをもっている。だって、ゴミを回収する人がいなかったら、どうなると思う?
ゴミ袋はカラスにつつかれてやぶけ、中身が飛びだし、街はゴミだらけになる。ゴミをえさにハエやネズミが大量発生する。ハエやネズミがふえるの、いやじゃない?いやな気持ちになるだけならまだいいけど、かれらは、その体で病原菌も運んでくるから病気がはやる。
なんでこんなことがいいきれるかというと、その昔、日本でも実際、病気がはやったからなんだ。ペスト、コレラといった病気がはやり、多くの人がなくなってしまった。これは、街がよごれていたことが、大きな原因のひとつといわれているよ。だから、きたない街をきれいにするための法律ができ、ゴミ回収というシステムが生まれ、今にいたっている。
つまり、ぼくらはゴミを回収することによって、病気の流行をふせいでいるといっていい。ね。ほこりに思ってもいいでしょ?
じつは、もともとやりたくてはじめた仕事ではなかった。はじめは仕方がなく清掃の仕事についた。ほかに仕事がなかったからだ。
ぼくは、お笑い芸人をやっている。
でも、お笑いは、それだけで家族を食べさせていくのがとても大変な世界で、子どもができたときにアルバイトをしようと思ったんだ。その時 、36歳。
ところが、ぼくはどこにもやとってもらえず、全部、電話口でことわられた。少しでも、働きやすいところをさがしていたし、仕事に行ける日がかぎられていたせいかもしれない。
そんなときに、友だちにしょうかいしてもらったのが、ゴミ清掃という仕事だった。ぼくはもともと環境問題に対して思い入れがあるとか、ゴミ問題をなんとかしなきゃいけないから、ゴミ清掃の仕事につこうと思ったわけではないんだ。
だからびっくりしたよ、滝沢は。
「ゴミの世界」がこんなことになっているとは思わなかった。みんなはゴミ出しをしたことがある? 近所のゴミを集めるところ、つまり集積所に行くと、すごい量のゴミだなと思ったことない?
ぼくらは1日に、その集積所のゴミを何百個も回収するんだ。
はじめはきつかった。
ぼくがゴミ清掃員になったのは2012年の9月。残暑も残暑。わすれもしない大残暑の9月2日にペットボトル回収をした。
ペットボトル回収とは、資源であるペットボトルを集積所から回収する仕事だ。第2章でくわしく説明するけど、飲みおわったペットボトルは資源になるから、べつで集めるんだ。
首のうしろがジリジリと音を立てて焼けているような暑さだった。太陽をまうしろに、大量のペットボトルに苦しめられた。
ぼくが働いていたその地域は、あみにペットボトルを入れるルールなのだが、あまりの量にあみからはみでている。暑いからみんな、たくさん飲み物を飲むのだ。暑ければ暑いほど、ペットボトルの量はふえる。あみからあふれたペットボトルは、風にとばされて道のあちこちに散らばっている。
「全部、拾って。」
暑くてしゃべるのもやっとの運転手は、なるべくエネルギーを使わないように口を動かさずにしゃべる。立っているだけでも息切れするほどのしゃく熱のなか、1本1本拾いあげろって!?だれが?ぼくが?なんのため?生まれてくる子どものために?なら仕方がない。ぼくは道路に散らばったペットボトルを拾いあげる。アスファルトに近づいた顔は、照りかえしなのだろう熱にパンチされたかのようだった。
とつぜん、耳元で悲鳴にもにた大きな音がした。死にかけのセミがふらふらと飛んでいた。ジジジジという鳴き声が「あぶねぇじゃねぇか」とさけんでいるように聞こえた。のけぞる。それすらもしんどい。あせがとんだ。ヘルメットの下の頭にまいたタオルはびしゃびしゃだ。タオルがふくんでいる水分も、すべてあせで、たれてくる。おく歯がガタガタとふるえる。きっと熱中症になりかかっている。それでも一歩ずつ歩みを進めてペットボトルを拾う。
こんなに大変な仕事だとは思わなかった。36歳まで芸人の仕事しかやってなかったので、まったく運動をしていなかった。
ゴミ清掃員になる前、街なかで見かけたときに「大変そうだなぁ」と思ったことはあったが、やってみるとこんなに大変だとは思わなかった。
ゴミ清掃員は清掃車にゴミ袋をパンパンにつめたら、1日の仕事っておわりのイメージない?ぼくはあった。仕事がハードなぶん、午前中に仕事がおわって、夕方前には帰れると勝手なイメージで思っていた。
じつは清掃車をパンパンにする作業を1日、6回やる。
清掃車がいっぱいになると清掃工場というところに行って、回収したゴミをゴミピットとよばれる大きなゴミ置き場に置いて、現場にもどって、続きをやる。
1回、回収するのにだいたい50分から1時間かかる。
びっくりするでしょ?清掃車1台で、900個のゴミ袋が入るといわれている。重さにすると最大で2トン。
2トンといってもピンとこないよね?小柄なアジアゾウのメスがだいたい2トンといわれている。なのでもし清掃車1台に、ゴミをパンパンにつめたら、アジアゾウのメスと同じ重さになる。
ざっくりだけど、それを6回くりかえすから1日に5400個のゴミ、つまり10〜12トンくらいの重さのゴミを清掃車1台で回収する。メスのアジアゾウ5、6頭分。ゾウの群れだ。
本当にさまざまなゴミが出る。
とても大量のゴミを回収しなければならないから、ひとつひとつまじまじ見ることはないけど、土のつまった電子レンジのように、たまに「なんで!?」と思うゴミが出ている。
レジ袋パンパンに……(続く)
『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』は、全国の書店やAmazonで発売中です。本書では、まだまだ奥深いゴミの世界を知ることができます。
<内容>
土の入った電子レンジ、大量の人形やキノコ料理!? だれが、なぜすてたのか……ゴミの世界はおくぶかい。現役ゴミ清掃員で、お笑い芸人でもある滝沢さんが「ゴミ」の回収エピソードや、いま起きている問題を、現場から楽しく分かりやすく紹介。「ゴミこぼれ話」やゴミ清掃車の図解、4コマにクイズなど、コラムも充実……! イラストや図、写真も豊富に入っています。無関係な人などいない、身近な「ゴミ」のウラを知るうちに、これからの社会のあるべき未来がみえてくる。全小学生必読の一冊!
<滝沢秀一>
1976年、東京都生まれ。1998年にお笑いコンビ「マシンガンズ」結成。2012年、お笑い芸人の仕事を続けながらゴミ収集会社に就職。その後、ゴミ清掃員の経験を活かして「ごみ研究家」としてテレビ出演や講演会、出張授業などを行い、多数の著書を出版。食品ロスを減らすための『えがお食堂』や、オンラインコミュニティ『滝沢ごみクラブ』も手掛ける。2020年、環境省により「サステナビリティ広報大使」に任命。著書に『このゴミは収集できません』(白夜書房)、『ゴミ清掃員の日常』(講談社)、『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』(太田出版)など。
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※この記事は、BuzzFeed Japanで掲載した記事を再編集したものです。