バーチャルリアリティ(VR=仮想現実)と聞くと、何をイメージするだろうか? ゲーム? それとも、映画や小説の中のSF世界?
VR技術は今や、エンターテイメントだけでなく、医療、教育、ショッピングなど、私たちの暮らしの至るところで活用されている。
そんな中、大学の研究室やサークルでVRに関心を持つ女性たちが増えているという。彼女たちに、VR がもたらす未来を語ってもらった。
認知度は約9割、経験者は1割。ハードルはどこに?
── 大学でVRに携わる学生にアンケートを実施したところ、「VRに興味をもつきっかけ」について、約3割が「ゲーム」、2割が「映画やアニメ」という結果でした。皆さんの場合は?
海野 私はライトノベルです。中学生の頃、たまたま友人に勧められたラノベにVRという言葉が出てきて、その時は「いつかこんな技術が実現したらすごいなあ」くらいに考えていました。
村上 私もきっかけは小説です。20年以上前に書かれた森博嗣さんのミステリー小説にVRが登場しているのですが、すごく鮮明な描写だったので「いつか体験してみたいな」と思っていました。
村田 私は2人とは違って、大学に入ってからもしばらくVRには特に関心がなかったんです。ある教授の講義で「人間とコンピュータの相互作用を実現できるのがVR」という言葉が出てきて、「私がやりたい研究はこれだ!」と。
── 調査(※)によるとVRの認知度は87.6%なのに対し、実際に体験したことがあるという人は13.9%だそうです。みなさんも、実際にVRを体験するまでにハードルがあったのでしょうか。
村上 「一度は体験してみたいな〜」くらいに思っていたら、国立天文台が開催している「Mitaka VR」というイベントがあったので行ってみたんです。
宇宙を観測するVRを体験してみて、そこでハマってしまいました。すごく良いタイミングでVRのイベントに巡り合えたので、ハードルは特になかったです。
海野 大学2年生の頃、友達と遊びに行ったアミューズメントパークにVRのアトラクションがあって、そこで初めてヘッドマウントディスプレイ(HMD=頭に装着するVR動画用のディスプレイ装置)を手にとりました。
高校生の頃から体験してみたかったのですが、実家が東京ではないのでなかなか機会がなくて...。地域によって、VRを体験するまでのハードルに差はあると思います。
村田 私は大学の研究室に所属して、初めてHMDを着けました。
所属している研究室で年に2回、VRを体験できるオープンラボを開催しているのですが、高校生や近所の人たちの参加が年々増えています。
VRに興味がある人は多いけど、体験の場が身近になかったり、情報が入ってこなかったりという点がハードルを上げている要因かなと。
村上 私が入っている部活も、大学の学園祭でVR体験のブースを設けているのですが、参加者が増えてますね。
2〜3年前は「VRって何?」という興味からブースに立ち寄ってくれる人が多かったのですが、今は「VRが体験できるなら寄って行こう!」という人がほとんど。みんな、チャンスがあれば体験してみたいんだと思います。
海野 ゲームに興味がある人だと、HMDを手に取ることにあまりハードルがないのかな。私のようにゲームをする習慣がない人や、特に女の子にもVRの魅力をもっと伝えていくためには、コンテンツの多様性が絶対に必要。
村田 オープンラボの参加者も、まだまだ男性の方が多いです。ゲーム以外のエンターテイメント分野でもっとVRを活用していけたら、その魅力を広めていけるのかな...?
ファッションや教育にも活用。VRが変えるモノ
「VR=ゲーム」というイメージが根強いが、実際にはファッションや教育、医療などさまざまな分野でVRは活用されている。
オンラインで洋服や靴を買って、失敗した経験はないだろうか?VRを使えば、実際に試着をしなくても、着用時の雰囲気やサイズ感を確かめることができる。
HMDを装着するだけで異国の美術館を訪れたり、職業を体験できたりするなど、教育現場でも導入されている。
── VRが活用されている事例って意外と知られていないのかなと感じるのですが、みなさんの周りではいかがでしょうか。
海野 友達にVRの研究をしていることを話すと、「ゲームなの?」と言われることがあります。私自身も、教育やファッションでVRの活用が進んでいることをあまり知らなかったです。
村田 私も、ここまで活用が進んでいることは正直知らなかったです。ライブに行くことが好きなのですが人混みが嫌いなので、アーティストのパフォーマンスをVRで見られるコンテンツはとても良いなと思います。
VRチャットにハマっている友達がいるのですが、一瞬で理想の自分になれたり、現実逃避ができたり、お金をかけずにデートも行けるのでVRって便利ですよね(笑)
村上 VRチャット、めちゃめちゃ面白いですよ。離れた場所にいる人たちが、HMDを着けることで同じ場所に集うことができるので、これからは、みなさんのビデオ会議をVRでやることをおすすめしたいです。
海野 実際にその場にいるような感覚になれるのがVRの特性。縄文時代の竪穴式住居に足を踏み入れてみたり、戦時中の暮らしを目の当たりにしたり。
VRで見たものって、自身の「体験」として記憶に残りやすいと思うので、教育には最適だと思います。私が小・中学生の頃にVRがあればよかったのに...!
「またイメージが変わった」最新のHMD
彼女たちが、HTCから発売された新機種HMD「VIVE COSMOS」を体験すると、新たな発見があったようだ。
── 日常的にHMDを使っているみなさんですが、すごく盛り上がっていましたね。
村田 以前、他の機種でも海の中を見るコンテンツを試したことがあるのですが、「The Blu」は本当にリアルで美しくて、感動しちゃいました。まさに一瞬で現実逃避できますね。
海野 「VRの特性を生かして、体を動かせるゲームがあればいいのに」と思っていたので、いわゆる「音ゲー」のコンテンツがすごく楽しかったです。自然と体全体を使ってプレイするので、汗が...(笑)。
普段ゲームをしない私でもこんなに楽しめるって、すごいですよね。VRに対するイメージが、また変わりました。
村上 解像度の高さに驚いています。本当にキレイに、よく見えます。
村田 VRの研究をしていて、「人間の脳って意外とダマされやすいんだな」ということに気づきました。
HMDによる視覚に、触覚を掛け合わせて「人間の感覚はどこまでダマされるのか?」という研究をしているのですが、ここまで画質がキレイだと、いつか現実世界とVRの境界がわからないレベルにできるんじゃないかと思えるほど。
村上 自分が思っていた以上にVRでできることが増えていて、素直に驚きました。VRはどんどん進化しているので、価格以上の楽しみ方ができると思います。家にこれがあれば...(笑)。
海野 今は「VRは知っているけど、体験するほどでもない」という人が大半。でもここまでの画質とコンテンツが揃っていたら、VRはもう一歩先に進める段階に来ているのかなと思えてうれしいです。
VRが活用される領域が増え、今や現実世界では体験できないことがVRでは可能になっている。
私たちに娯楽を与えてくれるだけでなく、買い物や教育など、身近な分野でも活用されているVR。私たちの生活に欠かせない「必需品」になる日も、そう遠くないのかもしれない。
(※)VRビジネス調査報告書2018(森田秀一/インプレス総合研究所著)