SDGsと聞いてパッと頭に思い浮かぶものは、何だろう?
企業の人たちが胸につけているバッジや、書店のビジネス本コーナーで見かける言葉、というちょっぴり“お堅い”あるいは“専門的”なイメージを抱いている人も多いのではないだろうか。
SDGsとは、世界中の国や企業が、2030年までの達成をめざして掲げた17の目標のことで、環境問題やジェンダーギャップ、教育格差などの解決が掲げられている。次のようなカラフルな図を見たことがある人もいるだろう。
しかしだ、何となく規模が大きすぎて「自分ごと」に落とし込みにくい感じがある...。
「いざ一歩目を踏み出そうと思うと、何をしたらいいのか分からない」「本を買ってまで学ぼうというモチベーションを持てない」という声も耳にする。
そして正直、「それな」と思ってしまう自分がいる。いや、そうでしょ!
そんな僕たちのためにヒントとなる意外なものがある。それは、バッジでもビジネス本でもない。「Netflix」や「Amazon プライム・ビデオ」などのオンラインのエンタメだ。
エンタメを通して「社会について話すきっかけ」を。
中でも、今回取り上げたいのがNetflix。エンタメとしての売りはもちろんのこと(おうち時間は大変お世話になりました)、Netflixには社会に対して問題提起をする「ドキュメンタリー」も充実しており、日本のテレビにはない空気感がある。
学生時代、環境問題やジェンダー、そしてグローバル経済についての講義で先生の口から「おすすめの作品をハンドアウトに記しておきました。Netflixにあるから、登録してる人は見てみてね」といったような言葉を聞くこともあった。
先生おすすめのドキュメンタリーやインタビュー作品の中には、コメディ映画や青春ドラマが紛れ込んでいることもちらほら。
「講義でコメディですか...」と初めは心配になったけれど、半信半疑で作品を見てみると、登場人物や台詞の中に多くの気付きを得た。
ジェンダーに関するステレオタイプを凝縮したような登場人物を「こういう人いるよねぇ」と笑って見ていたら、実は自分と重なる瞬間があってゾッとしたり。表立ってテーブルの上に置かれることのないセンシティブな問題に、間接的に、しかし確実に切り込んでいたり。
「エンタメ」というレンズの中に、それ以上のものが巧みに散りばめられていたのだ。
もちろん「好きではない」作品もある
しかし、作品の演出やメッセージが必ずしも「正解」とは限らないということも、同時に押さえておきたいポイント。
Netflixで配信中の作品の中には、個人的に主張や情報の偏りが激しいと感じる作品や、あまり気持ちの良くない「?」が頭の中で渦を巻くものもある。
「正解」ではなく、誰かと「会話を始めるきっかけ」をつくる。それこそが、僕がNetflixを楽しむときの醍醐味の一つなのだ。
...ということで今回、配信中のオリジナルコメディ作品から、SDGsを彷彿させる作品を3つ選んで紹介したい(2020年12月現在)。
「SDGsってこんなに身近なの?」と驚いてしまう人もいるかもしれないけれど、ぜひ最後までお付き合いくださいな。
『セックスエデュケーション』(SDGs目標4)
SDGsの中には「質の高い教育をみんなに」という項目(目標4)がある。
一口に「教育」といっても、発展途上国の教育制度を整えたり、各国内の教育格差の改善など、多くのベクトルがあるが、日本における「性教育」も大きく見直されている。
オリジナル作品の中でも特に人気の高い『セックスエデュケーション』は、高校生の日常や性の悩みをコミカルに描いたドラマシリーズ。
作中には体の仕組みを丁寧に解説する場面が含まれていたり、高校の先生が「セックスをする前は、しっかりと相手の同意を得るんだぞ」と語ったりと、学生の頃に知っておきたかった言葉、何となくタブー視されてきた、知らないままにしていたベッドの中の話を敢えてストレートに織り交ぜてくる。
また、多様なセクシュアリティや性の悩みに関するセラピー、性犯罪のリアルなど、あらゆる角度から「性」について言及している。
笑える場面も泣ける場面も盛りだくさんで、これをきっかけに家族や友達と性について話しやすくなった、という人も僕の周りには少なくない。
コメディ作品以外には、貧困や子どもの性労働を描いたアフリカ映画『AZALI』なども要チェックだ。
『軽い男じゃないのよ』(SDGs目標5)
日本のSDGsにおける取り組みの中で、遅れをとっている項目の1つのが、目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」というもの。前述した『セックスエデュケーション』にも繋がるテーマだ。
企業や政治などの組織的な枠組みに関しても問われていることだが、ジェンダーは「個人」という最小限の単位が持つ価値観や「当たり前」も大きく起因している。
主人公は、男性優位な考えを持った男性だ。ある出来事をきっかけに彼は、男女の立場が逆転した世界に迷い込む。
「弱い存在」というラベルを貼られ、セクハラ被害に合い、セックスの時に体毛を処理していないという理由でドン引きされる中で、彼は自身が抱いていた「当たり前」を問い直していく。
作品全体を通してコミカルなタッチで描かれているので、この作品を見た友人(女性)は「本当にこんな感じだよ!」と異性の恋人に訴えていた。「当たり前」について話し合うキッカケになる作品だ。
女性のエンパワーメントや、ジェンダーにおける偏見に一石を投じる作品も充実しており、歌手テイラー・スウィフトの女性としての姿にも迫る『ミス・アメリカーナ』や、異国の地での言語習得を通して“女性”以上の社会的アイデンティティや自信を確立していく映画『マダム・イン・ニューヨーク』なども、個人的なお気に入り作品だ。
ザ・ポリティシャン (SDGs目標14)
環境問題も、SDGsを構成する大切な項目の1つ。目標14の「海の豊かさを守ろう」では、海に捨てられるプラスチックごみ問題の解決が求められている。
超セレブの高校生がアメリカの大統領を目指す姿を描いた奮闘記『ザ・ポリティシャン』は、一見すると政治や風変わりな青春をテーマにしたコメディだ。しかし、見進めていくと、環境問題を提起する場面が節々に現れる。
高校に「プラスティックのストローはやめよう」と提案する生徒会長を「一斉購入しているからそれはできない」と冷たくあしらう職員など、気候変動の危機を訴える若者たちと、年上の世代の人たちの温度差を描いたシーンが特に印象的だ。
環境問題をめぐって母親と大げんか
シーズン2の第5話では、運動に参加する娘と、環境への意識がさほど高くない母親が大げんかをする場面がある。社会問題や環境問題を考える時、意外と難しいのが自分と違う世代の人たちとの価値観の共有だ。
「こういう世代だから」というラベリングは、個人的にはあまり好きではないが、世代による傾向というものは否定できないときが多々ある。
その視点の違いゆえに、理解しあえずにモヤモヤばかりが残った経験が、僕にもポツポツとある。この親子の喧嘩する様子を見て、改めて世代間の価値観の共有の難しさと意義について俯瞰し、考えた。
他にも、産業廃棄物の被害に苦しむ人々の暮らしを描いた『There’s Something in The Water』や、海に捨てられたプラスティックゴミと生態系の実情を納めた『プラスチックオーシャン』など、環境問題を知る・考えるのに力添えしてくれる作品が数多く揃っている。
画面越しの世界だけでは、手が届かないところもある。
今回紹介した他にも、貧困や平和構築などを描いた作品も多く配信されているNetflix(SDGsの目標1は「貧困をなくそう」)。
もちろん、社会と向き合って行く上でエンタメや画面越しの世界だけでは手が届かないところもたくさんあるし、学ぶ上で最も効率がいい方法とは言い難いのも事実。もしかしたら「もっともっと真摯に向き合わなくちゃ」という声も聞こえてくるかもしれない。
けれど「入り口はどこでもいい」のだから、まずは「エンタメ」というレンズを通して社会を覗いてみるのも、時代に適したサステナブルな学び方ではないだろうか。
そこで自分の気持ちをくすぐった“糸”を頼りに学び進めていけば、いつの間にかSDGsも「自分ごと」になっているはずだ。
そして何より、ストーリーを楽しむと同時に「製作者にどんな意図があるか」という視点で見たときの、コンテンツの面白さはひとしおだ。