猛暑、豪雨、大地震…今夏の天変地異が日本経済にもたらす不測の影響

今夏の天変地異が日本にもたらす影響とは、どんなものか
ShinOkamoto

様々な猛暑関連市場で特需が起きている一方、西日本を襲った豪雨被害や大阪北部地震などは経済への不確実要因となる。今夏の天変地異が日本にもたらす影響とは、どんなものか(写真はイメージです) 

今夏は記録的な猛暑が到来広範囲に及びそうな経済効果

 今夏は記録的な暑さとなっている。そして、猛暑報道が出ると話題になるのが、猛暑が日本経済に与える影響である。猛暑になると売れるようになる商品・サービスがある一方、売れなくなる商品・サービスもある。そして、そうした効果が経済全体に与える影響は軽視できない。

 猛暑そのものに関しても今年は例年より梅雨明けが早い異例の状況だったが、一方で西日本を中心にかつてない豪雨災害も発生しており、日本中で予想外の気候が続いている。異常気象に加えて、6月中旬に発生した大阪北部地震の影響も無視できない。

本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 これらを「天変地異」という枠組みで捉えると、押し上げ効果もあれば押し下げ効果もある。筆者は先立って猛暑が経済に与える影響についてのレポートを発表したが、これに豪雨や地震が加わると、日本経済に与える影響は猛暑だけのケースと比べて異なる結果になる可能性がある。そこで本稿では、過去の事例を参考にしながら、今夏の天変地異が経済に与える影響を予測する。

 まず、猛暑の過去を振り返ると、2010年が観測史上最も暑い夏と呼ばれている。気象庁の当時の発表によると、6~8月の全国の平均気温は平年より1.64℃高くなり、1898年の統計開始以来、最高の暑さとなった。この猛暑効果で、2010年6月、7月のビール系飲料の課税数量は、前年比2ヵ月連続プラスとなった。

 同様に、コンビニ売上高も麺類や飲料など夏の主力商品が好調に推移したことから、既存店前年比で7月以降2ヵ月連続プラスとなった。

 また、小売業界全体を見ても猛暑効果は明確に現れた。7月の小売業界の既存店売上高伸び率は、猛暑の影響で季節商材の動きが活発化し、百貨店、スーパーとも盛夏商材が伸長したことで回復が進んだ。家電量販店の販売動向もエアコンが牽引し、全体として好調に推移した。

2010年は小売業界以外にも、猛暑の恩恵が及んだ。外食産業市場の全店売上高は7月以降の前年比で2ヵ月連続のプラスとなり、飲料向けを中心にダンボールの販売数量も大幅に増加した。また、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により、製薬関連でも猛暑が追い風となった。

 さらに、乳製品やアイスクリームが好調に推移した乳業関連も、円高進行による輸入原材料の調達コストの減少も相俟って、好調に推移した。化粧品関連でも、ボディーペーパーなど好調な季節商材が目立った。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のいたことなどにより、猛暑がマイナスに作用したようだ

ビールから日焼け止めまで幅広い猛暑関連業界

 以上の事実を勘案すると、今年の猛暑も幅広い業界に影響が及ぶ可能性がある。事実、過去の実績によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連がある(資料1参照)。また、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連も過去の猛暑では業績が大きく左右された。そのほか、冷菓関連や日傘・虫除け関連といった業界も、猛暑の年には業績が好調になることが多い。

 飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で、広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカー、原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。

 さらには、ファミレスなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増える宅配関連なども、猛暑で業績が上がったことがある。一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。

(出所)各種報道等を基に作成 拡大画像表示

そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見てみよう。内閣府『国民経済計算』を用いて、7‐9月期の実質家計消費の変化と全国平均の気象の変化との関係を見た(資料2参照)。

 すると、両者の関係には驚くほど連動性があり、7-9月期は気温の上昇や日照時間の増加により、実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。したがって、単純に7‐9月期の家計消費と気象の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

(出所)気象庁、内閣府資料より筆者作成 拡大画像表示

 ただ、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて、気象要因も含んだ7-9月期の家計消費関数を推計してみた。

 すると、7-9月期の日照時間が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる。そして、過去20年の関係から読み解くと、7-9月期の日照時間が全国平均で+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.51%程度押し上げられることになる。 

 これを気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が全国平均で+1℃上昇すると、同時期の日照時間が+10.5%増加する関係があることから、家計消費支出を約+3186億円(+0.54%)程度押し上げることになる。

猛暑で家計消費が増加も未曽有の豪雨被害で効果は相殺か

 したがって、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が記録的猛暑となった2010年と同程度となった場合の影響を試算すれば、全国平均の気温が平年比で+1.6℃上昇し、日照時間が+17.1%増加することにより、今年7‐9月期の家計消費は平年に比べて+5196億円(+0.9%)程度押し上げられることになる。

 しかし、今年は猛暑効果だけを見ても経済全体の正確な影響はわからない。西日本を中心にかつてない豪雨災害が発生しており、日本中で予想外の気候が続いているからである。過去の例では、2012年7月に九州北部を中心に集中豪雨が発生した際に、2012年7‐9月期の経済成長率は個人消費の落ち込み主導でマイナス成長になったという事実がある。

 つまり、いくら猛暑となっても、降水量が増加すると逆に家計消費の減少などをもたらす可能性がある。実際、過去20年程度における夏の降水量と家計消費の関係を見れば、7‐9月期の降水量が全国平均で10%増えれば、同時期の日照時間が全国平均で▲2.5%減ることを通じて、同時期の個人消費を▲773億円押し下げるという関係がある(資料3参照)。

 このため、こうした影響も考慮し、最終的に過去最大級の異常気象が家計消費に及ぼす影響を試算すれば、過去最も日照時間が多かった1994年並みの猛暑となった場合は7-9月期の個人消費を+8396億円押し上げる一方で、関東・東北豪雨が発生したことで過去最も降水量が多かった2015年7-9月並みの降水量となった場合は、7-9月期の個人消費を▲2600億円押し下げることになる(資料4参照)。したがって、過去最大級の猛暑効果は過去最大級の豪雨被害によって3分の1近くが相殺される可能性があることが推察される。

(出所)気象庁、内閣府資料をもとに筆者試算

(注)家計消費は帰属家賃除く。日照時間は全国

 つまり、猛暑特需は一時的に夏の個人消費を実力以上に押し上げるが、むしろ豪雨が重なった場合は、その効果が減少する姿がうかがえる。さらに、今回はかなり早いタイミングで急激に熱くなったため、食料品値上げの悪影響が早めに出る可能性があることに加えて、気温が高すぎることで逆に旅行や外食や虫よけ関連などに通常の猛暑効果が出にくい可能性がある。

大阪北部地震も悪影響の可能性

天変地異に見舞われた日本経済の行方

 なお、6月下旬に発生した大阪北部地震も、インバウンドへの影響などを通じて経済に悪影響を及ぼす可能性がある。実際、2016年4月の熊本地震の際には、2016年4-6月期の非居住者家計の直接購入額が前期から762億円程度減少し、同時期の経済成長率を年率▲0.2%ポイント以上押し下げたことから、今年7‐9月期の経済成長率が伸びない可能性があることについても補足しておきたい。

 つまり、足元の個人消費に関しては、猛暑も手伝って部分的に特需が発生する傾向が見られるが、今後の個人消費の動向を見通す上では、豪雨被害や大阪北部地震の影響に注意が必要であろう。その意味では、今秋に予定されている来年10月の消費税率引き上げ判断を占う上でも、今年の異常気象が政策判断にどのように影響するかから目が離せない。

(出所)内閣府 拡大画像表示

(第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱利廣)

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