研究と社会活動を通して、医療介護の持続可能性を高めたい

在宅ケアサービスが人の在宅療養、終末期にどういう影響を及ぼしているのかを研究しています。
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阿部計大先生は家庭医を志し、研修先として選んだ病院で研究の面白さを知り、研究の視点から日本のみならず世界の超高齢化に備えていきたいと考えています。研究だけではなく、若手医師による社会活動も実践されています。これまでのキャリアや今後の展望を伺いました。

◆世界的な超高齢化に備える

―現在、どのような研究をされているのですか?

全国の介護レセプトをはじめとしたナショナルデータを使用させていただき、在宅ケアサービスが人の在宅療養、終末期にどういう影響を及ぼしているのかを研究しています。

初期研修から手稲渓仁会病院で研修を受けていたのですが、医師3年目の時に、臨床研究の発表が研修プログラムの中に組み込まれていました。そこで、クリニックのデータを使って、現在と似たテーマで研究をしたことがありました。独学であり、1つのクリニックでの研究には限界がありましたが、それを経験したことで研究の面白さに気づきました。その後、大学院に進学して本格的に研究に取り組み始めて、日々勉強中です。

―なぜその研究テーマを選ばれたのですか?

ご存知の通り日本は少子高齢化が進行していますが、世界の人口動態の推計をみると、この問題はもっと深刻です。今は中国やインド、そしてアフリカ大陸の国々の人口が増えています。そして、中国・インドは今後10~20年の間で急激な超高齢化が進むのです。そうなったときに、人口が十数億人いる介護システムが整っていないと国の高齢者はどうなるでしょうか。日本で起こっているような問題が、日本とは比べ物にならないほど深刻な状態で起こりかねません。例えば、日本では団塊の世代が後期高齢者になる2025年に介護従事者が35万人程度不足すると推計されていますが、そのようなことが世界中で起きることになるかもしれません。

今後、世界の国々でも高齢化が進んでいくので、その時に世界的にも珍しい公的介護保険制度で体系的に介護サービスを提供している日本の経験を報告していきたいと考えているのです。もちろん、各国が日本同様の介護保険制度を導入するかどうかはまた別の問題ですが、高齢者にはこういうサービスでこういう効果があるということが報告できれば、他国の高齢化対策の手助けにもなるのではと思っています。

◆医療介護の持続可能性を高めたい

―医師を志し研究に進むまでは、どのようなキャリアを歩んでこられたのですか?

父が眼科医だったために、自然と自分も医師になりたいと思うようになっていました。そして北里大学に入学。受験勉強から開放されて、海外に行きたいと思って医学英語を学ぶ部活の新歓説明会に行ったときに「International Federation of Medical Students' Associations: IFMSA(国際医学生連盟)」を知ったのです。それが、私の人生における大きな転機だったように思います。世界100か国以上の医学生から成る市民社会組織のIFMSAは、各地で国際保健医療活動や公衆衛生活動をボランティアで実施しています。

私はネパールでの国際保健医療活動に従事してからIFMSAの活動にどんどんのめり込んでいきました。そして、そのような公衆衛生活動を実施しているIFMSAの運営に関わるようになり、IFMSA-Japan代表やIFMSAアジア太平洋地域責任者に――。

IFMSAで国際保健に関わったことで、公衆衛生の大切さを学びました。例えば、水の衛生問題は日本で暮らしているとほとんど気にかけることはありませんが、世界的には依然として重要な問題です。また、結核やマラリアなどの感染症も同様です。

そのような経験から臨床研修や専門研修では、地域住民の身近な存在として診療できる医師になりたいと考えていました。大学5年生の時に聴いた米国の家庭医による講演をきっかけに、家庭医が自分のやりたいことに合致していると感じて、北海道の手稲渓仁会病院家庭医療科で研修をさせていただきました。そこで、素晴らしい指導医や同僚、地域の皆様に家庭医としての基本を教わりました。そして、冒頭にお話したような臨床研究発表が大学院進学のきっかけとなりました。

―一方で、日本医師会ジュニア ドクターズ ネットワーク(JMA-JDN)を立ち上げられています。こちらはどのような経緯だったのですか?

最初にJDNを知ったのは、私が研修医として働き始めたばかりの2010年でした。医学生時代にIFMSAを通して知り合った各国の友人らが中心となって世界医師会に卒後10年目までの若手医師によるネットワークを設立したと連絡がありました。私たちは医学生時代に培った人的ネットワークや公衆衛生のマインドを医師になってからも維持していきたいと感じていて、そのための活動のプラットフォームが求められていました。

残念ながら当時は日本にそのようなプラットフォームがなく、日本医師会国際課にご相談もしました。その後、2012年に日本医師会国際保健検討委員会の中にJMA-JDNが設立されたのです。当初21名でJMA-JDNが発足したのですが、最初は手探りでしたね。やりたいことの方向性が各メンバーで異なりましたし、自分たちが生きる時代がどのような時代なのか、医療の現状や展望、社会の中で自分たち若手医師がどういった存在なのか、世界医師会のJDNがどのようなことをやっているのかなど、分からないことだらけだったからです。

現状把握のための環境分析をしたり、セミナーやワークショップを実施したりして、そこから自分たちの担うべき役割を考えるなど試行錯誤の連続でした。最終的には、幅広い視野を持ち社会貢献できる医師の育成ができる活動を長期的に行う方向性で固まり、1)国際活動、2)専門の科を超えた学び、3)地域社会への貢献、4)若手医師のネットワークを活かした調査・提言を行っています。試行錯誤の苦しい中で共に立ち上げた仲間に心から感謝しています。

―阿部先生としては、なぜこの団体を立ち上げたいと思ったのですか?

私は学生時代、IFMSAの公衆衛生活動を通して医師会にお世話になっていました。ところが、研修医になってから、「医師会は入会の敷居がとても高い」と感じたのです。研修医の時に地域の医師会に入ろうと思ったのですが、申込書をもらうために医師会に直接電話をかけなければいけなかったり、知らない開業医の先生(支部長)に電話をしてアポイントメントをとって面接を受けなければいけなかったり、会費もそれなりにかかりますし、研修医にとっては物質的にも心理的にも敷居が高かったのです。

現在は研修医の会費が無料になっているところも多くなってきていますが、依然として異動の多い若手にとっては入会や異動の手続きが煩雑です。このような想いからJMA-JDNは原則卒後10年以内の若手医師であれば、オンラインフォームからどなたでも登録できるようにしました。

医師会は地域毎に診療科や医局を超えて横のつながりができる場所ですし、医療政策から地域医療までを支える公衆衛生活動の要の1つです。そのことは家庭医としての研修中もひしひしと感じていました。医療の持続可能性を高めるためには、若手も医師会の活動に参画し、若手ならではの貢献をしていくことが必要ではないかと思うのです。

―では、研究や実践活動を通して実現したいことを教えていただけますか?

医療や介護、さらには社会自体もですが、持続可能性を高めていきたいと思います。自分の子どもや孫、さらに次の世代にも健康で楽しく過ごしてもらいたい。そう考えると、今後20~30年で世界的に高齢化が進んでいく中で、その時に役立つデータを提示し、医療や介護の持続可能性を高めていくのに少しでも貢献したいですね。

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●医師プロフィール

阿部 計大 家庭医

北海道出身。北里大学医学部を卒業後、手稲渓仁会病院にて研修。2015年より東京大学大学院公衆衛生学博士課程。また2012年より、有志と共に日本医師会ジュニア ドクターズ ネットワーク(JMA-JDN)を立ち上げ、約3年間代表を務めた。現在も、世界医師会JDNの役員やJMA-JDNの前代表として同ネットワークのサポートを続けている。

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