3月13日で臨時列車をのぞき廃止されることが決まった寝台特急「北斗星」。別れをおしむ人で連日満員といいます。どんな列車か、東京・上野から北へ向かう下り列車に乗車してみました。
「北斗星」は上野駅と北海道・札幌駅間を約16時間かけて結ぶ寝台特急。青色の客車は「ブルートレイン」と呼ばれます。
本格的なフランス料理が楽しめる食堂車や、鍵のかかる個室、シャワーの設備もあり、まさに「走るホテル」。1988年、青森と北海道をつなぐ青函トンネルの開通とともにデビューし、大人気になりました。
しかし近年は、新幹線が新青森駅までつながり、格安の航空会社も登場。車両は古くなり、来年には北海道新幹線も開業する予定です。廃止は時代の流れなのかもしれません。
午後6時45分、上野駅。満員の通勤通学列車が秒単位で行き交うなか、13番線だけは雰囲気がちがいます。EF510形機関車が12両の車両を従え、15分ほど前に入線。ホームには名ごりおしそうに手をふる人やファンの姿が目立ちます。
午後7時3分、列車はゆっくりと発車しました。札幌まで1214・7キロ。定期旅客列車では日本最長の鉄道の旅が始まります。
北斗星には1部屋ごとに分けられた「個室」のほか、開放型の2段ベッドが並ぶ寝台車もあります。記者は開放型の「B寝台」を選びました。値段が安いこともありますが、乗り合わせた人といろいろな話ができるのが魅力だからです。
向かいのベッドになった男性(72歳)は、お子さんが小学生だったころ、家族みんなで利用したそうです。今回は一人ですが「久しぶりに乗って、涙が出そうになった」となつかしんでいました。
窓からは郊外の駅の忙しい日常の風景が見えますが、窓一枚へだてた車内には、ベッドに横たわる人、窓辺で本を読む人、食堂車でディナーを楽しむ人がいます。
6号車のロビーでは30人近くが集まり、北斗星の思い出や、旅の予定の話で盛り上がっていました。夜を越え、長い旅を共にする人たちは不思議な連帯感を感じるのかもしれません。
午後11時すぎ。記者もベッドに入りました。カーテンを閉めると小学生のころ長崎行きの寝台特急「さくら」に乗ったことを思い出しました。初めての寝台特急。興奮して、ずっと起きていようと決めたのに、いつの間にか眠ってしまったのが忘れられません。
あのころとそれほど変わらない車内。心地いい揺れに身を任せているうちに、今夜もいつの間にか眠っていました。
翌日の早朝。列車の走る方向が変わりました。青森駅に到着し、青函トンネルで使われる専用の機関車に替わったようです。いよいよ本州を抜け、北海道に渡ります。
午前5時半。ロビーをのぞくと小学生4年生の男の子がカメラをぶら下げていました。幼いころからあこがれの列車だったそうです。トンネルに入ると「海の下を通り抜けているなんてすごい!」と興奮ぎみ。
北海道に入り、列車は函館駅で再び向きを変えます。今度はDD51形ディーゼル機関車2両が取り付けられ、札幌まで引っ張ります。
JR北海道の車掌、柴田裕規さんは「北斗星で約10年勤務しました。残念ですが車体も古いし、仕方ありませんね。でも若い車掌の中にはこの列車にもっと乗務したかった人もいるんじゃないかな」と残念そうです。
雪の影響を受け、40分ほど遅れて札幌駅にすべりこみました。「どうぞお気をつけて。またどこかで!」。列車で出会った人たちと手を振って別れます。
時計を見ればもう正午近く。東京からだと朝の飛行機に乗れば、到着できる時間です。北斗星は移動手段としての役目はすでに終えたのかもしれません。でもこの列車でなければ出会えなかった人たちがいるのも確かだと思いました。
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(朝日小学生新聞・2月23日付けより改編)