12月20日に発売予定の秋田書店のホラー漫画『殺戮モルフ』第2巻の一部シーンが自主規制で黒塗りになった。原作者の外薗昌也(ほかぞの・まさや)さんがTwitter上で問題提起し、大きな話題を呼んだ。
その背景には、マンガ表現はどこまで社会的に許容されるのか、という問題をめぐって、出版社と作者が直面している、瀬戸際の攻防があった。
いったい何が起きていたのか。外薗さんにくわしく語ってもらった。
■これまでの経緯を振り返る
まずは、このツイートを見てほしい。
真っ黒です pic.twitter.com/6bsKqqpZ8X
— 外薗昌也 (@hokazonomasaya) 2017年12月12日
ネット上では「戦時中の教科書みたい」「検閲かな?」と驚く声が相次いでいた。
進展があったのは12月13日夜、外薗さんが「編集さんが青くなって飛んできました」「読者の皆さんに判断を仰ごうという話になりました」と報告したのだ。
外薗さんが運営するサイト上で、該当シーンの黒塗りを外した「真の姿」で公開されることが決まったという。
■「有害図書指定されたら......」の危機感
今回の事件は、一体どういうことだったのか。
外薗さんに詳しい経緯を聞いた。
――単行本も黒塗りになると知ったのはいつのタイミングでしたか?
2日前の12月11日です。いきなり訪ねてきて、出来たばかりの単行本を渡されました。予想していたより黒塗りが濃くなり、真っ黒になって慌てている様子でした。単行本で黒塗りにするという話は聞いてませんでしたから驚きました。
――Twitterで黒塗りのシーンを公表したのは、どのような思いからですか?
読者から『新刊を期待しています』という声をもらって、気持ちがグラつき泣きそうになりました。黒塗りを知らないで単行本を買って読んだらかわいそうだと思い、情報を出そうと判断しました。出版社と揉めても仕方ないな、と。
――当初の原稿ではどのようなシーンが描かれていたのでしょうか?
女子高生の死体で作った過激なオブジェが登場するシーンです。
――雑誌掲載時にも黒塗りだったそうですが、そうなった理由は?
日本雑誌協会の編集倫理委員会から再三警告受けてたので、残酷シーンはアミをかけて黒くし、よく見えないように処置しました。 雑誌は不特定多数の人が読みますから、グロテスクなシーンが嫌いな人も多いわけで、仕方ない処置かと思いました。単行本では黒塗りは取る約束でした。
――外薗先生が見本を見て驚いたのは、単行本では該当シーンが修正されると思っていたのに修正されなかったからでしょうか?
そうです。 相談無くアミがかけられていて、しかも雑誌時より黒くなってました。 真っ黒で何がなんだかさっぱりわからない状態で驚きました。
――編集担当者から謝罪があったとのことですが、どのような内容でしたか?
「人気作品なので、有害図書指定されたら(事実上の)発禁になり、連載も中断してしまう、 それは絶対に避けたい」という背景があったようでした。
――最終的に黒塗りになったページは、どのような対応をすることになりましたか?
もう印刷してるので単行本は黒いままですが、私が運営しているホラー漫画試し読みサイト『恐ろし屋』で問題のシーンのエピソードは公開する運びになりました。
どんな絵が黒塗りされたのか、ユーザーが興味津々なのもありますが、どんな死体オブジェかわからないと物語に入れないので、見せないことには話になりません。
――出版業界の中でクリエイターが表現をしていく上で難しさもあると思いますが、今回の経緯を振り返ってどのように感じましたか?
年々規制は厳しくなってます。書店は減少し、コンビニ売りが主流になってますが、数年後のオリンピックを控え海外からの旅行者の目も意識してるようで、コンビニも規制が厳しくなってきています。アダルト漫画や情報、そして今回のようなグロテスクな漫画もマークされています。
ただ、漫画は昔ほど熱心には読まれてません。読者のほとんどは携帯ゲームや動画に流れてます。電車内で漫画雑誌読んでる人を見かけなくなりましたよね? コンビニで立ち読みしてる人もいません。
携帯で処刑動画やアダルト動画が見放題な現実との解離を感じます。
■出版社が有害図書指定を恐れる背景は?
インタビュー中、外薗さんも言及していたが、この問題の背景には「有害図書指定」の問題がある。
いわゆる「有害図書」とは、各地の条例で青少年に悪影響があるとされた場合に指定されるもの。コトバンクによると、過激な性描写・暴力描写のあるもの、青少年罪や自殺を誘発すると考えられるものなどが指定される。図書のほか映像ソフトやTVゲームなども対象とされ、指定作品は18歳未満の購入・閲覧が制限される。
「有害図書」に指定された場合、書店や通販サイトが取り扱ってくれなくなるなど、流通が大幅に制限される。
出版サイドとしても、そのままの作品を読んでもらいたいという思いの一方で、規制されてしまえば結局、読者に届けられないというジレンマがあるようだ。