札幌地裁の判決が確定したHIV内定取り消し訴訟をめぐって10月9日、原告側の弁護団が声明を発表した。
HIV内定取り消し訴訟とは「HIV陽性者であることを告げなかったことを理由に内定を取り消したのは不当」としてソーシャルワーカーの男性が、働くはずだった札幌市の病院を訴えたもの。2019年9月に裁判所が病院に対して男性への慰謝料など計165万円の支払いを命じた。
病院側は控訴を断念することを10月1日に発表。しかし声明文の中で「虚偽の発言を複数回にわたり繰り返したことにより信頼を失い、職員としての適正に欠けたための『採用内定取消し』の考えは一貫して変わっておりません」などと判決を非難した。
この声明に対して、原告の弁護団が病院側に対して反論した。「司法判断に真摯に向き合う姿勢が全く感じられない極めて不誠実な態度」と声明文で発表した。
原告の言動を「虚言」と称したことについて、「被告病院が個人情報を違法に利用し、採用面接において質問してはいけないことを質問した結果、これに対してやむを得ずなされたものであることは明らか」「正に本判決が指摘する『患者に寄り添うべき医療機関の使命を忘れ、HIV感染者に対する差別や偏見を助長しかねないものであって、医療機関に対する信頼を裏切るもの』」と指摘した。
裁判所「HIV感染の確認は、本来許されない」
HIVは感染していても服薬治療を続けていれば、ウィルスが血液や体液中に現れることはない「検出限界以下」になり、他人に感染することはない。
訴訟では、採用面接でHIV陽性者であることを告知する義務や、過去カルテを採用判断に利用したことの違法性などが争点となった。
原告の男性は2017年12月、採用面接でHIVの感染を伝えずに病院に内定。しかし2018年1月に病院は男性の過去の受診記録を本人の同意なく開示し、感染を指摘した。男性は動揺しとっさに否定した後、別の医療機関から「職場で感染の心配がない」という診断書をもらい提出したが、病院側は面接などで正確に答えなかったことを理由に内定を取り消した。
札幌地裁は2019年9月17日の判決で、「HIV感染の有無を確認することは、本来許されないものだった」として、病院側の対応を不法行為と認定。HIV感染を問われた時に一時否定したことについては「今もなおHIV感染者に対する差別や偏見が解消されていない社会状況を考慮すると、男性を非難することはできない」とし、カルテを採用判断に用いたのはプライバシー侵害で、不法行為であると指摘。病院側に賠償を命じた。
病院を運営する社会福祉法人「北海道社会事業協会」は判決後、「虚偽の発言が非難されないのなら、とても今後の議論にはなり得ません」とし、控訴を断念すると自社サイトで発表した。