先日、宗教学者の山折哲雄さんの講演を取材しました。
山折さんのお話しを伺い、「ひとり」の時間を持つことの大切さを改めて実感しました。
山折さんは70歳ごろまで大学で教鞭を取られていました。
『哲学と宗教』の講義を、200人もの学生を相手にすることは初めから無理だと思っていたそうですが、
辞めることは敗北だと思いいろいろ工夫されたそうです。
「ひとり」の時間を作る講義
あるとき、山折さんは学生に
「筆記用具を全部しまうように」と言いました。
最初、きょとんとしていた学生は、何度か同じことを言われしぶしぶ筆記用具をしまいます。
さらに山折さんは
「姿勢を正すように」と言います。
しかし、学生は姿勢の正し方が分かりません。
山折さんが
「背筋を伸ばして、顎を引いて、肩の力を抜いて」
と具体的に指導すると、姿勢を正せるようになります。
姿勢を正せるようになると、それまでざわついていた教室が少し静かになります。
続いて山折さんは「深呼吸」をさせます。
これもまた、どうやったらいいのかわからないので
鼻呼吸、喉呼吸、胸呼吸と、「腹式呼吸=丹田呼吸」の違いを説明し、
お腹で呼吸する方法を指導します。
また、呼吸にはリズムがあることも説明します。
1,2で息を深く吸って、
3,4,5,6でゆっくり息を吐き、
7,8で止める、というリズムです。
姿勢も正しくなり、呼吸も整ってきたら今度は目をつぶるように言います。
学生は、普段目をつぶる機会がないため、なかなかつぶりません。
繰り返し指導する事で、学生は目をつぶるようになります。
ここまで30分ほどかかるそうですが、
このころには教室はシーンと静まり返るようになるそうです。
こうなった段階で、山折さんはこういう話をされたそうです。
「今、諸君は初めて『ひとり』になった。心の中では雑念・妄想がいろいろと、
不平不満を含めて湧き上がっているだろう。それはそれでいい。
その雑念・妄想・不平不満と向き合いなさい。ものを考えるとはそういうことです。
姿勢を正し、呼吸を整え、目をつぶり、そして『ひとり』になったとき、
初めてものを考える体勢ができます。それが出発点です。」と。
「ひとり」の時間の作り方に決まった型はない
山折さんがヨーロッパの修道院を巡った時に修道士の方に聞いてみたところ、
祈りの姿勢に決まったものはなかったそうです。
「ひとり」の時間に型があるのも日本ならでは、とのこと。
あわただしい時こそ、姿勢を正し、呼吸を整え、目をつぶり、
「ひとり」の時間をしっかりと確保して心穏やかに毎日を締めくくりたいですね。
(2016年12月15日「ボトルボイス」より転載)