熊本地震をマンガに描いた被災者が、3年経った今伝えたいこと「どこかで見たものは、こんなに役に立つ」

『ひさいめし』第2作を刊行。「どれだけふとした時に目に入るようにするかが大事で、漫画はその手段の一つです」

熊本地震で被災した漫画家のウオズミアミさんは、自身の作品やSNSを通じて、災害への備えや避難生活で役立った情報の発信を続けている。

地震から3年が経った2019年4月、『「ひさいめし」〜熊本より3年〜備えあれば憂いなし、ときどき猫。』(エコーズ)を刊行した。

食事という視点から避難生活を描いた前作の「ひさいめし~熊本より~」(2016年マッグガーデン刊行)にアレンジを加え、今回の続編は、災害への備えや被災した際に実践できる具体的な情報を中心にまとめた。

前作「ひさいめし」を描いた後、北海道地震や大阪地震、西日本豪雨など大きな災害が相次いだ。その際に、熊本地震で自分が実践した情報をTwitterで発信したところ、たくさんの反響があった。

【お米の炊き方】熊本地震当時、熊本県内で一番検索されたワードは「お米の炊き方」「ごはん 鍋 炊き方」(意訳)だったそうです。米も水の量も、正確に計らずとも鍋とガスコンロで作れる「ご飯の炊き方」をイラストにまとめました。 pic.twitter.com/EacuQzsnjQ

— ウオズミアミ🌽 (@amiuozumi) September 6, 2018

地震が起きた際「ニュースでは『余震に備えてください』『気をつけてください』と言うが、具体的どうすればいいか分からない人が多い」

自身の経験を生かして、その助けとなるような「実用的な発信したい」という気持ちが、今回の2作目を描くのを後押しした。 

こんなことが役に立つ

今回の「ひさいめし」で紹介された情報を、ウオズミさんの体験、エピソードを交えて紹介する。

 ▽お米の炊き方

お米の炊き方①
お米の炊き方①
©️ウオズミアミ 2019/エコーズ
お米の炊き方②
お米の炊き方②
©️ウオズミアミ 2019/エコーズ

 「北海道地震の時にTwitterで発信したら、多くの人にいいね・リツイートされて、鍋でのご飯の炊き方を知らない人が多いのだと思いました。実際にご存知なかった人から、『あったかいご飯が作れた』という声も届きました」

▽お風呂場の水

 「お風呂場の水は大きい。熊本地震の際に困ったのは、トイレの水が流せないことでした。その経験から、『水を貯められるならオススメします』とSNSでまとめていたのですが、それを見ていた北海道地震の被災者の方から「貯めておいてよかった」と言っていただきました」 

▽サランラップの活用

サランラップの活用
サランラップの活用
©️ウオズミアミ 2019/エコーズ

 「節水時にできたこととしてサランラップが役立ちました。節水になるとは思わなかった。気づきませんでした」

▽歯磨きの代用

歯磨きの代用
歯磨きの代用
©️ウオズミアミ 2019/エコーズ

「歯磨きができないのは、命に関わることではないので盲点でした。私の場合は、マウスウォッシュや配られたガムで代用しました。東日本大震災でもガムがとても役立ったようで、それご存知だった方からの支援物資にガムが入れてありました。大変不快なので、あるだけで全然違います」

▽重い物を運ぶ方法

重いものを運ぶ方法①
重いものを運ぶ方法①
©️ウオズミアミ 2019/エコーズ
重いものを運ぶ方法②
重いものを運ぶ方法②
©️ウオズミアミ 2019/エコーズ

「自動車学校に行った時に倒れた人を運ぶとか、キャンプの講習会に行ったときに、重い木を運ぶやり方の中に出てきたものの応用だったので、一度見たことがあるものは役に立つものだなと思いました」

熊本のいま、復興の様子

災害が起きると、各メディアで大きく報じられる一方で、時間が経つにつれて、報道の量は減っていってしまう。

熊本地震も、本震発生から3年を迎えた4月16日にはメディアが大きく取り上げ、一時的に報道の数が増えるが、そういった“節目”以外に復興や現地の様子が逐一、広く発信される機会は多くない。 

報道が減ったからと言って、完全に復興したわけでは決してない。

「元通りになったような印象を持っている人の方が多いと思います。ただ実際、今までギリギリで生活をしてきた人たちの中には、地震の影響で経済的にとても厳しい人たちが多くいると思います。余裕があれば、もう一度やり直せたかもしれないですが」

ウオズミさんが住む熊本市内では、地震の影響で立て替えが必要となり、現在工事中のビルや家、更地になったままの場所も散見されるという。

「仮設住宅に住んでない人でも、新しく住むところが見つかった人、無理をして家を建て替えた人の中にも、経済的にすごく不安だったり、厳しいと感じたりしている人が多くいるように思います。影響は続いています」

前作の「ひさいめし」を描いた後、サイン会などで出会った被災者からは、「3年経った今まで読むことができなかった」といった声も寄せられたという。 

熊本地震の本震発生から3年を迎え、犠牲者を悼んで復興を願うキャンドルナイト「祈りのあかり」が、熊本城内の加藤神社で行われた(2019年4月16日)
熊本地震の本震発生から3年を迎え、犠牲者を悼んで復興を願うキャンドルナイト「祈りのあかり」が、熊本城内の加藤神社で行われた(2019年4月16日)
時事通信社

繰り返し伝えて、ふとした時に目に入るようにするのが大事

地震や台風などが頻発する日本では、大きな災害が自分の身に降りかかってくる危険性と常に隣り合わせだ。

備えが大切と頭では分かっていても、「自分は大丈夫」と思ってしまう人が大半。いつ来るのか、そして起きるかも分からない事に対して、常に準備し続けるのは簡単ではない。

ウオズミさんも、熊本地震が起きるまではそう考える一人だった。

「全然備えていませんでした。まさか身に起こるとは思っていなかったし、(災害は)他人事でした。熊本地震があった2016年4月14日も『いつもより大きくない?なんかおかしいぞ』という思いでした」

それでもウオズミさんはなぜ、不測の事態に冷静に対応できたのか。それは、どこかで見聞きした防災情報を思い出し、実践できたからだった。

「どの場所で被災した人も、必要だったものや、こう備えろといった防災についてまとめた情報には同じことを書いています。なので、繰り返し見て、半信半疑ながら覚えておくことで、実際に被災した時にこんなにも役に立つものかと思いました」

「繰り返し発信することは大切だと思いました。3.11もそうですが、今回のような節目ごとだったり、繰り返し思い出して、こういう備えが必要だと、こういうことがあったんだというのを発信するなり、受け取るなりするのが重要だと思います」

「役立つ情報は溢れていますが、それに興味を持つか、実際に得ようとするかは個人的な問題で、自分ごととしてみることができるかに尽きます。どこかで目にしたものがいざという時に役に立つので、どれだけふとした時に目に入るようにするかが大事で、漫画はその手段の一つです」

『ひさいめし〜熊本より3年〜備えあれば憂いなし、ときどき猫。』
『ひさいめし〜熊本より3年〜備えあれば憂いなし、ときどき猫。』
©️ウオズミアミ 2019/エコーズ

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