雛形あきこと結婚した天野浩成、妻の姓名乗り「長男なのに」と非難される

フジテレビ系バラエティ番組「ダウンタウンなう」での出来事が浮き彫りにしたもの。
雛形あきこさん
雛形あきこさん
時事通信社

8月10日に放送されたフジテレビ系のバラエティ番組「ダウンタウンなう」で、俳優の天野浩成さんが、2013年の妻の雛形あきこさんとの結婚時に「雛形」姓を選択したことを「長男なのに」となじられたり「異常」と紹介される場面があった。

日本で、結婚の際に姓を変えるのは女性が96%。女性だけでなく、少数派の改姓した男性に対する圧力も、番組で浮き彫りとなった。

夫婦別姓訴訟の弁護団の一人、打越さく良弁護士は「夫婦同姓しか選べない制度によって、男女が共に社会の圧力を受け不自由な目にあっている」と話している。

「異常すぎる愛」「長男なのに」

同番組のテーマは、天野さんの雛形さんへの「異常すぎる愛」を紹介するというものだった。妻への愛情が強すぎて様々な「異常行動」をしてしまっているという内容だ。

最初に取り上げられた「異常行動」が、天野さんが結婚時に「雛形に名字を変更した」ことだった。

番組ナレーションでは、天野さんの姓の変更には「愛情を超えたちょっと変な理由があったんです」と前振り。

しかし、天野さんは「単純に僕のほうが手続きが簡単だった。変更するものが」と説明。名義変更が必要なものが車など4つしかなかったためで実務上の判断だった、と雛形さんとともに解説していた。

この説明に、出演者たちは一度は納得した様子を見せた。だが、天野さんが長男で男兄弟もいないことを確認すると再び「えーっ」「長男なのに」と絶叫調になり、「長男だから余計にこだわらなくてはいけないのでは」「天野(姓が)終わっちゃう」などと強く批判した。

一方、天野さんは「(親も)何も言わなかったです」。出演者らが言及していたような「家を継ぐ」発想はないようだった。

子どもがいる場合にはさらに複雑に

さらに、雛形あきこさんは再婚で、前の結婚相手との間の娘を育てていることを公表している。

こうした手続をしたかどうかは不明だが、一般的に、子どもがいる場合にはさらに複雑になる。

シングルマザーが再婚相手の姓を選択すれば、夫婦は同じ名字になる。

この場合何もしなければ、母親の姓は再婚相手の姓、子どもの姓は元のまま(母親の旧姓、もしくは実父の姓)で母子の姓は別のものとなる。

日本の「常識」に合わせるために、子どもが夫婦と同じ姓にするには、結婚に加えて、再婚相手と子どもが養子縁組をするか、家庭裁判所への申立をして子どもの「氏の変更」をする必要がある。(「氏の変更」を選んだ場合、再婚相手と子どもが法的な親子関係にはならない)

一方で、シングルマザー側の姓を選択し、夫が改姓する場合は、そうした手続きは必要がない。

娘の親権や姓について、雛形さんは明らかにしていないが、こうした事情が考慮された可能性もある。

民法では「どちらの姓を選ぶかは当事者に委ねられている」が...

再婚であるかどうかにかかわらず、結婚で改姓をする側は、パスポートや身分証明書、銀行口座の書き換えなどで様々な苦労を強いられ、不利益を得ることになる。

しかし、そもそもこうした負担を男女のどちらかに強いる必要性があるのだろうか。

2015年12月、「夫婦は同姓」と定めた民法が憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁大法廷は、この規定を「合憲」と判断した。

判決の根拠の1つとして、民法でどちらの姓を選ぶかは当事者に委ねられていて、性差別には当たらないことなどが述べられていた。

確かに、制度として日本では結婚の際に妻と夫どちらの姓を名乗っても良いとされている。

しかし現実には、結婚時に96%が夫の姓を選んでおり(2015年度、人口動態統計)、その選択には育った家だけでなく社会的な圧力が関わっていることが番組からも伺えた。

「男女が共に社会の圧力を受け不自由な目にあっている」

選択的夫婦別姓制度を求める動きは、2018年になって再び盛り上がりを見せている。

男女がそれぞれ自分の姓を変えなくてもすむように、仕事場では旧姓使用をしたり事実婚を選ぶカップルは増えているが、それぞれに不利益が存在するからだ。

2018年1月にはソフトウェア会社「サイボウズ」の社長、青野慶久氏ら4人が東京地裁に提訴。青野社長は妻の氏に改姓したことで株式の名義変更などの損害を負ったと訴えている。

さらに、5月にも事実婚をしているカップル6組10人が、東京・広島地裁など各地で提訴。法律婚をしていれば得られる相続や税制優遇措置など、様々な権利を得られないという不利益を訴えている。

必ず夫婦同姓にしなくてはならない制度があるのは、世界では日本だけ。夫婦や親と子が別姓であることが当たり前の社会では、天野さんのような改姓する男性や、親子の姓が違うことが「差別」されることもなくなるだろう。

選択的夫婦別姓制度を求める事実婚カップルの裁判の弁護団の一人、打越さく良弁護士は「『結婚したら女が姓を変えるのが当然』という考え方によって、男女が共に社会の圧力を受け不自由な目にあっていることは、番組での取り上げられかた1つからも明らか。結婚しても、自分のアイデンティティに基づく姓を継続することが選べる制度を求めていきたい」と話している。

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