症状が見た目に出てしまう病気と、どう向き合うか
「歯並びが悪くて、口を大きくあけて笑えない」「生まれつきのあざに、視線を感じる......」
見た目にまつわるコンプレックスは、大なり小なり多くの人が持っている。他人からすると大したことないと思われるかもしれないが、周囲の視線が気になる。だから、自分らしく堂々と振る舞うことができない......そんな悩みを持つ人も多いのではないだろうか。
乾癬(かんせん)という病気と戦っている人たちにとっても、それはかわらない。
乾癬は、免疫機能の異常から、皮膚の新陳代謝が異常に活発になり、通常の約10倍の速さで皮膚がつくられる病気だ。その症状は、皮膚が赤くなったり、細かいかさぶたが剥がれ落ちたりと、見た目に影響が出てしまう。
乾癬は、感染しない。乾癬を、悲観しない。
10月29日の世界乾癬デーを間近に控えた10月5日、乾癬の誤解の緩和に向けた、HIKANSEN(ヒカンセン) プロジェクトが立ち上がった。
HIKANSENには、乾癬は、感染しない(非感染)。乾癬を、悲観しない(悲観せん)。という想いが込められている。本プロジェクトを先導するのは、ジョンソン・エンド・ジョンソングループの医薬品部門、ヤンセンファーマ株式会社だ。
現在、日本の乾癬患者は約50〜60万人いると推定されている。彼らは、症状の身体的なつらさだけでなく、肌を見られることによる精神的なストレスと向き合うことになる。夏でも半袖を着ることができず「はがれる皮膚が不潔に見えるのではないか?」「人にうつる病気だと思われてしまうのでは......」という不安と常に戦っているのだ。
乾癬は、根治療法が確立していない病気だ。しかし、適切な治療を行うことで症状を抑えることはできる。前向きな気持ちで病気を受け入れるには、どうしたらいいのだろうか?
理解が広まれば、見える景色も変わる
2018年10月5日〜7日には、東京ミッドタウンの特設会場にて、HIKANSENプロジェクトのキックオフ・イベントとして「ふれられなかったにんげんもよう展」が開催された。本イベントは、アート作品の展示を通して、乾癬への理解を深め、誤解をとくために企画された。
日常生活のさまざまなシーンを模したセットには、真っ白なマネキン。フラッシュ撮影すると、模様が浮かび上がる。今まではふれられずにいた乾癬も、スポット(=関心)をあてると、新たな関係性がうまれるというテーマの展示だ。
イベント最終日には、トークセッション「人からの視線は、良くも悪くも強い力になる」も実施された。
乾癬の当事者であり、本イベントのアンバサダーに就任した道端さんは「乾癬を告白する前は、気持ち悪いと思われるんじゃないかという気持ちでいっぱいでした。モデル=肌が綺麗というイメージが強いので、自分自身にも『肌が汚いのは恥ずかしい』という気持ちがあったんです。朝、ジムに行くときにもファンデーションを塗っていました」と話す。直接周囲になにか言われたわけではないのに、どんどんネガティブになってしまったそうだ。
「ヘアメイクさんにも肌を直接触らせないようにして、現場に入る前に自分でメイクしていました。『この前にも仕事が入っていたから、ヘアメイクはいらないよ』と、嘘をついていましたね」
自分の体を直視するのが怖くなり、入浴時には電気を消していたという彼女。ふさぎ込んでいたが、ある日病院で乾癬と診断されたことで、病気を受け入れる覚悟が決まったという。SNS上で乾癬であることを告白してみると、「励まされた」「勇気をもらった」と、前向きなメッセージがたくさん届くようになった。
乾癬を取り巻く治療環境は、劇的な進化をとげている。
一時は全身に疾患が広がり、重症だったという大蔵さんは「乾癬って、イメージが悪くて人に言いにくいんです。『かんせん』する病気だと思われるし、疥癬(かいせん)など、うつる病気とも名前が似ている。私自身、なかなか病気を受け入れられませんでした。乾癬は根治しない病気ですが『一生治らないはずがない、私は絶対に治るはず』との想いがどこかにあったんです。その後、自分に合う治療を積極的にやってきたので、今は寛解(ほとんど症状がでない)状態になりました」と、力強く語った。
「医療は年々進歩しています。乾癬は、8年前に注射療法が出て以降、治療環境が大きく変わりました。素晴らしい時代になっています」と話すのは、高知大学医学部 皮膚科学講座教授の佐野栄紀先生。「医者は昔から乾癬を見てきたし、患者さんもたくさんいます。尻込みせず、診察を受けて欲しい」と、会場に呼びかけた。
2ヶ月半前に出産したばかりの道端さんも「ライフステージによって、治療方法を変えることができます。信頼できる先生を見つけて、なんでも相談することが大切です」と、想いや希望を主治医に伝えることの大切さを説いた。
社会の目を変えるなら「知らない人がダメ」というスタンスではいけない
見た目に特徴的な症状を持つ人たちがぶつかる困難を「見た目問題」と名付けたのが、外川さんだ。乾癬のような病気だけじゃなく、あざや怪我など、誰にでも関係するトピックだ。「見た目問題は、とてもデリケート。ただ、当事者さんが声を出すって、とても勇気がいることなんです。周りにいる私たちは、その勇気にこたえなければいけません。興味本位はダメだけど、タブーにせずに、しっかりと向き合うことが大事だと思います。見る側の視線や意識がかわれば、患者さんも楽になるのでは」と語る。
自身が醜形恐怖症という外見への執着に悩まされた経験を持つ、作家の水野さんは「外見の問題は、病気だけでなく、怪我やあざなども含めて多くの人が直面すること。社会を変えるなら『知らない人がダメなんだ』というスタンスではいけません。当事者じゃない人にも、きちんと寄り添っていくことが大切です。本日のアートイベントのように、美しいこと、魅力的なことを通して病気を知ってもらうことが大切。感動しました!」と、"ふれられなかったにんげんもよう展"についてもコメントした。
ひとりで抱え込まず、周囲に相談することも大切。
モデルは、容姿の美しさが仕事に繋がる職業だ。道端さんは、乾癬で荒れた肌を露出することが怖かったという。病気を告白する前、SNSに寄せられた「スーパーフードを食べているのに、肌が汚いね」という心無いコメントに、彼女はとても傷ついた。
イベント後、ハフポストのインタビューに対応した彼女はこう語ってくれた。「ひとりで悩んでいる間は、なにも改善しません。病気を受け入れて、先生に相談することが大切です。仕事場でもなかなか言い出せず、ずっとひとり抱え込んでいたけれど、話してみるとヘアメイクさんも『そうだったんだ』と気にせず受け入れてくれました」。
日本での認知度はまだ低いが、アメリカでは日本よりも乾癬患者数が多く、病気についても広く知られている。彼女も、アメリカで生活する姉によく相談するそうだ。「アメリカでは、乾癬についてオープンに話すカルチャーがあるようなんです。日本でも、アトピーと同じように認知される病気になれば嬉しい。病気に詳しく説明しなくても、相手にさらっと流してもらえるくらい、広く知ってもらえれば」と明るく語った。
ヤンセンがこのような疾患啓発を通じて、患者の方々がより充実した生活を送るための課題にも向き合う背景には、「Beyond the Pills(医薬品を越えて)」の姿勢がある。
乾癬の啓発では、今回のHIKANSENプロジェクトのほか、病気の基本的な情報やさまざまな治療方法などが掲載されている「乾癬ネット」も運営。本イベントを通して関心持った方は、ぜひ一読して欲しい。