働き方改革や育児休暇取得に向けた取り組みが広がる中、「子どもが生まれる前」の社員をサポートする動きがスタートアップで広がっている。
背景には、育児休業給付金の仕組みに関する「落とし穴」により、妊娠中の社員がつわりがひどくても無理して出勤せざるを得ない事情がある。
いったいどのようなサポートをしているのか。実際にスタートアップで働いている社員から話を聞いた。
プレママ・パパ制度を始動
「全ての従業員が働きやすい環境を整えることが、会社が持続していく上で重要になります」
デジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援する「スパイスファクトリー」(東京)の前田梨沙さんは、こう力を込めた。
同社では、7月1日から「プレママ・パパ制度」を始めた。
社員や社員のパートナーの妊娠期間中、最大20日の有給休暇を取得できる制度で、つわりなどの体調不良や妊婦健診で勤務できない場合に利用できる。
パートナーが妊娠中の社員の場合は、妊婦健診の付き添いやサポートなどでの利用を想定している。
前田さんは、「働きがいを大事にして、それぞれのライフスタイルに対応できるようにしていきたい」と語った。
背景に給付金の「落とし穴」
では、なぜプレママ・パパ制度を始めたのか。 背景には、育児休業給付金の仕組みに関する「落とし穴」があった。
現行の制度では、従業員に子どもが生まれた場合、最長で2年間の育休を取得することができる。
育休期間中、多くの企業では無休や減給になるため、雇用保険から支払われる「育児休業給付金」に頼って生活することになる。
この給付金の給付額は、育休開始前の6か月に支払われた賃金を180(日)で割った「休業開始時賃金日額」をベースに算出される。
つまり、育休に入る前の6か月の間に休職や欠勤があると、給付金の給付額が目減りしてしまい、育休中の生活に支障が出るということだ。
一方、妊娠中はひどいつわりで仕事を休まざるを得ない人も多い。そして、14回程度の「妊婦健康診査」を受けることも推奨されている。
ただ、有給を使い切ってしまうと欠勤扱いになり、育児休業給付金の給付額に影響が出てしまう。
このような事情から、つわりがひどくても無理して出社する社員が出る可能性があった。
スパイスファクトリーは、このような状況で苦しむ社員を生み出さないために、プレママ・パパ制度を始めた。
総務の瀧口さんは…
ハフポスト日本版は、実際にスパイスファクトリーの社員にも話を聞いた。
総務の瀧口さゆりさんは、2021年3月にスパイスファクトリーに中途入社。約4か月後の6月下旬に妊娠が発覚した。
しかし、有給は「雇入れの日から6か月継続勤務」など、一定の条件を満たさなければ付与されない。
そのため、瀧口さんは入社半年後の9月まで有給は付与されず、休む場合は欠勤扱いになってしまう状況だった。
一方、安定期に入る8月下旬まで、つわりで体調不良となる日が続いた。
この3か月間は会社にも妊娠を報告できず、急にくる吐き気や倦怠感に悩まされながらも出勤していたが、7月に一度だけ休んだ。
「欠勤になるのは嫌だったので、有給が付与される9月まではできるだけ出社しようと思いましたが、この日だけはどうしてもベッドから起き上がることができなかった。今まで経験したことのない体調不良に見舞われました」
土曜日の検診は2時間待ち
安定期に突入後はつわりも落ち着き、会社に妊娠を報告してからはテレワークなどの配慮もあった。
瀧口さんは、「私はそこまで重いつわりではなかったけど、周囲には有給を週2〜3日使って休んでいる人や、欠勤が続いて退社した人までいる。プレママ・パパ制度があれば無理する必要はなく、精神的にも楽になります」と話した。
また、制度を使うことで、妊娠検診を平日に行けるメリットもあるという。
2週に1度のペースで産婦人科に通っていたが、土曜日の検診は混み合い、待合室で2時間待つこともざらにあった。
瀧口さんは、「平日に行くことができれば待ち時間のストレスもない。当時、この制度があれば存分に利用していたと思いますし、今後入ってくる社員は安心して妊娠期間を過ごせると感じています」と語った。
「子育てに代わる大仕事はない」
このような制度を始めたのは、スパイスファクトリーだけではない。
「ANBAI」や「ハカルテ」などのヘルスケアアプリを提供する「DUMSCO」(東京)も「プレママ・パパ有給」の運用を始めている。
社員や社員のパートナーの妊娠中に利用できる制度で、10〜25日の特休を勤続年数に応じて付与している。
同社では、子育て世代の社員などにヒアリングし、「つわりが辛いのに仕事を休めない」や「妊娠期間中に有給を使い切ってしまわないか不安」といった声を聞いてきた。
スタートアップは若い世代も多く、結婚や出産、子育てといったライフステージの変化を抱えている社員もいる。
西池成資社長は、「子育てに代わる大仕事はありませんので、父親も出産前からパートナーをサポートできる仕組みづくりが必要だと考えていました。この制度によって、子育て世代の社員の不安が軽減され、育休取得する人が増えることにつながれば幸いです」としている。