沖合で漁船から転落したアメリカの男性漁師。5時間泳ぎ続けて奇跡の生還を果たしたが、その際に心の支えになったのは近寄ってきた1匹のアザラシだった。
■足を滑らせて沖合いの海に投げ出される
地元紙「サンタバーバラ・インディペンデント」などによると、それは1月26日の深夜の出来事だった。カリフォルニア州南部のサンタバーバラ海峡で、ウニ漁師のスコット・トンプソンさんは漁船でウニを探していた。
夕暮れどきに、小用を済ませようとして、船の端に移動した際、トンプソンさんは足を滑らせて海に転落した。急いで漁船に戻ろうとしたが波が強くますます距離は離れてしまい、事態の深刻さに気づいた。このとき海水の温度は約13度だったという。
現地の海難救助サービス「TowBoatUS Ventura & CI」のインスタグラムによると、トンプソンさんが船から落下したのは沖合約16キロほどの地点。トンプソンさんは海中に落下した際、Tシャツとショーツしか着ていなかった。
■近寄ってきたアザラシに励まされて5時間泳いで生還
現地テレビ局「ABC7」の報道によると、トンプソンさんは「ただ泳ぎ続けるんだ、俺は家族のいる家に帰るんだ」と自分に言い聞かせ続けたが、事態は絶望的だった。
「娘たちと息子が自分なしで成長していく様子や、妻にはサポートする夫がいなくなる様子が浮かんできて打ちのめされました」
そんな時だった。必死で泳ぐトンプソンさんの近くで水しぶきの音が聞こえた。
「それは中型のゴマフアザラシでした。アザラシは潜って近づいてきて私をつつきました。まるで犬がじゃれついて、こちらの足を揺らしに来るような感じでした」
トンプソンさんは「どんな苦難も乗り越えられる」という神のお告げのように感じたという。
「『この人間、困ってるみたいだ。ほら前に進んで』とアザラシに言われたように感じました」
トンプソンさんは自分の周りを泳ぎ回っていたアザラシに話しかけた。ときには、乗せてくれるように頼みもしたという。
アザラシの励ましで気を取り直したトンプソンさん。低体温症になるも約5時間にわたって泳ぎ続け、沖合にある石油プラットフォーム「Platform Gail」に到着して救出された。
現地の海難救助サービス「TowBoatUS Ventura & CI」のインスタグラムによると、座礁していたトンプソンさんの船も救出されたという。同サービスは、トンプソンさんを「非常に幸運な人」とした上で、「必ず救命胴衣をつけるように」と警告している。