アメリカの俳優ハル・ベリーが、新作映画で演じる予定だったトランスジェンダーの役を降板した。
自身が演じる予定だったトランスジェンダー男性(FTM)役について「男性になった女性」などと表現したことに批判が殺到。ベリーは7月7日、Twitterで発言を謝罪し、役を辞退する意向を発表した。
いったい何が起きたのか。
「トランスジェンダーの女性の役をやる」発言に「誤った認識」と批判
ベリーは7月3日、Instagramでライブ配信された対談で、新作映画でトランスジェンダー男性役を演じることを明らかにした。
対談では作品のタイトルなど詳細は触れなかったが、「トランスジェンダーの女性の役をやることを考えています。男性になった女性です」と、役柄について説明していた。
ベリーは「その世界を体験することによって、その世界を理解したいんです」と役について説明。「ストーリーを伝えることは私にとって本当に重要で、これは、女性の物語なんです。男性の物語に変わるんですが、その背景や過程を理解したいんです。その物語に入り込みたいんです」などと語っていた。
動画が配信されると、ベリーが「トランスジェンダーの女性」「女性の物語」と発言していたことについて批判が殺到。
性自認が「男性」の役であるにも関わらず、「She」や「Her」(彼女)という女性を表す代名詞を使っていることに、「トランスジェンダー男性は『男性』で、誤った認識をしている」と指摘する声が相次いだ。
「トランスジェンダー男性は『ドレスアップした女性』ではない」
また、出生時の性別と性自認が一致しているシスジェンダーのベリーがトランスジェンダー役を演じることについても、批判が上がった。
あるトランスジェンダーのYouTuberは、「トランスジェンダーの役にはトランスジェンダーの俳優を」とTwitterに投稿。「シスジェンダーの女性がトランスジェンダー男性を演じ、シスジェンダーの男性がトランスジェンダー女性を演じる時、有害なステレオタイプを助長させてしまいます」と指摘した。
また、TVパーソナリティーのクリッセル・ウェストは、「考え直してください。トランスジェンダー男性は、ドレスアップした女性ではありません」と批判した。
声明を発表、謝罪「自身を教育し、過ちから学んでいきたい」
批判を受け、ハル・ベリーは7月7日、Twitterに声明を投稿。
「週末、私はトランスジェンダー男性の役について語る機会がありました。その際の、自分の発言をお詫びしたいと思います」と謝罪した。
「シスジェンダーの女性として、私はこの役を演じることを考えるべきではありませんでした。また、トランスジェンダーのコミュニティが自分たちのストーリーを語る機会を得るべきだと思っています」とつづり、役を辞退する意向を明らかにした。
さらに、「ここ数日の間にいただいた説明や批判に感謝しています。今後も耳を傾け、自身を教育し、過ちから学んでいきたいと思います」とコメント。「カメラの前でもその裏側でも、アライとして私の声を使い、より良い表現をしていくことを誓います」と締めくくった。
トランスジェンダー俳優に同等のチャンスを
シスジェンダーがトランスジェンダーの役を演じることについては、過去にも様々な論争が起きている。2018年7月には、スカーレット・ヨハンソンが当事者らからの批判を受け、トランスジェンダー男性役を辞退した。
こうした批判の背景には、トランスジェンダーの俳優に、シスジェンダーの俳優と同等のキャスティングのチャンスが与えられていない、という問題がある。
これまでに、ヒラリー・スワンク(『ボーイズ・ドント・クライ』)やジャレッド・レト(『ダラス・バイヤーズクラブ』)、エル・ファニング(『アバウト・レイ』)など、多くのシスジェンダーの俳優がトランスジェンダーの役を演じてきた。しかし、トランスジェンダーの俳優が重要な配役につくチャンスは少ない。
さらに、ベリーへの指摘にあったように、シスジェンダーがトランスジェンダーの役を演じることで、トランスジェンダーに対する誤った偏見を植え付けてしまう、との見方もある。
ベリーの声明を受け、当事者からは感謝の声が上がった。トランスジェンダーの俳優のブライアン・マイケル・スミスはTwitterで、「私たちの声を聞き、時間をかけて私たちの懸念を理解してくれてありがとう」とつづった。