アパレルメーカーの「H&M」が歌手の安室奈美恵さんに宛てた手紙が4月10日、読売新聞の朝刊に掲載された。
2018年9月に引退することが決まっている安室さん。10代から40代すべての年代で、ミリオンセラーを達成するなど、日本のミュージックシーンを第一線で率いてきた彼女の"ラストイヤー"に、コラボレーションさせてほしいと伝える内容だ。
安室さんへの熱烈オファーを、わざわざ新聞広告を使って公開したのはなぜだろうか。
■新聞広告で手紙を公開する手法
新聞広告で手紙を公開するという取り組みはH&M社にとって初めての取り組み。同社広報担当者によれば「できあがったイメージを公開するのが普通だが、安室さんにご出演頂きたいと思ったその"思い"の部分を、皆さまにお伝えしたいと思った」という。
ここ最近、企業が新聞広告でメッセージを発信するケースがよく見られる。
2月には、チョコレートメーカーの「GODIVA」が、「義理チョコやめよう」と呼びかける新聞広告を掲載し、大きな話題になった。
昨年は、IT会社のサイボウズが「働き方改革に関するお詫び」と題した手紙で"働き方改革ブーム"へ疑問を呈する姿勢を表明したり、日本酒メーカーの「獺祭」が「正規の価格以外で買わないで」と呼びかけたりする新聞広告が、いずれもTwitterを中心に話題を呼んだ。
こうした企業のマーケティング手法について、国内外の広告やマーケティングに精通している多摩美術大学の佐藤達郎教授は、以下のように分析した。
SNSの普及などで、今、企業にとって、新しいタイプの「統合型マーケティング」が重要になってきています。
新聞広告のみならず従来型のマス広告は、それ単体では効果が見込みにくいものです。写真を撮られてSNSで拡散されるなどの二次的な広がりも織り込んだ、いわば「統合マーケティング型新聞広告」というものが登場しています。
新聞はいまだ「正式なメディア」であり、新聞広告を使うことで「広告主の本気度」を表すことができます。
一方で、「広告を出す企業の本気度」が伝わるような方法で行われないと(つまり多くの人に、形だけだと感じられると)、逆効果になることもあるかもしれません。
■H&Mは「試行錯誤」の真っ只中。
今回、「まさに、輝く星のような存在です」という安室さんへの熱い言葉を、新聞広告で公開したH&M。これまでも、マドンナ、ビヨンセ、レディー・ガガ、ケイティ・ペリーなど女性たちのロールモデルとなる著名人を起用し、親しみやすく前向きなイメージ作りに取り組んできた。
一方で、「ジャングルで最もクールな猿」とプリントされたパーカーのモデルに黒人の少年を起用した際には、「差別的だ」と炎上したことも記憶に新しい。
グローバル企業として試行錯誤を繰り返す中で、安室さんとのコラボキャンペーンにかける「本気度」は、どの程度伝わっただろうか。