【4月から開始】超高齢化社会、帯状疱疹予防ワクチンの定期接種化が求められる背景とは?

2025年4月から施行される帯状疱疹予防ワクチンの定期接種化に先駆けて、グラクソ・スミスクライン(GSK)がメディアセミナーを開催。ワクチンの基礎知識や定期接種に寄せる期待、懸念点などを聞いた。

80歳までに約3人に1人が発症すると言われている帯状疱疹。

今年4月からは、65歳の高齢者や重症化リスクのある60~64歳などを対象に、帯状疱疹ワクチンの定期接種化と費用の一部公費負担が施行される。65歳を超える人は5年間の経過措置として、5歳刻み(70、75、80、85、90、95、100歳)で位置付けられている。令和7年度に限り、100歳以上の方は全員が接種対象者となる。

これに先駆けて、グラクソ・スミスクライン(以下、GSK)は2月28日、メディアセミナー「帯状疱疹予防ワクチンの定期接種化の社会的意義」を開催。帯状疱疹の基本情報やワクチンの定期接種化の重要性について聞いた。

帯状疱疹予防ワクチンの定期接種化は、なぜ「今」なのか

帯状疱疹は、子どもの頃に感染した水ぼうそうと同じウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)が、体の中で再活性化することで発症する皮膚の病気だ。

日本人成人の90%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスが体内に潜んでいる可能性があると言われており、特に高血圧や糖尿病、リウマチ、腎不全などの基礎疾患のある人は発症リスクが高いとされる。加齢による免疫低下が発症のトリガーになるため、50歳を過ぎると発症者数が増え始めることも特徴だ。また、年々発症者数も増え発症率も上がっていることが報告されている。こうした背景から、高齢化が進む現代におけるリスクマネジメントとして、ワクチンの予防接種の重要性が高まっているという。

国立大学法人熊本大学 特任教授・東京医科大学微生物学分野 客員教授の岩田敏さん
国立大学法人熊本大学 特任教授・東京医科大学微生物学分野 客員教授の岩田敏さん
GSK

国立大学法人熊本大学 特任教授・東京医科大学微生物学分野 客員教授の岩田敏さんは、「日本におけるワクチン定期接種の社会的意義」と題したプレゼンテーションを行い、帯状疱疹におけるワクチンの定期接種の意義や、グローバルで推進されるワクチンに関する考え方を説明した。

岩田さんは「予防接種の原則は個人防衛ですが、さまざまな理由でワクチンを接種できない人たちを間接的に保護することにつながるなど、個人防衛の積み重ねは社会防衛につながります」「院内感染の予防や、医療経済への負担軽減などのメリットを加味すると国策として推進する必要があります」と説明。また、平均寿命と健康寿命のギャップが男女でそれぞれ8.73年と12.07年である現状について言及し、このギャップを小さくし「幸齢化」を目指すための一手として、帯状疱疹の予防ワクチンが有意性を持つだろうと話した。

さらに岩田さんは、グローバルでのワクチンに関する考え方の1つとして、世界保健機関(WHO)が推奨する“Life Course Immunization”について説明した。“Life Course Immunization”は、乳児期から老年期まで、生涯を通じて適切なタイミングでワクチンを接種することによって、感染症から身を守ろうという考え方だ。

この理念を推進するためには、関連情報の充実や周知、今回のような定期接種化などが欠かせないという。

定期接種化で、助成対象外になる人がいるかもしれない

続いて、国立病院機構東京病院感染症科の永井英明さんが登壇し、「ワクチンによる帯状疱疹予防の重要性と公衆衛生上の意義」と題したプレゼンテーションを実施。同議題について、感染症科医の視点から掘り下げて説明した。

永井さんは「インフルエンザ、肺炎球菌性肺炎、帯状疱疹、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症は高齢者にとって大きな疾病負担であり、超高齢社会に突入した日本社会に与えるインパクトは膨大です」と帯状疱疹に限らず、ワクチン接種を積極的に行うことの意義を説明。

また、帯状疱疹の合併症としてあまり知られていないが深刻な症状として、血管炎(脳炎)やそれに伴う脳梗塞があると語った。ワクチンを接種しておらず水ぼうそうに感染したことがない子どもにウイルスを感染させてしまい、水ぼうそうを発症させてしまうケースもあるという。

国立感染研究所の調査では、免疫のない0歳の孫に祖父母から帯状疱疹ウイルスが感染したとされる報告も散見されていると話し、「このデータを周知することで、積極的に接種を受ける人が増えるのではないか」と私見を共有した。

国立病院機構東京病院感染症科の永井英明さん
国立病院機構東京病院感染症科の永井英明さん
GSK

永井さんは「帯状疱疹ワクチンは、生ワクチン『ビケン』と組み換えワクチン『シングリックス』の2種類があり、それぞれ有効性や予防効果の持続性が異なります」と話す。生ワクチンは以前から小児水痘の予防ワクチンとして使用されていたものを、帯状疱疹の予防としてもう一度接種するというもので、一方の組み換えワクチン「シングリックス」は2回(通常2カ月間隔)接種を行うものだ。

プレゼンテーションの終盤、永井さんは定期接種化に伴い危惧される点として「すでに公費助成が行われている自治体の助成制度がどうなるのか」と疑問を呈した。

2025年1月の時点で、日本では(1718自治体の中で)738自治体が既に帯状疱疹予防ワクチンの公費助成を行っており、多くの自治体で対象年齢が65歳を下回る。永井さんは「今回の定期接種化の施行によって、自治体によって助成対象者や助成額に差が出たり、助成がなくなった年齢層の接種率が下がったりするのではないか」と話した。

さらに、ワクチンの定期接種をより身近な存在にするために、それぞれの自治体での積極的な対応や、医療者の積極推奨を含む多角的なアプローチが欠かせないと呼びかけ、プレゼンテーションを締め括った。

左からポール・リレットさん(グラクソ・スミスクライン株式会社 代表取締役社長)、岩田敏さん、永井英明さん、國富太郎さん(同社執行役員 ガバメントアフェアーズ&マーケットアクセス本部 本部長)、中尾弥起さん(同社 ワクチン/感染症メディカル部門 部門長)
左からポール・リレットさん(グラクソ・スミスクライン株式会社 代表取締役社長)、岩田敏さん、永井英明さん、國富太郎さん(同社執行役員 ガバメントアフェアーズ&マーケットアクセス本部 本部長)、中尾弥起さん(同社 ワクチン/感染症メディカル部門 部門長)
GSK

セミナーの最後には、同社執行役員 ガバメントアフェアーズ&マーケットアクセス本部部長の國富太郎さんが登壇。ワクチンを通じた帯状疱疹の予防に貢献するため、同社では引き続き「適正使用情報の提供」「積極的な予防啓発活動の実施」「製品の安定供給」に注力していくと説明した。特に「適正使用情報の提供」に関しては「一丁目一番地でやらなくてはならない」と強調し、セミナーを締め括った。

注目記事