あなたは「SDGs」と聞いて何をイメージしますか?
「SDGsは、自分のピュアさをもう一度取り戻すチャンス」
そう語るのは、広告や事業開発を手掛けるThe Breakthrough Company GOのクリエイティブディレクター・砥川直大さん。ビジネスの持続可能性が問われる昨今、日本企業が生き残るためには何が必要なのか。
砥川さんとジャーナリストの浜田敬子さんが講師を務める同社のワークショップ「社会課題解決型ビジネス発想ワークショップ」(JINSとKDDIで開催)を取材した。
SDGsは「胡散臭い」?
「『胡散臭い』『なんかきれいごと』……SNSでは、そうしたSDGsへのコメントを見かけます。僕はこれを非常にもったいないと思うんです」
では、なぜSDGsは「胡散臭い」のか? ワークショップ冒頭で砥川さんは、あるTVCMを紹介。それはガソリン車にも関わらず、「コンパクトで低燃費だからサステナブル」と謳う軽自動車のCMだった。まさにトレンドワードに乗っかるかたちで実態が伴わないメッセージを世に出してしまった例だ。
「これを見たとき、びっくりしてしまった。この責任はクライアント企業だけでなく、CMをつくったクリエイター、そしてCMを流したメディアにもある。SDGsやサステナビリティをきちんと理解し腹落ちしていないことが問題。まさに、これが日本の現状なのだと思いました(砥川さん)」
SDGsに関する企業情報が頻繁に発信される一方、「ウォッシュ(SDGsに取り組んでいるように見えて、実態が伴っていないこと)」だと批判されるケースも多い。また、企業としてのメッセージとトップの発言が乖離する例も少なくない。SDGsへの理解を深め腹落ちさせることで、こうした矛盾が醸す「胡散臭さ」を払拭する必要がある。
「SDGs」と「売り上げ」は両立する。
一方で、「SDGsは儲からない」そう考える人もいるのではないだろうか。しかし、浜田さんは「グッドカンパニーとグッドビジネスは両立する」と言う。
「特定のものを買うことで社会に貢献をする『バイコット』があるなど、『消費行動も投票行動と一緒』だと考える人たちも増えています。ですから、やはり『社会に対して何を取り組み、どうメッセージを発する企業なのか』が見られていると思います(浜田さん)」
また、砥川さんは「社会課題の解決をサポートすることは、スポーツのスポンサーシップと似ている」と言います。
「『SDGsは売り上げにつながるか?』という質問は『スポーツのスポンサーシップは売り上げにつながるか?』と尋ねるのと同じ。たとえば、スポンサーをしているスポーツチームが勝つと、その週の売り上げが伸びるわけではない。だけど、そのチームやスポーツ全体を応援し続けることで、ブランドの情緒的価値や顧客とのつながりが生まれる。このように、スポーツに熱狂する人と同じような感覚で、世の中をよくしたいと願う人たちに社会課題の解決が刺さるわけです。今はむしろスポーツより社会課題解決に高揚する人の方が多くなっている感覚もあります」
ESG投資の流れに加え、こうした市場の成熟によりSDGsに取り組むことが消費者から選ばれる理由になり得るということだ。また、そもそも社会課題の解決こそ大きなビジネスを生むとも言う。
「ネスレ前社長・高岡さんが取材で言われたのは、『解決しようとする社会課題が大きいほど、それは永続的なビジネスにつながる』ということでした。今は小さなサービスの違いで企業が競争していますが、それは登りつくされた小さな山をみんなで一生懸命ルートを変えて登るのと同じ。『少子化』や『地方の過疎問題』『経済格差』『気候変動』といった深刻で本質的な課題の解決に少しでもつながるサービスや製品ができれば、そこにはニーズが必ずあると思います(浜田さん)」
いかに「社会課題解決」を「既存ビジネス」に組み込むか。
では、具体的にどう自社ビジネスを社会課題解決と結び付ければいいのか? そのもっとも分かりやすい例として、ボルヴィックの「1ℓ for 10ℓ」プログラムが紹介された。
「コモディティ化した商材こそ、社会課題解決に取り組むのに適しています。たとえば、価格とサービスがさほど変わらない3つの商品があるとする。だけど、そのうち商品Aだけが社会課題の解決につながる。そうなれば、商品Aを選びますよね。同様に、水を買うという行為も支払う金額も変わらないけど、ボルヴィックを買えばアフリカの水問題解決を支援できる。その手軽さが売り上げにつながるわけです(砥川さん)」
一方、世の中でまだ気づかれていないニーズ=「アンメットニーズ」を満たすことも重要な視点だと言う。
「ユニクロの前開けインナーがいい例です。これは、乳がん患者や介護を受けている人、障害のある人でも快適に過ごせるようにつくられた商品。インナーを着脱することが困難な人からの手紙がきっかけで開発されました」
「ToCでビジネスをおこなっていると、どうしても『最大公約数的なものづくり』になってしまう。それは当然だと思いますが、そこは競争が激しいレッドオーシャンです。だけど最大公約数の一歩外に出てみると、そこにはまだ満たされていないニーズがある。これまで届かなかった人たちに手を差し伸べることができる。それがブルーオーシャンでのビジネスになるわけです。(砥川さん)」
また浜田さんは、まずは社会課題に対するアンテナを高めることが大切だと言う。そのうえで、日々社会の問題を報じるニュースは「社会課題が満載」だとし、日常的に社会課題を自社のリソースと掛け合わせて考える訓練が重要だと語った。
「SDGsは幅広い。取り組もうする意志さえあればビジネスになる」
講義後のワークショップでは実際に紙の新聞を読み、社会課題の解決に対してどのように貢献できるか、アイデアを発想するグループワークがJINSとKDDIでおこなわれた(新聞を読むグループワークはJINSでのみ実施)。
参加者のJINS社員のグループは、メガネを通して「子どもの貧困」の解決へ貢献する案を発表。経済的理由からメガネを買えない、もしくは度が合わないメガネを使っている子どもたちに製品を提供するアイデアだ。
この発表に対し浜田さんは「生理の貧困が問題になっていますが、生理用品を買えない家庭ではメガネを買うこともおそらく難しい。我慢している子どもも多いと思います。素晴らしいアイデア」と評価した。
また、KDDI社員のグループは「行政のDX推進」を支援するアイデアを発表。自社の人材を行政に派遣しDXの課題を発見。その課題解決のために技術やサービス・製品を提供する。これに対し砥川さんは「課題を抱える現場に社員が赴き、課題をインストールしてくることは人材開発の観点からも価値があります」と評した。
ワークショップを終えた各社社員たちからは、今回の学びを自らの仕事へ活かそうとする意気込みが語られた。
「短期的な利益を追うのではなく、子や孫など将来にどうつなげるかを意識する大切さを学びました。全く関係のないように思えたものが、いくつかのポイントを経由することで自社のビジネスにつながるということが発見でした(JINS社員)」
「社会課題の解決と企業活動を結びつける必要があることは明確ですが、その糸口を見つけることはとても難しい。今回のワークショップでは、その見つけ方をわかりやすく教えていただいた。ここで学んだことを社員一人ひとりが習慣づけることで、企業として何をしていくべきかが見えてくると感じています(JINS取締役ブランド本部執行役員・田中亮さん)」
「SDGsの本質を理解すること。そして、社会課題=ビジネスチャンスだという発想を持つことの重要さに気づかされました(KDDI社員)」
「SDGsやサステナビリティの取り組みを進めるうえで、社員がその重要性を頭で理解するだけではなく、共感することが重要だと考えています。今回のワークショップは講義やディスカッションを通じ、社員がSDGsやサステナビリティの本質を理解し共感する良い機会になりました。とくにディスカッションは部署横断で実施したため、さまざまな知識や思いもよらないアイデアが集まり、意義のある議論ができました(KDDIサステナビリティ経営推進本部・柏木真由子さん)」
“日本の大企業”は社会課題解決がニガテ?
いわゆる日本の大企業は、短期的な利益を追求するあまり社会課題解決に貢献するビジネスに対して足踏みしている印象を受ける。
浜田さんは「大企業こそ、やるべき」だと強く語る。「大企業は資金力もありますし、人もいます。だから、正面から社会課題を解決するべきだと思うんです。そのためには『経済合理性をどれくらいのタイムスパンで見るか』が重要。短期的に利益を上げようとする発想だけでは、誰も手をつけて来なかった大きな社会課題には取り組めません。長期的な視点とのバランスが大切だと思います。そして最後は本気度。魂が入っているかどうかです」
また、砥川さんは「違和感に慣れきってしまっている」ことが問題だと言う。「『これは変だな』とモヤモヤを抱えながら、やりすごす力が増している。だけど、そこで声をあげることが大切。きっと入社したての頃は熱い思いがあったけど、それを何年も抑えつけてしまっていて……。そこから今、人間回帰するきっかけをもらえているんだと思います。だから、恥ずかしがらず『自分のピュアさをもう一度取り戻すチャンス』だとSDGsを捉えられるといいと思います。僕はビジネスが持つ、世の中を変える力を日々目の当たりにしています。だからこそ、企業がその力を少しシフトするだけで、社会に大きなインパクトを与えられると信じている。このワークショップを通して、そんな想いを持つ仲間を1社でも増やしていきたいです」
GOが実施するワークショップの情報はこちら。
写真:tomohiro takeshita
取材・文:midori ohashi