ユーロ危機にもかかわらず、ドイツ経済はすこぶる好調である。だがその一方で、ドイツは、お年寄りや失業者など社会の弱者に対し、社会保障制度によってしっかり手を差し伸べている。
バイエルン州の湖畔でくつろぐ、お年寄りたち。(筆者撮影)
連邦労働省が今年8月初めに発表した統計によると、昨年ドイツは、年金や医療費、失業給付金などの社会保障サービスのために、8500億ユーロ(119兆円・1ユーロ=140円換算)を支出した。これは、前年比で3.8%の増加である。ドイツの昨年の国内総生産(GDP)の伸び率は3.4%だった。つまり社会保障支出は、GDPを上回るスピードで増えているのだ。
ドイツの2014年のGDPは2兆9000億ユーロ(406兆円)だったので、この国はGDPの約29.2%を社会保障のために使っていることになる。この比率は、2009年にリーマンショックのために社会保障支出が増大したとき以来、最高の数字である。社会保障は、豊かな人々から貧しい人々に所得を再配分する上で、重要な役割を果たす。
さらにドイツの所得税制も、富の再配分に一役買っている。ドイツ経済研究所(IW)によると、毎月の手取り所得が2500ユーロ~3000ユーロ(35万円~42万円)の家庭では、所得税や社会保険料として毎月758ユーロ(10万6120円)を国家に対して払っている。
これに対し、毎月の手取り所得が1万ユーロ(140万円)を超える富裕層では、実に毎月8470ユーロ(118万5800円)もの税金や社会保険料を払っている。低所得層の11倍の負担である。
ミュンヘン市内にて。(筆者撮影)
毎月の手取り所得が1万ユーロを超える富裕層では、税金や社会保険料の負担が、国から年金などで受け取る分を7845ユーロも上回っている。これに対し、毎月の手取りが1000ユーロ(14万円)未満の家庭では、国からの資金援助が所得税や年金負担を476ユーロ(6万7000円)上回っている。
ドイツ政府はこのように富裕層への課税を強化することによって、所得格差の軽減に力を入れているのだ。ドイツが、自由放任主義をとる米国と、最も大きく異なる点である。
日本では「シュレーダー改革で社会保障制度を削減したので、ドイツ経済はうまくいっている」と誤解している人がいる。実際には、シュレーダーは社会保障制度の行き過ぎた部分を是正し、市民の自己負担を増やしたが、同国の社会保障の水準は、日本や米国よりも高い。
したがって、私は日本で社会保障の水準を現在よりも下げることには、反対である。
保険毎日新聞掲載の原稿に加筆の上、転載。
(ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de