「女性としての、女性ならではの感性や共感力を十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」
9月13日に発足した第2次岸田第2次改造内閣を巡り、岸田文雄首相の記者会見での発言が波紋を呼んでいる。
発言は、過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を誕生させた理由について問われた際に出たもので、Xでは「女性ならでは」がトレンド入り。「使い古されたステレオタイプな表現」などと批判されている。
では、「女性ならでは」といった表現はなぜ問題なのか。
新聞労連の専門チームがまとめた著書「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(2022年)からポイントをまとめる。
「女性ならではの感性や、あるいは共感力」
第2次岸田第2次改造内閣では、上川陽子氏(外務大臣)、土屋品子氏(復興大臣)、加藤鮎子氏(内閣府特命担当大臣・少子化対策)、高市早苗氏(同・経済安全保障)、自見はなこ氏(同・地方創生)がそれぞれ就任した。
5人の女性閣僚は過去最多タイだが、この数字は第1次小泉内閣(2001年)、第2次安倍改造内閣(14年)と変わらない。
岸田首相は9月13日の記者会見で、内閣改造の実施を報告。
冒頭、 「新しい時代を国民の皆様と共に創っていく『新時代共創内閣』である」とした上で、女性閣僚をこう紹介した。
「こども・子育て政策や女性活躍は、こども・子育ての当事者でもある加藤鮎子さんに担当してもらいます」
「土屋品子復興大臣には、女性ならではの視点を最大限にいかし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらいます」
さらに、フジテレビの記者から「5人の女性閣僚を起用した考え」について聞かれると、次のように回答した。
「あくまでも適材適所。我が党の中に女性議員は少ないという指摘があったが、より増やしていかなければいけないという問題意識は認識している」
「現在活躍している女性議員もそれぞれ豊富な経験を持ち、優秀な人材はたくさんいる。今回、経済、社会、外交・安全保障の3つの柱を中心に政策を進めていくために活躍できる方を選んだ」
「ぜひ、それぞれの皆様に、女性としての、女性ならではの感性や、あるいは共感力、こうしたものも十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待したい」
ジェンダー表現ガイドブック
この「女性ならではの感性」はXでトレンド入りし、ジェンダー平等の観点から発言を疑問視する声も多くみられた。
では、岸田首相の発言の問題点は何か。新聞労連の「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」から確認する。
このガイドブックは、日本のジェンダー平等に強い危機感を感じている現役の記者たちが執筆。
「女性らしさ」などという表現を使ってきたメディアの反省点も踏まえ、ジェンダー表現のリテラシーを社会全体で高めることを目的としている。
ステレオタイプの助長や無意識の偏見
まず、岸田首相の発言であった「女性ならでは」という表現については、「『女性ならできて当然』というステレオタイプな考え方を助長する」と指摘している。
例えば、育児関連商品の開発談で「女性ならではの発想」、女性管理職について「女性特有の気配り」といった表現がある。
しかし、これらの表現は「女性は育児をするもの」、「女性は気配りしなければならない」というステレオタイプな考え方を助長してしまう。
そして、たとえ発言した人に差別する意図がなかったとしても、「無意識の偏見をばらまき、追認している」ことにつながるという。
これは「マイクロアグレッション(微細な攻撃)」と呼ばれており、「使う側に差別的な意図はなくとも、現状の差別的な状況を追認し、多くの人を苦しめる土台となってきた」と指摘している。
つまり、「女性ならでは感性」という岸田首相の発言自体が、現状の差別的な状況を追認し、ステレオタイプな考え方を助長していることになる。
このようなことから学ぶことは何か。
ガイドブックでは、「自分も当事者の視点が必要だ」と訴えている。
ジェンダーは性別に関係なく、誰もが当事者となるテーマだからこそ、男性も自分事として考えていかなければならない。
また、意思決定の場に女性がいる割合も重要という。
ある結果を得るのに最低限必要な数「クリティカルマス」という言葉があるが、組織の中での比率が3割を超えた時に主張が実現すると言われている。
日本政府が「指導的地位の女性比率を30%」という目標を掲げているのも、このためだ。
なお、第2次岸田第2次改造内閣では、19の閣僚ポストのうち女性は5人。26%で、3割に達していない。
ガイドブックの編集チームは「多様な視点が確保されれば、一人一人の『らしさ』が大事にされ、暮らしやすい社会につながる。だからこそ、男性優位組織の過去の成功体験に基づいた構造を変える必要がある」と言及している。