エン・ジャパンには、誰に聞いても「あの人活躍しているね」と言われる女性社員がいる。
瀧本恵美さん。人材活躍支援事業部で営業マネージャーを務める女性です。
今年の4月には、2018年度社長賞年間MVP(*)を受賞。壇上で「めっちゃ仕事が好き!」と笑顔で語る彼女の姿に、思わず「カッコいい」と口にした社員も多いのではないでしょうか。
こんなに高い成果を出し続けているのだから、やっぱり入社時から異彩を放っていた…?
「ぜひ新人時代のお話を伺いたいです」と伝えると、返ってきたのは「誰が見ても“できないヤツ”でした」という意外なひと言。「1年目は特に暗黒時代(笑)每日辞めたいと思っていました」
──暗黒期とはいったい…?ツライ日々は、どう乗り越えてきたの?
もがきながら見つけたのは、「自分を主語にすること」と「好きを強みに変えること」の大切さ。敏腕マネージャー、瀧本さんの知られざる奮闘記に迫ります。
(*)社長賞は、四半期に一度、シンボリックな活躍をした社員に贈られる賞。中でも「年間MVP」は、1年間で最も活躍した社員に贈られる。
何がダメなのか分からない…「考えていない」と言われ続けた日々
2004年4月。50名を超える同期とともに、エン・ジャパンに入社した瀧本は、すでに「この職場には馴染めないかも…」と不安を抱いていた。
「みんなハキハキしていて、とにかく元気。特に私のいた大阪オフィスはまさに“体育会系”な雰囲気。一方私は、高校は茶道部、大学は引きこもりのゲーマー…(笑)。
『どうしよう、このノリきついな』と少し冷めた目で周りを見ていました」
「営業はモノを売る仕事だ」くらいにしか思っていなかった、と当時を振り返る彼女。
「今日は何件電話をかけましょう」「商談ではこれを聞きましょう」と先輩に言われたことをその通りにやろうとしても、なんだか上手くいかない。同期が次々と初受注を迎える中、自分にはその気配すらない。やっと受注できたのは6月。同期の中ではビリだった。
「成果が出ないこと以上に、とにかく『考えていない』と每日怒られていました。
例えば求人広告の制作に必要な情報を集めに企業へ取材に行ったとき。会社に帰ると上司から『こんな調べれば分かる情報だけじゃ原稿は書けないよ』と言われました。でも私は『言われたことは聞いてきたのにな…』と思うわけです(笑)
取材をやり直してこいと言われても、『これ以上怒られたくないから行く』という感じでしたね」
挙げ句、企業から「担当営業を変えてほしい」と依頼されることも多かった瀧本。
彼女の様子は、同期にも心配されるほど。さらには、上司や先輩が集まって「どうしたら瀧本が仕事に興味を持てるのか」と話し合う姿を目にしてしまったこともあったという。
「私なにやってるんだろうって、本当に申し訳なくて仕方なくて……。ただ、何が悪いのか、自分でもよくわからなかったんです。
目標に従って行動して、先輩に言われた通りに商談して。言われたことはこなしていたので、自分なりにがんばっているつもりでした」
何をしても上手く行かず、とにかく毎日つらい。常に「辞めたい」と思っていたと、一つひとつ思い出しながら語る彼女。
「でも、辞めると言ったらまた上司にも怒られそうだし……。とにかく『怒られない』だけをモチベーションに働いていた気がします」
「朝礼」の仕事が教えてくれた、私に足りないもの
なかなか状況を変えられない瀧本。ついに、それまで続けてきた営業活動をストップし、1人だけ別のミッションを渡されることとなる。
「事実上の“左遷”です(笑)それを発表された時、もはや周囲は爆笑してましたよ。多分上司は、業績はダメでも何かこの子に仕事を渡してあげないと、と思ったんでしょうね」
彼女に渡されたのはこの3つの業務。
・朝礼の司会
・長期間放置され、荒れた棚の整理
・中国・四国エリアの新規開拓(当時は営業エリア外)
これらの仕事は上司が細かく進捗を管理しないため、自分でやり方を考えて動かなければならない。特に頭を悩ませたのが、朝礼の司会だった。
「前日の業績を賞賛し、営業活動に活かせる学びや気付きを発表することで、みんなの士気を高める重要な場。成果を上げている人が話せば説得力があるのですが、私はそうじゃない。いったい何を話せばいいのか……困ってしまいました」
そこで思いついたのが、“開き直り”とも言える「失敗事例の共有」や「相談ごとの共有」。
「先日、上司からこんな風に怒られてしまったんです…」
用意した話を披露すると、意外にも場は盛り上がりを見せた。「瀧本って話上手やな」。そう声をかけてくれる人もいたという。
入社以来初めての「上手くいった」瞬間だった。
「そこで、なんで褒めてもらえたんだろう?って考えてみたんです。思いついた理由は、“ちゃんと考えて臨んだ”ということ。
自分だったらどんな話ができるか、どうしたら面白いと思ってもらえるかを、じっくり考えて挑みました」
そこで彼女は、あることに気づく。
「思えば、今までの仕事には“自分の考え”が全くなかったんですよね。先輩に言われたから、上司に怒られたくないから。クライアントがこう言ったから。いつも主語は自分以外の誰かでした。
人の言うことを聞いて動くことが、仕事だと思っていたんですよね」
私だからこそできる、戦い方がある
朝礼当番の仕事を通して、「自分の考えを持つことで、仕事を楽しめるかもしれない」と思った瀧本。朝礼以外の業務でも、まず自分で考えることをクセづけていった。
たとえば棚の整理にしても、目的は?どうなっているのが理想?現状はどう?何をしたらゴールに近づける?と、時間はかかっても一つずつ考えてみる。自分一人でできないなら、誰かに協力を得る。
同時に彼女は、「自分は何に興味を持てるのか?」を知ることの重要性にも気づく。
「まず興味を持てなければ、『どうしたい』と自分の意思を持つことは難しい気がしたんです。例えば私が商談や取材で必要な情報を聞けていなかったのも、正直に言うとあまり興味の持ち方が分からなかったんですよね。
自分の場合、他の営業メンバーに比べて『クライアントに喜んでもらいたい』とか『どうしたら担当者の役に立てるか』みたいなことにあまり関心が持てなくて……。
でも、『どうしたらこのクライアントが競合に勝てるか』『業界のシェアをひっくり返せるか』には興味が湧きました」
そこで瀧本は、担当している業界の構造を徹底的に調べ上げ、競合がどんな動きをしているかマーク。業界の専門誌を読み漁り、商談のたびに戦略を練った。
「商談先で『君くわしいね』と言ってもらえることも増えました。自分の頑張りを認めてもらえて嬉しかったし、純粋に、ここを攻めれば勝てるぞ!みたいなことを考えるのがすごく楽しかったんですよね」
「ほら私、生粋のゲーマーなので(笑)」と、彼女は笑った。
「興味を持てることって、必ず強みに変わっていくと思います。
皆と同じようにやって上手くいかないことでも、戦い方を変えるだけで同じ、もしくはそれ以上の成果を出せる。
営業なんてまさにそう。結果が同じでも、プロセスは十人十色。私ならここに力を入れれば上手くいく、と分かっただけでも、だいぶ仕事がしやすくなりましたね」
結果、左遷業務だった「中国・四国エリアの新規開拓」でも大手企業を受注。流通・小売業界の開拓を専任で任されるなど、徐々に大きな仕事を任されることも増えていった。
自分の興味に火をつけ、ひたすらそこを伸ばした瀧本。 入社2年目を迎える頃。気づけば「仕事を辞めたい」という気持ちはなくなっていた。
強みは、誰にでも必ずある
マネージャーとして活躍する今、「強みがない…」と戸惑うメンバーと向き合うことも多い瀧本。そんなときは、メンバーに「何をしている時が楽しい?」と聞いてみるそうだ。
「“強み”と言われると構えてしまうし、答えられない人のほうが多いと思います。でも、何をしている時が楽しいのか、何に興味があるのかを聞くと、意外とスルスル答えが出てくるんですよね」
「強みはいきなり見つかるものではなく、楽しい、好きだ、が“強さ”に変わっていくんじゃないかな」
また、周囲から褒められたポイントがあれば謙遜せずに認めることも大事、とも教えてくれた。
「どうせ社交辞令でしょ。またまた~と思う気持ちもあるけれど。他者の声から自分が見えてくることもあります。私も、朝礼当番で『話が面白いね』と言われて、初めて『私って話が上手いんだ』と気づきました。
自分で強みを認めてあげれば、自然ともっと伸ばしていこうと思える。弱みばかりに目を向けず、自分の良いところをきちんと受け入れることが自信へとつながっていくはずです」
左遷というまさかの経験を経て、強い自分に出会えた瀧本。
「本業じゃなくても、フィールドやミッションを変えたら、今まで分からなかった自分の魅力に出会える可能性が広がる。私自身がまさにそうでした。
『お前は朝礼当番や!』なんて言われる人、もういないと思いますけどね…(笑)」
【編集後記】
切れ味バツグンの印象とは裏腹に、「仕事に興味がなかった」という意外な新人時代のエビソードをご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
印象的だったのは、自身の働きを“ゲーマー”と例えるお話。
「私にとって、仕事とはミッションクリア。与えられたミッションをいかにクリアできるか。それは、RPGのステージに乗せられて、どうやってゴールまで行くかを考えるのと一緒なんです。
どのルートを行くのか、どの武器を使うのか……そんな試行錯誤こそが面白いんですよね。私は、人生をかけてハマってるゲームとして、仕事を楽しんでいます(笑)」
自分の好きという気持ちを仕事に引き寄せて、毎日を楽しく過ごすことの大切さ。明るくパワフルな瀧本さんから教えていただいた、いちばんの学びです。
【取材・文:中村久仁子 / 編集・撮影:長谷川純菜】