今までも何回か書いている音の商標の件(過去記事1、過去記事2)、一般メディアでも数多くカバーされています。たとえば、産経新聞の記事では以下のような記載が見られます(この「知財専門家」とは私のことではありません)。
音の商標では、芸人の一発芸など楽譜にならない音も商標としての用途が認められれば登録対象になるが「出願が出てくるかは未知数」(知財専門家)。
確かに音の商標はMP3音源と言葉による説明があれば楽譜がなくても出願可能であり、識別性等その他の要件が揃っていれば商標登録は可能です。問題はそれに意味があるのかということです。
例として、日本エレキテル連合の「ダメよ〜ダメダメ」の彼女達自身による音声を商標登録出願したとしましょう(もう古いですがあくまでも例なので)。事務所による正規の出願であれば登録される可能性は高いと思います(厳密に言うと、森進一の「年上の女」の作詞家の著作権との抵触なんて話があるかもしれませんがクリアーされたものと仮定します)。
しかし、仮に無事登録されて商標権が生じたとしても、これによって他の芸人が「ダメよ〜ダメダメ」のネタをパクるのを禁止することは困難です。
商標権は、特定の言葉やマーク(そして、音声)の使用全般を独占できる権利ではありません。それらの言葉、マーク、音声を商品やサービスの標識として使用できる権利です。これはなかなか説明しにくいポイントなのですが、「hogehoge印の(商品名またはサービス名)」と言ってすっきりするようであれば、hogehogeは商標として使用されていると言えます。
たとえば、「ダメよ〜ダメダメ」の音声商標がアイスクリームを指定商品として登録された(いわゆるタイアップ商品的なケースです)とすると、他人が「ダメよ〜ダメダメ」と似た音声を使ってアイスクリームのCMをしたり、販売したりすることを禁止できます(つまり、「ダメよ〜ダメダメ印」のアイスの販売等を禁止できます)。なのでタイアップ商品の模倣を防ぐ点では意味があります。しかし、他人が、芸の中で「ダメよ〜ダメダメ」と口に出すのは商標としての使用ではないので、そもそも商標権の及ぶ範囲ではありません。
ではネタのパクリを防ぐ他の手立てはないかというと、ある程度長いネタであれば言語の著作権(ネタによっては舞踊の著作物)として保護される可能性はありますが、一発芸だとちょっと厳しいと思います。結局、知財うんぬんではなく業界における礼儀に帰着する話ということでしょう。
(2015年4月10日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)