ゲイがバレて同僚から暴力、そして路上生活へ。LGBTの住まいを支援する「虹色ハウス」の実践報告

ゲイ・バイセクシュアル男性、トランスジェンダーの方を対象とした「LGBT支援ハウス」(虹色ハウス)とは?
Soshi Matsuoka

参加者数が20万人を突破した東京レインボープライド2019。パレードでは約1万人がレインボーに彩られた渋谷の街を行進した。沿道から投げかけられる「Happy Pride!!」という祝福の声に、勇気付けられた当事者も多いのではないかと思う。

この社会には、すでに多様なジェンダーやセクシュアリティの人たちが共に生きている。年に1回の華やかなパレードの影には、日々の生活に不安や困難を抱えるLGBTの当事者も多くいる。代々木公園の会場を出ても、そもそも東京レインボープライドに来ない・来ることができない人も、性のあり方にかかわらず、今生きているその場所で安心して生きられる社会を作っていきたい。

「LGBTx貧困→ハウジングファースト〜虹色ハウスの実践報告〜」の登壇者


今月6日まで、東京レインボープライドの「PRIDE WEEK」期間には、関東を中心にさまざまなイベントが開催されている。

今月1日、東京都中野区で開催された「LGBTx貧困→ハウジングファースト〜虹色ハウスの実践報告〜」では、LGBTの当事者で貧困により住む場所を失ってしまった人に、一時的に住まいを提供するプロジェクト「LGBT支援ハウス」(通称:虹色ハウス)の実践報告が行われた。

ゲイであることが職場でバレてしまい、寮の同居人から暴力をうけ路上生活になった方への支援や、親の暴力から避難しているトランス女性の学生への相談対応などのケース紹介に加えて、このプロジェクト自体を今後どのように継続させていくかについて議論が行われた。

中野区のマンションの一室から提供開始

「虹色ハウス」の構想は、約2年前にこの東京レインボープライドのウィーク期間に開催した、LGBTと貧困をテーマにしたイベントをきっかけにスタートした。

「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」の生島嗣さんによると、日頃からLGBT関連の相談や支援を行なっている複数の団体で連携し、昨年7月に実施したクラウドファンディングで募った資金をもとに、今年1月から実際に住まいの提供をスタートさせたという。

「クラウドファンディングでは、191人の方々から150万円以上の支援をいただきました。このお金で、物件をどのように運用するかを話し合い、昨年12月17日に中野区内のマンションを借りることができました。本当にみなさんのご支援のたまものだと思っています」

入居候補者へは、住まいの有無や、現在のお金の状態、相談できる人がいるかどうかなどを聞き取り、入居者を決定しているという。女性の場合、シェルター等の保護施設があるが、男性の場合、利用できる施設が少ないことなどから、主にゲイ・バイセクシュアル男性やトランスジェンダーの方を対象としている。

LGBTハウジングファーストを考える会・東京のスタッフで、HIV/エイズに関する支援を行うNPO法人ぷれいす東京代表の生島嗣さん

最大のメリットは「住所を使うことができること」

生島さんによると、虹色ハウスへの相談は、本人から「助けて」と連絡がくるわけではなく、本人の周りにいる人たちが代わりに連絡してくるとことが多いという。そこから本人を繋げてもらい面談をする。

候補者への聞き取りの際は、本人の連絡先を必ず聞いている。しかし「電話がすでに通じないという方がほとんどです」と生島さんは語る。

「お金の点では、所持金が数千円のみという方が多いです。また、携帯電話が通じないことも多く、例えばwifiを利用すればメッセンジャーサービスなどを使ってのやりとりができますが、生活保護を申請したいにも、担当者は残念ながらそういったサービスを利用した対応ができないので、固定電話や携帯電話がないかと聞かれてしまいます。なので、私たちを経由して本人と連絡をとるということもあります。

不動産を借りる際や、銀行口座を開設する際にも、実は携帯電話番号が必要なため不都合が生じます。私たちがスタッフ用に借りている携帯を本人に貸すということも現在検討中です」

実は、虹色ハウスの最大のメリットは家に住むこと自体ではなく「住む場所がない人がその住所を使うことができる点」だと生島さんは話す。

「例えば行政で生活保護の申請をする際にここの住所を使うことができます。すでに虹色ハウスを利用した3人中の2人が生活保護の申請をしており、私たちも申請をサポートしています」

あくまで虹色ハウスは一時的な住まいであるため、入居者は基本的に3ヶ月以内に自立することが前提だ。最初数千円の所持金しかない人も多いため、1〜2週間程度は無料でいれるという原則にしているという。

「とくにメンタルの課題や依存症、HIV陽性の場合は、過去の受診歴があっても貧困の状態で治療を中断してしまっていることが多いです。医療に再び繋げるといったことや、行政との接続、就労のサポートも行なっています」

同僚からの暴力により路上生活へ

1月末から入居が開始した「虹色ハウス」では、すでに3人のゲイの当事者に対し住まいを提供した。

最初に入居が決定したのは、職場内で男性からセクハラを受けたゲイの男性。工場など住み込みの短い派遣の仕事を転々としており、男性からのセクハラを受け会社に申し入れをしたが適切な対処がなされなかった。結果、職場から逃げることになり同時に住まいを失ったという。

「自分はゲイで、経歴にブランクもあり、後ろめたい思いを抱えてきました」と本人は語っている。現在は寮付きの仕事に就職し自立することができたそう。

その後入居した方は、職場の寮でゲイのマッチングアプリを開いていた所を目撃され、寮の同室者からの暴力、職場でのいじめがはじまった。友人宅に身を寄せていたがその後路上生活になった所から虹色ハウスにつながったという。また、HIVの治療も中断していたが再び通院を開始した。

3人目は、海外で長らく生活していた方だった。本人の友人から連絡があり、帰国支援を行なった。本人はHIV陽性だが治療は中断中。「ぜひ直接私たちへ連絡するよう伝えてください」と友人の方から連絡してもらったという。

「虹色ハウスに入居し、医療機関に繋げた所、すでに免疫力が非常に低い状態で、これ以上は危ないかもしれないという所でした。良いタイミングに帰国し虹色ハウスに繋がることができました」

虹色ハウスで貸し出している部屋の様子

1月末から入居を開始し、1ヶ月に1人ずつ利用していくというのは、生島さんたちが当初予想していたペースよりは早かったという。

「(ペースが早かったことに)加えて、入居者の間に隙間がほとんどない状況です」それだけニーズがあるという現実だ。一方で、その裏には部屋が空いていないため断ることになったケースもあった。

「入所には至りませんでしたが、相談があったものとしては、例えばトランスジェンダーの子が親から暴力をうけたという相談がありました。MtFの学生で、親から暴力を受け、友人宅に避難していた際に友達経由から連絡が入りました」

その他にも、自殺未遂のあと精神科に入院することになったことで、賃貸の家に住み続けられなくなったゲイの男性から相談があったという。退院しても家族と疎遠だったがため戻る家がなく、治療の際にHIV陽性であることがわかり支援に繋がった。

施設から利用を断られてしまったトランスジェンダー

大阪市でシェルターや相談支援などを行なっている「特定非営利活動法人いくの学園」のスタッフの方からは、特に子ども若者への支援の現場について話があった。

「学園には、これまで数人のトランスジェンダーの人が来てくれました。DV防止法も、同性パートナーやトランスジェンダーに対しても一時保護ができるようになったり社会は明らかに変化してきています。しかし、まだまだ制度が想定できていない人もいます」

スタッフの方によると、日本社会で未成年の子どもが置かれている状況に特に懸念があるという。

「例えば、未成年では契約できない携帯電話というのは、もはや一つの信用情報です。家も借りれないし、銀行口座も作れない。弁護士が子どもをサポートしている施設もありますが、例えば親から隠れて生活しなければいけない状況で、どのように安全に生きていくか、どこにも支援に繋がれていない人をどう受け止めるかが重要です」

障害があるトランスジェンダーの人を障害福祉の施設に繋げようとしたが、トランスジェンダーであることを理由に何件も断られたこともあるという。利用者どうしの関係は良好でも「対応の仕方がわからないからと断られてしまいます」

制度を利用したい人もはねられてしまう現状の中で、今後どう支援につないでいけるかも課題だという。

共催団体である「プライドハウス東京」代表、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さん

虹色ハウスをどう持続的なものにするか

虹色ハウスの課題は、今後どのようにこのプロジェクトを継続させていくか。特に運営の費用についてどう持続的なものにしていくかを考えていく必要がある。第二部では、ファンドレイズや様々なセクターの人たちの巻き込み方について議論があった。

共催団体であるプライドハウス東京の松中権さんは、生島さんに声をかけられたことから虹色ハウスに関わり、主にクラウドファンディングやメディア発信のサポートを行なうことになった。

「ミーティングに参加して、自分が全く問題について見えていなかった、こんなに困難な状況がたくさん起こっているんだと衝撃を受けました。転がり落ちるように自分の生活が負のスパイラルに入っていくケースを聞いて、これはもしかしたら自分がそちら側にいたかもしれないと思い、このプロジェクトの支援だけでなく、もっとこの問題自体を知ってもらうための発信をしなければと思いました」

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛さん



寄付者の価値観と現場の価値観の違い

「そもそも住まいも基本的な人権であるというのを前提に、無条件に住まいを提供するということをハウジングファーストと言います」と、生活困窮者の支援を行なっている一般社団法人つくろい東京ファンドの稲葉剛さんは話す。

「従来型の支援ですと、施設に入っている間は管理的な生活指導が入りますが、施設を出るとほったらかしというのがよくあります。ハウジングファーストでは、本人から拒否されない限りエンドレスで支援は続きます。実際に長く付き合ってみないとその方が抱えている課題が見えないからこそ、最初から住まいに入ってもらって、地域でサポートするということが大切です」 

ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京委員会ヴァイス・チェアの柳沢正和さん


一方で、こういった支援のあり方はスタッフの人件費などコストもよりかかってくる。

国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ東京委員会ヴァイス・チェアの柳沢正和さんによると、「ヒューマン・ライツ・ウォッチでは個人の寄付は全体の過半を占めています。クラウドファンディングは継続的な寄付を集めるのは難しく、事業を継続させるためには、いかに大口の篤志家や財団にアクセスしていくかが課題なのではと思います」と話した。

それに対して稲葉さんは「大口の寄付が多い場合、その寄付者の価値観と現場の人たちの価値観の違いを注視する必要がある」と話す。

「生活保護制度は最後のセーフティネットと言われていますが、必要な人の8割がこぼれおちている状態です。制度をもっと使いやすくしつつ、支援につないでいく必要があります。
しかし、世間的な価値観では、なるべく生活保護を使わないでコストを下げた方が良いと思われがちです。寄付者もその価値観を持っている人が多いと思うので、それによって現場の論理が歪められないよう、見せていく部分と守らなければいけない部分のバランスを考える必要があると思います」

さまざまなセクターの連携と言語の使い分け

課題解決のためには、さまざまなセクターの団体や個人が連携していく必要があるだろう。プライドハウス東京の松中さんは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機として、NPOや企業が連携してLGBTについての情報発信やコミュニティ支援を行う「プライドハウス東京」というコンソーシアムを作った。

つくろい東京ファンドの稲葉さんも、支援現場に関わる7つの団体と共同で「東京アンブレラ基金」を立ち上げた。それぞれの団体の支援現場でネットカフェ代など緊急の宿泊費を支援した場合に、東京アンブレラ基金から一部拠出できるような仕組みをつくろうと、現在クラウドファンディングを実施中だ。

クラウドファンディングは最初の資金集めだけでなく、支援者や仲間を集めるという意味でも有効だ。しかし、そこからさらに持続的な活動をしていくためには継続的な寄付などのファンドレイズが必要になってくる。

関心を持ってお金を出してくれる人たちと、現場で当事者に向き合う人たちとの間の言語を一致させたり、時には使い分けたりすることで、継続的な寄付を募るシステムを構築する。それが持続的な支援体制の上で鍵となってくるのではないだろうか。

2019年5月4日fairより転載)

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